63話・傭兵ギルドマスター(2)
メルセナリオに賓客室まで案内されたプリームス達3人は、中々に豪勢な食事で持て成された。
メルセナリオからすればプリームスは只者では無く、扱いに失敗し礼を失すれば、傭兵ギルドに多大な損失を与えるかもしれないと思ったのだろう。
大公の友人であり食客に近い待遇でクシフォスに扱われているのだから、ある意味間違えでは無いのだが・・・。
そんな意図せぬハッタリが通用するなら利用するまでだ。
そうプリームスはほくそ笑み、メルセナリオからギルドやその他の情報を得ることにした。
「さっきも言ったが、この傭兵ギルドはこの地で治外法権の特権がある。勿論、ワシにもそれは適用される」
そうメルセナリオは説明の口火を切った。
それに呼応するようにプリームスは疑問を投げかける。
「と言う事は他の国にも傭兵ギルドはあるのだな?」
頷くメルセナリオ。
「基本的に南方諸国にある傭兵ギルドは全てワシの管轄にあると言っていい。詰まりここが傭兵ギルドの中枢な訳だ」
「おおぉ! 素晴らしい、メルセナリオ殿は巨大な責任と権威を有しているのだな!」
と少しワザとらしく驚いてみせるプリームス。
一方スキエンティアは、それを若干冷めた目で見つめる。
フィエルテに至っては笑うのを必死に堪えている様子だ。
酔ってしまったのか、更に気を良くしたメルセナリオは饒舌に話し出した。
「因みに西方や東方の傭兵ギルドとは、ある程度の交流はあるが同じ組織ではない。あっちにはワシのような長も居るしな。ただ組織の形態は基本的に同じだ。仕事の仲介や斡旋を傭兵や冒険者へ行っている」
取り敢えずメルセナリオが調子付いた所で、プリームスは1番知りたい事を尋ねる。
「ギルドと国はどう言った間柄なのだ?」
メルセナリオは少し不思議そうに言った。
「プリームス殿は余程僻地から来たのか、又は別の大陸から来たのかな? 本当に疎いようだな」
メルセナリオを上手くのせて、プリームスの事情を有耶無耶にしようとしたが失敗したした。
雰囲気はクシフォスに近い物があるが脳筋では無いようで、プリームスからすれば少し慎重さが足らなかったかもしれない。
仕方なく正直に話す事にするプリームス。
しかし伏せるべき事は伏せる。
「メルセナリオ殿の言う通り、"別の地"から来た。私の事を知りたければ、話しても良いと思えるように"安心"させて欲しい」
詰まりギルドが国と深く関係していれば、死神アポラウシウスと通じている可能性がある。
陰謀を企てる者は、この国の中枢に居る筈なのだから。
しかしプリームスとしては、自身が聖女として王都で目立つ事に躊躇いは無かった。
陰謀を企む者の反応を窺うに良い材料になるからだ。
一番の心配はクシフォスだが、自身の舎人をプリームスへ付けた事がそもそも失敗と言える。
聖女を連れてクシフォスが王都に戻ったと宣伝してしているような物だ。
故にプリームスは面倒になってきてしまっていた。
『もう力押しでも良いかもしれんな・・・』
そう内心でプリームスが呟いていると、メルセナリオが話し出した。
「まぁワシがギルドの話をしてやると言い出した訳だしな。プリームス殿を詮索するのは順番が違うと言うものだ」
何とも物分かりが良い人物である。
ひょっとしたら下心があり、何か企んでいるのかもしれない。
それでもプリームスは考え直しメルセナリオの話を聞く事にした。
「この国との関係は良好そのもの。ただワシが王国関係者を嫌っていると言うだけだ」
と少しとぼけた風にメルセナリオは語る。
プリームスは思い出すように視線を流すと、
「治外法権と言っていたね。どこまでの権限が許されているのかな?」
そう独り言のように疑問を口にした。
メルセナリオは機嫌良さそうにプリームスのグラスと自分のグラスに酒を注ぐ。
「格で言うならワシは、この国の国王と同格だが権限は皆無だ。飽く迄、傭兵ギルド内での権限になる」
そして酒をプリームスに勧めると話を続けた。
「それとこの国の法に関しては、俺は人民では無いので従う義務はない。しかし従う義理はあるだろうな」
『面白い立ち位置だな』
プリームスは少し楽しくなってくる。
酒が少し入った為かもしれないが、自分の知らない組織体系の話が聞けるのは面白いからだ。
今度はプリームスが調子に乗って質問をしだす。
「では傭兵ギルド自体の立場はどうなっておるのだ?」
メルセナリオはニヤリと笑むと、
「プリームス殿は若いのに、やけに政治的な事に興味があるのだな。まあいいか、それは後にして・・・」
そう言ってグラスの酒を一気にあおった。
中々の酒豪ぷりである。
「傭兵ギルドは所在する国と持ちつ持たれつでな、戦時であれば師団や軍団を編成して協力する事もある。今は国からの依頼を受けて細々と仕事を斡旋するだけだな」
と言ってメルセナリオは再び酒をグラスに注ぎだした。
まだ飲むのか?、とプリームスは呆れながら質問を続ける。
「なるほど。しかしギルドマスターの貴殿には何も得する事が無いような気がするな。無頼漢の管理をさせられて面倒ばかりだろ?」
「フッ」と小さく笑うとメルセナリオは自嘲気味に言った。
「そうでもないさ。ワシには王国議会での発言権と決裁権がある。まあ幾人もいる議員や貴族の中に埋もれてはいるがね」
詰まりこの国の政策に首を突っ込めるが絶大ではないと言う事だ。
メルセナリオが王国関係者を嫌うのは、この辺りが理由かもしれない。
そう思いプリームスは酒をチビチビ飲みながら推測した。
プリームスが油断していると、メルセナリオの鋭い問いが飛んでくる。
「ところでプリームス殿・・・いやボレアースの聖女様か? 何故ここに来た?」
想定内だが絶妙な”間”で言ってきたものだから、プリームスは酒を吹き出しそうになった。
『こやつ・・・分かっていて私をここまで連れて来たのか』