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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第三章:謀略の王都
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61話・夜の王都観光(2)

舎人(とねり)のフィートに案内され、プリームス達はこっそりとクシフォスの大公邸宅から抜け出した。



死神アポラウシウスと繋がっている者は必ずこの王都に居る筈。

詰まりそれはクシフォスの周辺も監視されている可能性があると言う事だ。


そのクシフォスの邸宅から聖女と思しいプリームスが出てきたら、クシフォスが聖女を連れて既に王都へ帰還していると判断されてしまう。

そうなれば軍部を掌握しておきたいクシフォスが動き難くなるのは明白だった。



プリームスからすれば、”ボレアースの例の聖女”のみが既に王都へ来ていると思われたい訳だ。

最悪、クシフォスが後手に回る事態になっても、力押しで何とかするつもりでいるのは内緒ではあるが・・・。



そんな事を考えつつ、案内人のフィートを先頭にプリームスは大手を振って外郭城下街の大通りを歩く。

その背後には禍々しい仮面と漆黒のマントを羽織った2人が、従者もとい護衛の様に追随する。



夜の9時になろうかと言う時間帯だが、大通りには人々が行きかっていた。

巡回する憲兵、冒険者風の者達、商人、無頼漢、そして娼婦らしき者。

一見して無秩序なように見えて、この国の、この街の法に則って皆生活しているのだ。



そしてその法に縛られないプリームス。

まるでそれを体現するかのように悠然と、また優雅に絶世の美を市井に晒しながら歩む。


プリームスとすれ違う者達が皆、プリームスに見惚れ足を止めて振り返ってしまう。

その後を追うとすれば、背後に付き従う死神のような黒く禍々しい存在に一瞥され竦み上がる。



そんな事を幾度と繰り返しながら、”夜”の繁華街を歩んで行く。

とうとうフィートが耐えきれなくなって愚痴をこぼした。

「プリームス様・・・やはり貴女様のお姿は市井の者には目の毒です。どれだけハラハラさせられた事か・・・」



ワザとらしく首を傾げるプリームス。

「うん? 何も問題無かろう? 皆私の従者にビビッて声すらかけて来ぬではないか」



溜息をつくフィートは足を止めてプリームスへ向き直った。

更に小言を言うつもりか?、とプリームスは子供の様に身構える。


「到着いたしましたよ。こちらが傭兵ギルドとなります」

そう言って至極事務的に頭を下げて、フィートは左手を横にかざした。



かざされた手の先を見ると、そこには頑強で武骨な石造りの建物がそびえ立っていた。

建物はかなり大きく100m近く横幅が有るように見える。

そして奥行は分からないが3階建てで、屋上付近の先を見ると結構大きな塔もあった。



『まるでちょっとした要塞だな』

そう思いプリームスはフィートへ根本的な事を尋ねた。

「傭兵ギルドと言うのは、夜も開いているのか?」



フィートは先導するように傭兵ギルドの玄関口へ進み、

「問題有りません。24時間体制で運営されています」

と言って玄関の扉を押し開ける。


そうして扉を開けそれを維持したままフィートは道を空けた。

プリームス達へ中に入るように促しているのだ。


『なんとも気が利く事で・・・クシフォスには勿体ない舎人だな』

そんな事を思い、ほくそ笑みつつプリームスは傭兵ギルドの玄関を抜けた。



中を見渡すとかなり広いホールになっていて、奥に業務受付のカウンターが並んでいる。

受付は幾つかの種類に分かれているようだ。

込み具合を考えてか、それぞれ重複する受付が存在するが、夜の為か片方は閉ざされていた。



そしてホールの半分以上が待合席及び、冒険者や傭兵に開放された自由な空間になっているようだ。

まるで巨大な酒場のようにテーブルと椅子が所狭しと並べられている。



また席の大半は武骨な男達で埋め尽くされており、みな酒が入っているであろうカップを手に赤い顔をしていた。

ホールの右奥を見ると酒を提供しているカウンターがあり、逆に左側は食事を提供するカウンターと奥に厨房が見えた。



「料理のいい匂いがするな」

そうプリームスが生唾を飲み呟く。


フィエルテの仮面の下でクスクス小さく笑う声が聞こえた。

「そう言えばお昼から何も食べておられませんでしたね。食べていかれますか?」



「いや、先に見学を済ませよう」

後ろ髪を引かれるように厨房を一瞥して、プリームスは受付に向かう。




酔っぱらいの何人かがプリームスの存在に気付いた。

するとそれを機に、ホールの半分以上を埋め尽くしていた酔っぱらい達が騒めき始める。



見た事も無いような絶世の美少女が、禍々しい仮面を着けた黒い存在を引き連れている。

それは美しい天使か妖精のような存在が、2人の死神を連れている様に見えるのだ。

騒めかない筈が無かった。



そしてそんな超絶と恐怖を織り交ぜたような存在に、絡もうとする者など居ない。

たった一人を除いて・・・。



「よぅ、綺麗なお嬢ちゃん。見ない顔だな・・・こんな無頼漢のたまり場に何のようだい?」



野太い声がプリームスから少し離れた右側のテーブルから聞こえた。



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