表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

一人娘ニーナちゃんVSねむねむ少年の独り言

 ちゅんちゅんという小さな鳥のささやきと、窓から照らす太陽さんのあったかい日差し。


 明るさに窓に背を向けてお布団で足をバタバタさせていると、おうちのかまどからとってもいい匂いが漂ってくる。

 

 他の家がどうかは分からないけど、私のおうちはこの焼きたてのパンの匂いが朝の目覚まし。

 目は開かなくても、体は勝手にふかふかベッドから跳ね起き、匂いの方へ動いちゃう。


 力いっぱい扉を開けたら、大きなテーブルには白くてピカピカな食器が並ぶ。

 

 そして目の前のキッチンには忙しそうにご飯を作る私の大好きなお母さん!


「おはようお母さん! 今日もとってもいい天気だね!」


 ニコニコ笑顔でお母さんに伝えると、お母さんもパン作りで大変なのにそうだねって返してくれて、なんだか凄く恥ずかしくなっちゃう。


「昨日の余りと、ニーナが自分で作った分あるでしょ? お母さんいまとっても忙しいから先に食べておいて」


 しっかりラジャー! と右手を額に当てて、今度は両手顔の前に合わせていただきます。

 まずはお母さんが作ったパンを食べようかなぁと手を伸ばし、大きくかぶりついた矢先、


「あ、忘れてた!」


 なんて大声を突然張り上げるお母さんのせいで、思い切り喉にパンを詰まらせてしまう。急いでコップの水を喉に思い切り流し込んで苦しくは無くなったけど、せっかくの大事なパンが半分無くなってしまった。


 ぷくぅっと頬を膨らませてお母さんにどうしたのかと聞いてみる。するとお母さんは私の隣の誰もいない部屋を指さして、


「昨日男の子を拾ったんだけど、様子を見てきてもらってもいい?」


 とお花に水を上げてきてみたいなトーンでいうものだから、考えが追い付かなくなってパンが手から離れて地面に落っこちてしまった。


「え、お母さん? ……お母さん?」


「なんかね、大きな音がしたかと思ったら、家の前に落ちてたの。だいじょうぶだいじょうぶ、顔はとっても優しそうだったから」


 前に「人を顔だけで決めちゃダメ」って言ってたのはお母さんだったと思うんだけど。


「早く早く、もう出かける支度もしないといけないんだから」


 てきぱき準備しながら私をせかしてくるお母さん。言うことを聞かない悪い子にはなりたくないけど、それでもやっぱり怖い。


 ドアを開けた先にほうちょうとかないふとかもって立ってたらどうしよう、私もお母さんもたいへんなことになってしまうかも。

 せめて宝物のぬいぐるみに抱き着きながらドアへゆっくり、ゆっくりと歩いていく。


 もちろん離れているわけじゃないから、どれだけゆっくり歩いてもすぐにドアの前に到着してしまう。


私の部屋と変わらない、木で作られたドア。私とお母さんはいつも同じ布団で寝ているから、入ったことのない、そしてなんでこの部屋があるのかも分からない、不思議な部屋。


「やっぱり怖いよう……なにか体を守れるものを……あ!そうだ!」


 ここで私はひらめいた! まわれ左でベッドルームに戻り、さっきまではおっていたもこもこ――布団を頭へ体へくるくるぐるぐる巻いて、体を守れるようにする。


「これでもし中の人がおそってきても布団で押し倒せばいいのだ~! ふふふふふ……!」


 布団の中でだいたんふてきに笑いながら大声を出し、自分自身を応援する。


 バランスを保ちながらえっちらほっちらドアの前に戻る。なんだか後ろから誰かの視線を感じるが今の私はむてきだから大丈夫。


 最後に大きく息を吸って~~はくぅ~~。そのまま勢いでドアノブを思いっきり回して、部屋の中へ突入する。


「とぉー! ニーナの登場だー! どこからでもかかってこ、こ、きゃぁ!」


 そんなテンションで入っていったものだから、足を布団で滑らせて、大きく前へすっころんじゃった……けれど! 布団のおかげで擦り傷なく倒れることが出来た。やっぱり布団は凄いや。


 念のため布団に潜ってその人の動きを確認するけど、特になし。お人形だけ左手で掴んで、布団にいるはずの男の子の姿を見ようと、布団からゆっくり抜け出す。


「まだ寝てるのかな……っと」


 ベッドの横までくると、すーすー音を立てながら眠っている男の子の姿。


「うーん……あんまり綺麗じゃないなぁ」


 ぼさぼさで泥で汚れた金髪からそんな感想が口から洩れる。やっぱり怖い人なのかなぁと少し背筋がピンと張るが、熟睡している男の子、いや少年、うーん……お兄ちゃんの表情はとても柔らかそうで、カーテンからもれる日差しとマッチしている。気がする。


 なんであれ気持ちよさそうに寝ているのは確かで、ひとまず襲われる心配は無くなり一安心。


「お母さーん! 寝てたけどどうしたらいい~?」


「うーん………………もう起こしちゃおうかな。こっちももう出かけるし。よし、じゃあ起こしちゃって~」


 アイアイさー!と大きく返答していると、なんだか後ろの布団がもぞもぞ動いている気がする。あれれ、今ので起きちゃったのかな?


