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その日、少年は(無理やり)天職(変なおじさんが言うには)に出会う

 こうも雨ばかりだと、何のやる気も出なくなってしまうなぁとぼやきつつ、狭くてぬかるんだ道を歩いてゆく。

 

 何処か行きつく先がある訳でもない。とにかくこの激しい飢えを抑えられるものを見つけられるまでは歩き続けるしかない。そうやって昨日と同じように入り曲がった路地を進んでいく。


 この汚い路地裏から出て大通りにでも向かえばそりゃあ色々美味しいものがあるのだろうが、残念無念体をひっくり返しても何の音もしない、つまりはちょっとの金も持っていない。

 

 土下座してお恵みをなどと叫んだところで相手にされないに決まっている。

 

 ちょっと前は分け隔てなく食べ物を渡してくれる人もいたらしいが、それに乗じて食事のお金をちょろまかそうとでも考えたのか、貧しくもないのに食べ物を貰うやつが増えに増えたため今では「そんな奴に上げるだけ労力お金善心の無駄無駄」という暗黙の了解が浸透している。


「そもそも与えるだけの貯蓄がないって人も多くなってきたのかな」


 ぶつぶつ言ったところで何がでるわけでもなし、黙々と歩いて歩いて探すしかない。食べれればなんだっていいのだ。かびたパンでも虫でも……流石にこれ以下は躊躇うけれど。


 力も入らず腕をぶらりぶらりと揺らしながら足を動かしていると、突然後ろから大きな声が響いてきた。

 何も考えずここの住民たちを見つめるのは何癖つけられて痛い目を見ることが多いのでそっと物陰に隠れて耳を傾けてみる。


「うわ、なんだこれ。糞まずい……訳じゃなく綺麗にできているのになんだ致命的に失敗しているような……」


「いや、単純にくそ甘くてくそ不味いぞこのパン。くそドヤ顔でくそ多い量手渡して来たくせにこのレベルはマジでくそ。今度見つけたらとっちめて……いや、くそみたいに目の前で叩き付けてやった方がいいかなぁ?」


 こちとら命の瀬戸際みたいな状況で食べ物を選りすぐっているのは心底いらいらしてくる。というか何あいつ。くそしかいえないのか? それなら糞でも食べてろってんだいと頭の中で罵倒する。


 しかしいい情報を聞いた。いつかは分からないがこの辺りでパンを配る人がいるとは知らなんだ。先ほど誰も配る人がいないと思った気がするが前言撤回、いやぁ現実はなんだかんだ甘いもんだと少し足取りが軽くなる。

 

 それだけ財がある人がこんな溝鼠がわんさかいるところに入ってくるわけがない……はずなのでこの路地の出入り口辺りにその聖人はいるのだろう、いや絶対いる。そうとするなら善は急げだ、あの糞とくその前を素早く通りこの道と道路の境界へ半ばスキップしながら向かう。


 別にものすごく離れているわけでもなく、汚れているところを避けて左へ曲がって光がある方向へ向かえばすぐに到着できる。


「さて、それっぽいものを持っている人は……うーむ、いないかな?」

 

 そういえばさっきの二人組が「全部もらった~」みたいな旨を言っていたことを思い出す。こんな変な場所でパンを作ってるはずもないので、すぐに帰ってしまったのだろう。だろうだろうと推測ばかりで当たったり外れたりする変な日だなぁ。


 ともかく、無駄足に終わったわけである。予測ばかりではあるがこればっかりはなぜだか知らないが絶対にもらえるはずだと思い込んでいたため、ショックが地味に大きい。

 ぐぅぅとお腹が鳴る。もう動いて探すのも面倒臭く感じ、これ以上おなかを減らさないためにもとりあえず壁に背を当てて座り込む。


 外の世界を見ることをく忌避していたので、ほんの少しだけ見える世界がとてつもなく新鮮に感じられる。

 綺麗な鎧を付け警備に当たる兵士、雨だということを気にも留めていないのか商品をたたき売りしまくるお婆さん、優雅に街を歩く貴族……どれもこれも自分には縁遠い道を歩いている人ばかり。


 純粋にいいなぁと思う。この路地裏でもう何年くらい生活しているか覚えていないが、小さいころは確かにあの綺麗な場所で生活していたはず。

 自分もお金さえあればもう一度ここを出て家でも買って凄く柔らかいベッドを買って気持ちよく毎日を遅れるるのかななんて、妄想が膨らむ。


「でもお金さえあれば何だってできるもんなぁ、所詮お金なんだよねぇ」


 手っ取り早く集めるなら万引き強盗多々あれど、自らの脚力で逃げられる気がしない。それで捕まったら問答無用であの世行き確定である。法は強い。


 すると後は働いてお金をもらうくらいだろうか。でもこのご時世に雇ってくれる人なんているのだろうか。


「さっきのパンの下りみたいにいないかなぁそんな人。あぁ! お金が欲しい」


 大きめのボリュームで放った声はどこかへ突き抜け飛んで行ってしまった。でも意外に簡単にうまくいくかもしれないなぁと呑気に考える。ひとまず気持ちが若干おおらかになったことを良しとして、そのまま横になって寝ることにする。


 石で造られた道は確かに硬いが、雨で地面がぬかるんでいて嫌悪するほどではない。

 きりきり痛むお腹をさすりながら、そっと目を閉じるのであった。





「おい、起きたまえ起きたまえ」


 がすがすと揺さぶられ、変な吐息を挙げながら目を覚ます。

 どうやら肩を揺さぶるために体を起こしたらしく、いや用なくその人物の巨体が目に入る。

 ゆっくり顔を見上げるが、首を最大限使わないと見れないあたり相当の身長なのだろう。


 重装備な上大きな帽子とスカーフをしっかり口に巻いていて目のあたりでしか素肌を確認できないが、異常なくらい筋肉に覆われていることがわかる。寝起きだったはずなのにすぐに現実に戻されたうえ心臓が縮み冷や汗をかいている。

 恐怖すべき対象であるはずなのになんでかその眼はとても穏やかで、凄く単純に気持ち悪い。


「ねぇ君、さっきお金がほしいとかなんとか言ってなかった?」


「へぇ? 確かに言ったと思いますけど……そんな響いてました?」


「僕の耳は中々にあざとくてね、金ほしいとか職ほしいとかそういうのはすぐに耳に入っちゃうんだよ」


 変な耳だなと突っ込みたくなったが何だか凄く上手くことが運びそうなのでぐっとこらえる。


「さて、本題に入ろう。実は今回君の要望にピッタリな職が残、あるんだ」


 おぉ! さっきからとんとん拍子に話が進んでいってとんでもなく気持ち悪いがそれは素晴らしい。どんな職業か聞いてみるとその巨人は体を乗り出して半ば興奮気味にしゃべり出してきた。


「なんと、座っているだけでお金をたんまり貰うことができるんだ! 座っているだけだよ座っているだけ! こんな簡単にお金が貰えることなんてこの先一度もないよ! さてどうするも何も聞く必要ないよねやるに決まっているよね!」


 畳みかけるように魅力的な単語を投げつけられ、すっかり相手のペースにはまってゆく。願ってもない話だし、この状況でNOといえる奴はこの世に存在しないだろう。彼の腕を掴んで目を輝かせながら彼に叫ぶ。


「もちろんですとも!」


 と。

前回より前の時間でのお話です。すごいとんとん拍子に話が進んでしまった。

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