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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第二章:初めての町
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49話・聖女は釣り餌

食事の後、直ぐにでも王都へ向かおうと言い出すプリームス。

しかしその移動手段で揉めてしまう。



それはプリームスが"斥候(エクスプローラートル)"と"転送(メタファー)"を使うと言い出したからだ。


この魔法は今のプリームスには負担が大き過ぎる。

それでスキエンティアとクシフォスが反対し、勝手に揉めたような状況になる。



厳密にはそうハッキリとプリームスが言った訳では無い。

しかし「急いだ方が良い」と前置きするならば、それが最速の移動手段になるからだ。



更に状況が飲み込めていないフィエルテから説明を求めてられてしまった。

スキエンティアは仕方がなくフィエルテに、プリームスがしようとしている事を話す事にする。



「ある魔法2種を平行に使用し、長距離を一瞬にして移動するのです。先日それで私達2人を連れて20km程移動しましたが、プリームス様は倒れられてしまって・・・」

とスキエンティアが掻い摘んで説明した。



するとフィエルテは驚いた表情で固まってしまった。

プリームスはと言うと、少しバツが悪そうにワインを飲んでいる。

自分が"あの時"に無理をした自覚があるようだ。



我に返ったフィエルテはスキエンティアに尋ねる。

「魔法を同時に2つ使うのですか?」

そして続けて独り言のように呟いた。

「それも驚きなのに20kmを一瞬で移動とは、とても人の業とは思えません・・・」



「と申しておりますよ、プリームス様」

そうスキエンティアがプリームスを見つめて言う。



"人の業とは思えない"と、ある意味無礼な言い方になったフィエルテがそれに気付き慌ててしまう。

「申し訳ありません、プリームス様!」



苦笑するプリームス。

「いや、私はその程度何も気にしない。それに私に対して多少の無礼があっても、いちいち畏るな。こっちが疲れてくる」



そしてプリームスはスキエンティアを嫌そうに見やると、

「こやつなど私に対してやりたい放題だぞ。見習えとは言わんが、もう少し距離を縮めよ。常識範囲内の触れ合いも許すゆえ」

そうフィエルテへ伝えた。



素知らぬ顔で食事を進めるスキエンティア。

それを見てフィエルテは苦笑しつつも気分が軽くなった。


そうして主人の優しさに触れて、以前の自分を思い出してしまう。

『自分が王女であった時、こんなに優しく臣下に接した事があっただろうか? 王女と在ろうとして、その権威を振り回していただけではないか?』


そう思うとフィエルテは人としての器の違いに愕然とし、更にプリームスに対して畏敬の念が深まる事となった。



「プリームス様! このフィエルテ、必ずや貴女様の期待に応えて見せましょう!!」

などと興奮してフィエルテは言い放ってしまう。



頭を抱えて溜息をつくプリームス。

クシフォスとスキエンティアは、そんな2人を見て笑うばかりである。




あらかた空腹を満たしたのかプリームスは立ち上がると、

「気分転換に湯浴みがしたい。私が湯浴みをしている間に出立の準備をしておくのだぞ」

そうクシフォスへ向いて言った。



クシフォスは仕方ない様子で頷く。

そして側にいた侍女へ指示をだした。

「プリームス殿の湯浴みを準備してやってくれ。それとナヴァルに、俺の"装備"を揃えておくように伝えよ」



「承知致しました」

侍女は頭を下げると直ぐに食堂を後にした。



スキエンティアがフィエルテに言った。

「フィエルテ、貴女はプリームス様の湯浴みをお世話しなさい。私はクシフォス殿と話があるので、そちらは任せますよ」



クシフォスは少し訝しんだ。

特にスキエンティアと話したい事などなかったからだ。



フィエルテは嬉しそうに丁寧に頷くと、食堂から出ようと歩むプリームスの後を追った。



『プリームス様の湯浴みのお世話は私がしたい所ですが、プリームス様とフィエルテの親睦も深めて貰わねば困りますからね。その間、私はこのむさい御仁と今後の段取りを詰めておきましょうか・・・』

そう思いクシフォスを見つめるスキエンティアは、意気消沈するのであった。






食事を終えたスキエンティアとクシフォスは武器庫に向かう。

クシフォスが王都に向かう準備をする為だ。



武器庫に着くと先ずその広さに驚かされた。

屋敷内のちょっとしたホールを利用した為だろう。

しかも綺麗に整頓されていて、まるで大きな武器屋のようだ。

そして個人で持つ武器庫としては規模が大き過るように感じる。



その様子を見て感心するスキエンティア。

「意外でした。クシフォス殿がこんなに几帳面とは・・・それに広いですね」



クシフォスは少し怒った顔をして言った。

「お主は俺の事を馬鹿で粗暴な男と思っているのだろ! 脳筋は認めるが、決して馬鹿ではないぞ!!」


困った顔でスキエンティアは愛想笑いをする。

「いえ、そこまでは・・・」



「ふんっ」と子供のように拗ねるクシフォス。

だが流石と言うべきか、感情の切り替えが早い。

次の瞬間には冷静に問うてきたのだ。

「で、俺と詰めておきたい話とは何だ?」



切り替えの早さが余りに滑稽で、笑いが出そうになるのを堪えるスキエンティア。

「は、はい・・・王都に着いてからの事なのですが」



「うむ、プリームス殿は状況を把握して、それから提案と指示をくれると言ったな」

とクシフォスは整頓されて並べられた武器を物色しながら言った。



スキエンティアは頷く。

「恐らくプリームス様は、状況を把握しやすいようにワザと身を晒す筈です。その辺りをクシフォス殿には承知していて欲しいのです」



露骨に嫌そう表情をクシフォスは浮かべた。

「既に死熱病の件でプリームス殿の名は国内だけでなく、列国にも広がっている可能性がある。王都で目立てば直ぐに"何か"起こるだろう。うむむ・・・頭が痛くなって来た・・・」



スキエンティアは慰める言葉が見つからず、苦笑するしか出来なかったのであった。



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