「うん……んん……てんご……く……?」


「あ、ようやく起きた……のかな?」


 よくよく見るとうっすらと彼の目が開いていたかと思えば、まだまだ夢の中っぽい。それでもこの家が天国とは……うんうん、すごくいい。


 あと一押しで起きるかというところなので、お母さんへのげんじょーほうこくをおっきな声で叫ぶ。


「お母さん、起きたよー!」


 おなかを使って叫んだのちに、振り返ってお兄ちゃんを見ると、おおきなあくびをかきながらも上半身を起こしていた。驚きで跳ね起きるお兄ちゃんを期待して振り返ると、ひどく曖昧な体制で喉を唸らせていた。


 がっしりと体で包み込むように布団を抱きかかえながら、ベッドの端へ端へ、つまり私の方向へシーツをしわくちゃにさせながら近づいてくる。


「起きたいけど起きれない……わかるなぁその気持ち……おふとんと日差しが気持ちよすぎて全然離れられないんだよねぇ」


 勝手にうんうんうなずいていると、ちょうどお兄ちゃんの回転が止まり、半分閉じている目と目が合う。


「あー……あ……」


「あ、私に反応してるのかな。よしよし、起きてきてる起きてきてる!」


 ここでお兄ちゃんは目を擦り始め、段々と瞼が上がってきたように感じ取れる。


 そこまできてお母さんがぼそりと呟いていた言葉を思い出した。寝起きは人は正直になるものだって花瓶を壊して追及されたときに言っていたから、


「えーっと、ごほんごほん。お母さんからききました! なんで私たちの家の前で寝ていたんだか、説明してもらいましょーう!」


 びしぃっと指を指して、返答を待つ。するとお兄ちゃんはとても小さな声で、


「生きてたぁ……」


 と、回答になってないかいとうを口に出す。生きてたぁって、それは当たり前だと思うんだけど……大きくなったらそんなこと考えるようになるのかなぁ。


「ねぇー、聞いてる?どうしてうちの前にいたの? 教えてよ~!」


 何となく体を揺さぶって、もう一度答えを求める。するとお兄ちゃんは目をぱちくりさせながら私の方を見つめてくる。すると突然、


「か」


 とだけ、今回ははっきりと呟いた。


「か?」


 かって、なんだろう。かまきりにやられたとか? もしかして、怪盗にみぐるみはがされてあの長い長い坂のうえから投げられて遊ばれていたとか? ひぇぇ、やっぱり夜中は怖いなぁ。


 それでも私が見たこともない世界が飛び出してきそうで、なんだかワクワクしてきた。お兄ちゃんの口がまた開くのを待つこと数秒。

 お兄ちゃんはまたはっきりと声を出し、たった一単語だけ、私の耳へそっと投げかけてきた。


「かわいい……」


 と満足げに言い残すと、また布団を抱きしめた状態で寝息を立て始めてしまう。


「・・・・・・・・・・・・」


 ここにもし名探偵さんがいたならこのきーわーどだけでパパッと解決してくれそうなものだが、私は探偵さんじゃないからとんと検討がつかない。


 うーんと棒立ちになりつつ謎を深めていると、全ての準備が終わったのか、ようやくやってきたお母さん。


「ねぇ。お母さんって、名探偵?」


「名って程じゃないけど、ニーナよりは探偵に近いかなぁ。さてさて、謎は何かしら?」


「なんかね、お兄ちゃんが急にかわいいって呟いたあと倒れちゃったの」


「へ~……かわいいってつぶやいた……それで?」


「なんでそんなこと言ったのかなぁって。私、何で倒れたのか聞いたんだよ? それなのにかわいいって、答えになってなくない?」


 起こったことを詳しくお母さんに説明すると、ふーんとか言いながらお兄ちゃんのそばに近づき、額に手を当てる。心なしかお兄ちゃんの顔が赤くなってるような気もする。


「あれれ、拾ったときより熱が上がってる、いや凄い暑い! しかしなんで急に上がったんだろう……もしそういうことなら凄く純粋だなぁこの子……やっぱり寝起きが一番性格出るよね……」


 独り言を延々と呟くお母さん。でも熱が出てたとは知らなかった。大声を出しすぎたのを心の中で恥じていると、お母さんが私の前まで来て、色々説明してくれる。


「えっとね、ニーナの疑問はちょっと解決できそうにないんだけど」


 ないのになんでニヤニヤしてるんだろう。


「この子やっぱり熱が上がっちゃったみたい。看病したいんだけどお母さんはバザーでパンを売りに売る大切な仕事があるの。だからニーナ、あなたがこの子の面倒を見てくれる?」


「えぇ!?」


 と大きく声を出してしまい、急いで口を押える。突然のみっしょんに体をおどおどくねらせていると、


「大丈夫大丈夫、必要なものは行く前に全部用意しておくし、お昼ご飯も今から急いで作るから」


「そういうことじゃなくって! お母さん、このお兄ちゃんはいい人なの? 急に襲ってきたりしない?本当に大丈夫なの……? お母さんがいないと、心配だよぉ……」


 自然と涙が目にたまり、必死でこらえながらそう伝えると、お母さんは笑いながらぎゅーっと抱きしめてくれる。その後に私の顔を笑いながら見て、


「大丈夫。私の可愛い可愛い一人娘を見た瞬間にそんなこと口走ったんでしょう? そんな人が急に襲うだなんて逆に失礼なくらい。大丈夫、お母さんを信じなさい!」


 そう言い切って、早歩きでキッチンへ去るお母さんなのであった。


 


 

女の子の目線で書くのは難しいなぁ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