ほら吹き男と少女
あるところに、嘘ばかりを言うほら吹きな男がいました。
男の名はアラムといい、ある日、道を尋ねた老婆にいつもの通り嘘の道を教えました。
湖の近くに生息する薬草を探していた老婆は、山で迷い、嘘を教えられたことに気がつきます。
老婆の正体は魔女で、彼女は彼の嘘に怒り、呪いをかけました。
嘘をつけない呪いをかけられた彼は、二度と嘘を言えなくなりました。
けれども、人々は彼の話を信じませんでした。
「あいつは、いつもお金が無いといって困った振りをしているが、家の床の下には銀貨が埋まっている」
「あの奥さんは淑やかにしているが、旦那がいないときに男を連れ込んでいる」
アラムは見た事や聞いたことを話しましたが、村人の誰も信じませんでした。
そうして、とうとう彼は村を追い出されてしまいました。
行くところがない彼はとりあえず森を抜け、街に辿り着きます。
街にはたくさんの屋台が出ていましたが、お金を持っていないアラムは腹をすかせてながらもその美味しそうな匂いを嗅ぐ事しかできません。
そうして歩いていると、綺麗な服を身につけた少女と下男らしく清潔だけど質素な服を着た男に出会いました。
少女は薄汚れたアラムをさぞかし嫌そうに見ましたが、持っていたパンを分け与えました。
それから、住むところがなければ屋敷にくればよい、とアラムを屋敷に招きます。
住むところも、働くところもなかった彼は有難くその誘いに乗り、アラムは少女の家で働くことになりました。
下男は庭師で、彼は庭師の弟子になり、屋敷に住み着きました。
嘘をつけないアラムは、正直者と評判がよく、気持ちをよくした彼はよく働きました。村で彼の様子を知っているものが見たらきっと驚いたでしょう。それくらい彼は変わりました。
そんなある日、彼は少女と街に出かけ、村の者に出会います。
その者は、アラムがその家の床下には銀貨が埋まっていると村人に正直に話し聞かせた男でした。男は少女の傍に控えるアラムに対して、嫌な笑みを浮かべます。
「お嬢さん、知ってるかい。こいつはとんでもない嘘つきなんだ。お嬢さんも気をつけたほうがいい」
以前は嘘つきであったが、呪いのこともあり反省しているアラムは慌てます。
「俺は嘘なんかついていない。こいつの家の床には本当に銀貨があったんだ」
「ほーらな。お嬢さん。こいつは嘘つきなんだ。俺のような身分のものが銀貨などもっているはずがない」
「私はアラムを信じます。それなら、あなたの家に行き、確かめましょう」
「あ……いいですとも」
少女の言葉に自信たっぷりに答えた男に対して、アラムは嫌な予感を覚えました。
彼が銀貨を見たのは、数週間前のことです。
きっともうどこか別の場所に隠しているはずで、見つかるはずないかもしれないと。
「お嬢様」
アラムが止めようとしましたが、男が嘘つきと繰り返すので、結局村に行くことになりました。
馬車を呼んで大掛かりになってしまい、アラムはどんどん心配になります。
「心配ありません。アラム。あなたが正直者であることは私が一番知ってますから」
少女はそんな彼に微笑んでくれましたが、アラムの心配がなくなることはありませんでした。
「ほら、確かめて下さんな」
村に着くと、男は自分の家に少女を案内します。
「それでは」
少女を下男とアラムに命じて、男の家のあちらこちらを探させます。
けれども銀貨どころか、銅貨も見つかることはありませんでした。
「ほらね。アラムは嘘つきなんだ。だから、お嬢さん。こんな男、解雇したほうがいい。それよりも俺を雇ってください」
男がそう言いましたが、少女は微笑むだけです。
「そのポケットに入っているのは何でしょうか?」
「ぽ、ポケット?」
男のズボンのポケットからなにやら紐のようなものが出ています。
焦ったのは男で、アラムはその紐で思い出します。
「それは銀貨を入れていた袋の紐じゃないか。銀貨はお前が持っていたのか」
「俺は知らない。なんでここに!」
「アラム。確かめて」
少女に命じられ、彼は男のポケットから紐を引っ張り出す。すると、じゃらじゃらと音がするじゃありませんか。
「なんで、ここに。俺は壷の中に隠して埋めたはずなのに」
男は逃げるように外に出ると、庭を掘り始めます。そしてそこに埋めたはずの壷を見つけ叫びました。
「ほらな。俺の銀貨はここにある。それは俺のものじゃない。アラム、お前また嘘をついたな」
誇らしげに男が言いますが、周りの村人たちは騒ぎ出します。
「やっぱりあいつは銀貨を隠し持っていたのか。貧しいフリをしてだましてやがったのか」
「アラムのいうことは本当だったんだね」
そうして村人たちは、アラムが嘘つきではなかったと口々に言い始めます。
「皆、俺は魔女から呪われて嘘をつけなくなったんだ。以前は嘘をついてすまなかった」
今は嘘をつけないが、昔は嘘をついていたのは事実でアラムは素直に村人に謝りました。
「アラム。よく言いましたね。これで私のおばあさまも安心するでしょう」
なんと少女の祖母は魔女だったのです。
彼女は最初からアラムが昔は嘘つきで、魔女の呪いで嘘をつけなくなったと知ってました。
最初は不信感をもっていましたが、彼の働き振りをみて、彼が心の底から改心したと思ったのです。
だから今回村人が話しかけてきたとき、彼女はわざと村人の誘いに乗りました。
「村を追い出して悪かったね」
「戻ってこないか」
村人はそう言いましたが、アラムは少女の傍で働くことが楽しくなっており、断りました。
その後、魔女により呪いは解かれましたが、アラムは二度と嘘をつくことはありませんでした。
(おしまい)
読了ありがとうございました。




