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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第三章:謀略の王都
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60話・夜の王都観光(1)

クシフォスの突然の帰還に、屋敷の者達は驚きを隠せなかった。

更に3人もの麗人を連れて来たのだから、何事かと勘繰られる程だ。



故に色々と状況がややこしく見え、身内に対しても誤解を招きそうであった。

仕方なく執事長にクシフォスは掻い摘んで説明だけはしておく。



そして屋敷の人間全員にクシフォスとその"連れ"に対しての箝口令をしいた。

聖女として名を馳せたプリームスは勿論だが、軍部の権限を掌握しにクシフォスが戻ったと知れれば動き辛くなるからだ。



またプリームス達は信用出来るクシフォスの友人として扱われ、屋敷内での自由な行動を許された。



クシフォスは身を隠すようにフードを深く被ると、

「俺はこれから軍司令本部へ向かう。プリームス殿は何かやらかすつもりなのだろう?」

そう少し心配した表情でプリームスへ尋ねる。



プリームスはニヤリと笑む。

「夜の王都観光と洒落込もうかと思ってな。冒険者(ならずもの)が集まるような場所にも行ってみたい」



するとクシフォスは少し思案してから、

「なら傭兵ギルドへ向かうといいだろう。俺の舎人(とねり)を貸してやる」

と言って隣に立っていた20歳半ばの女性を見やった。


その女性は艶やかな黒髪のショートヘアーで、如何にも仕事が出来そうな雰囲気を持つ美人さんだ。



プリームスへ頭を下げる舎人の女性。

「フィートと申します。王都の事でお知りになりたい事が有れば、私にお尋ね下さい。また向かわれたい所があれば御案内致します」



プリームスはフィートへ手を差し出し笑顔を浮かべた。

「プリームスだ、世話になるよフィート殿。それから後ろの赤髪はスキエンティア。もう1人はフィエルテだ」



フィートはプリームスの手を取り握手をかわすと、

「よろしくお願いします。では、早速傭兵ギルドに向かわれますか?」

と抑揚の乏しい声で言った。



見た目通り話が早い。

仕える者や補佐する相手に対して、無駄を省いた計画や道筋を提示する。

一見して内容だけならスキエンティアと共通する所も有るが、面白みや癖の強さで言うならフィートには物足りなさを感じた。



そんな風に勝手に他人を値踏みする自分に、プリームスは自嘲する。

『今はただの客人と言うだけなのにな・・・何を偉そうに私は・・・』


しかし直ぐに思い直した。

他人を見て値踏みする事の何が悪いのかと・・・。

他人を見てその為人(ひととなり)へ思いを馳せるのは、プリームスの職業病であり、殆ど趣味の領域でもあった。


それにそこから人的財産の発掘や、後々に影響する情報を得る事もあるのだから。



ほんの短い時間だが思案しているように思ったのか、フィートはジッとプリームスを見つめたまま待っている様だった。

プリームスは愛想笑いをフィートへ向ける。

「すまない。傭兵ギルドへ案内してもらえるかね?」



するとフィートは事務的に少し頭を下げ、

「承知いたしました」

そう言った後に困った表情を浮かべ続けた。

「ですがプリームス様のそのお姿では、市井の者に少々刺激が強いように思います。お連れの従者の方々も、その・・・美し過ぎると言いましょうか・・・」



「う~ん」と唸り考え込むプリームスは、

「このままでは不味いかね?」

と問いかける。

詰まり、どう不味いのか説明して欲しいと暗に言っているのだ。



察したフィートは説明を始めた。

「この王都の外郭城下は、眠らない街とも言われており非常に栄えております。ですが栄えていると言う事は、人も多く治安の維持も絶対では無いのです。しかも夜となると要らぬ厄介事に巻き込まれる恐れも増えるかと・・・」



プリームスとしては、その厄介事こそが狙いであった。

だが目的の核心に迫る物以外は不必要であり、ただ単に絡んでくる相手は面倒であるのも確かである。



プリームスは当初から予定していた演出を実行する事にした。

収納魔法が付加された指輪から、漆黒を基礎に紫の刺繍があしらわれたマントを2つ取り出す。

続けて禍々しい髑髏を模した黒銀の仮面も2つ取り出すと、マントと仮面を対にしてスキエンティアとフィエルテに手渡した。



突然何も無い所から物を持ち出したプリームスに、フィートはギョッとした表情を見せる。



「2人とも、そのマントを羽織ってフードを被るんだ。それから仮面もちゃんと着けるのだぞ」

そうスキエンティアとフィエルテへ指示をするプリームス。



すると懐かしそうにスキエンティアが呟いた。

「これはまた随分と古い物を持ち出しましたね・・・」


フィエルテは少し困った様子で仮面を見つめる。

「何と言うか・・・地味そうに見えて奇抜・・・身に着けるのが若干、(はばか)られるような」



プリームスも困ったように苦笑した。

「まあ我慢してくれ。これだけ様相が禍々しければ、下手に手だしする者も居なくなるだろう」



この漆黒のマントと黒銀の髑髏仮面は、プリームスが数十年ほど前に制作した物だ。

混沌の大地の統一に向けて内外に権威を示すのが目的で、プリームスの直轄である近衛軍団の衣装であった。


いわゆる印象戦略の一環になるのだが、禍々し過ぎて内外どちらにも評判が悪かった為に直ぐ廃止になってしまった。

要するに曰くつきの衣装である。



そしてプリームスは露出度が高く見える黒のドレスワンピースだ。

レース地でそこら中がスケスケ・・・その所為で全裸や下着姿より扇情的に見えてしまう。

このままでは少し心もとないので、半透明な漆黒のケープを上から羽織る。

勿論、それも収納魔法が付加された指輪から取り出した。



呆気にとられるフィート。

プリームスの行動全てが、常人であるフィートにしてみれば異常に見えた。



プリームスはフィートに笑顔で促す。

「見た目で威圧しておけば大丈夫であろう。万が一が有ってもこの二人は凄腕ゆえ、君が心配するような事は元より無い。さぁ案内を頼む」



フィートはこのプリームスなる人物が、絶世の麗人と言うだけでは無い事に漸く気付いたのであった。



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