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その柱の下で、彼は眠りこける

 もしまだあの男がいたら「こんなこと日常茶飯事ですよ」とか言ってそうだが、流石に反論する気も起きない。


 そのあまりの生々しさたるや。確かにあの路地裏で死に絶える人は何度か見ているが、こんなにも鮮やかに首が飛び、そこから血が、血が――


 考えれば考えるほど胸が苦しくなり、吐き出しそうになるので何とか無心でいようと思い込むが、あまりの衝撃で首が飛び散る光景が目に焼き付き離れない。

 

 必死で胸を抑え、喉を締め、何か体を支えられるものは無いかと人をかき分け探してゆく。


 しかし、周りを見渡しても自分と同じ状態の人は誰もいない。

 皆一様に空を向いているかと思えば、おしゃべりしている人もちらほらと見かける。見慣れているにも限度があると思うのだが。


 必死で口から汚物がこぼれそうになるのをこらえながら辺りをふらつく。

 方向感覚は消え、いろんな人にぶつかりまくっているような気がするがこの首のあたりまで到達しているものをぶちまけるよりはましだろう。


 ふらふら進んでいくと、ようやく人ごみから解放され、背中を預けるにちょうどよさそうな木の柱を見つけ、それに縋り付く。

 

 妙にざらざらとしているしなんだか足もねっとりしているような気がするし、人として嫌悪せざるを得ない匂いが充満しているような気がするがそんなことよりまずは一息つく方が先決である。


 空を見上げると、のっぺりとした灰色で覆われていた。雨は気付かぬうちに止んでいたいたようで、残り香のような雨粒がぽたりぽたりと自分の左側を垂れている。


「はぁ……妙に味があるな……雨にしては赤すぎるような気がするのだけれど」


 なんというか、脳が「絶対に認識したら死ぬ」とでも言いたげに、考えることを拒否していた。

 

 そんな現実逃避の間に何とか汚物を押し込み、正常な感覚へと戻ることに全てを賭ける。


 しばしそうしていると目の前を先ほど台の上に立っていた黒ローブ――もう死神って言おう――がゆっくりと物陰から飛び出してきた。


「夢だったんだよ、うん。全部夢なんだうん。起きたら路地裏起きたらおいしいご飯が目の前に」


 ついに現実逃避から全部夢見にスケールを上げていると、ちらりとこちらをみた死神が、そのままこちらへ歩いてくるのを認識。それでもなお夢だ夢だと虚勢を張り続ける自分。


 つい無視しようと思っても無視できないところまで近づかれ、息を飲むと同時に先ほどの吐き気がまた戻ってくる。

 何か一言言ってくるのかと思いきや、無言で自分の左にある何かを持ち上げ、見せつけてくる。


 そこにあるのは新鮮にもほどがある生首。目隠しも外れていて、苦悶の表情と垂れる鮮血否応なく目に入ってくる。


 その瞬間。もう駄目だと悟った自分は目の前にある真黒なタオルであってほしい何かに思い切り、


「お゛う゛ぇ゛ぇぇ」


 ぶちまけてしまった。もう何も言うことは無い。





「あぁ、お星さまが綺麗だなあはははは」


 もう一日に起きた出来事がてんこ盛り過ぎて、脳みそが正常に働かなくなってしまっている。


 職が手に入ったかと思えば何をすればいいのか分からない、んでもって人が死ぬところをまざまざと見せつけられた上、目の前で生首がふらふら踊る……考えただけでまた吐きそうになってくる。


 時刻はさっぱりわからないが、ぼうっと空を見つめるうちに夜になっていたようである。

 

 もうさっさと愛しの路地裏へ逃げ帰り立ちところではあるのだが、体がそれを許さない。頭だけでなく、突然動きに動いた反動で足まで筋肉痛に蝕まれている。今日はここで寝泊まりするしかないだろう。


 ざらざらしている柱の背後、台の下に転がり込み、すぐさま目を閉じる。

 もう今日はただ寝たい。寝るだけ寝て起きたらすべて忘れているなんてことないかなぁとすでに夢うつつ。


 明日はもうちっといいことがあるよう祈りながら、ゆっくり夢の世界へ入り込んでいくのであった。





 朝。あまりのうるささに眠たい目を擦りながら体を上げると、その先から大量の足が見える見える。


 嫌な予感がして目を閉じていると、前方で何かが音を立てて落ちてくるのが分かる。


 とりあえず一つ言えるのは、


「現実って本当に辛辣」


 それくらいなのであった。

あぁ、壊れてしまった……

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