43話・強さの秘訣
フィエルテに師匠と呼ばれる事となりスキエンティアは困り果てる。
フィエルテ自身へ、どれだけの戦闘能力が有るか知ってもらう為にした事が裏目に出てしまった。
スキエンティアとの実力差を示すのも目的だが、それ以上に”護衛”として必要な力の基準を知って欲しかったのだ。
その理由は、昨夜の死神アポラウシウスが良い例である。
これらを撃退出来る”護衛”としての実力をフィエルテにつけて貰わないと困るからだ。
自身の弱さを知り、目標を知る。
そうして人は高みを目指せるのだとスキエンティアは考えていた。
更にここからが問題であった。
人にはそれぞれ才能が有り、分かり易い場合も有れば潜んでいる場合がある。
潜んでいる・・・それはすなわち潜在的な能力であり原石なのだ。
フィエルテには武の才が有るのは分かっている。
しかしそれだけでは”武器”が足りない。
きっとある筈のフィエルテの潜在的な武器を、掘り起こそうとスキエンティアは思考を巡らせた。
魔術の才能は?
もしそれが有ればスキエンティアが駆使するような、魔術と剣を合わせた戦闘が可能になるかもしれない。
また体内に巡る氣を自在に操る才能があれば、魔術に匹敵する攻撃能力を発揮出来る。
こちらは基礎を教える事は出来るが、得意では無いスキエンティアにはそれ以上は無理だ。
これはプリームスを頼るしかない。
そう色々考えているとフィエルテが心配そうにスキエンティアを見つめた。
それに気付いたスキエンティアは笑顔を向け、
「心配しないでください。別に貴女の実力に落胆している訳では無いですから」
とフィエルテに優しく言ってあげる。
すると安心したのかフィエルテはホッとした表情を見せた。
とにかく今は剣術を含めた基礎的な戦い方を、底上げするしか無さそうだとスキエンティアは思う。
そして潜在的な能力は、日常の中でおいおい探っていくのが良いかもしれない。
焦った所で見つかる訳では無いのだから。
一区切り着いたと感じたクシフォスが2人に声をかけた。
「もうすぐ昼だ、少し早いが昼食にしないか?」
「そうですね、分かりました」
そう頷き答えると、スキエンティアはフィエルテへ向き直った。
「プリームス様の様子を見てきてもらえますか? 体調が良さそうなら食堂への案内をお願いします」
フィエルテは軽く頭を下げると、
「分かりました、師匠」
とスキエンティアへ言って足早に屋敷内に向かった。
クシフォスもゆっくりと歩みながらフィエルテの後に続く。
「すっかり師匠扱いだな、スキエンティア殿。良かったじゃないか」
スキエンティアは「う〜ん・・・」と唸る。
「まあ嫌われるよりは良いですがね。余り懐かれるのも困りものです」
足を止めて不思議そうな顔をするクシフォス。
「うん? どうしてだ?」
クシフォスの傍に来るとスキエンティアは説明し始めた。
「私とプリームス様が危機に陥った時、どちらを選ぶか逡巡されても困るからです。結果、プリームス様を選んでも判断に遅れをとる可能性もありますからね。感情と言うのは中々厄介ですよ・・・」
「なるほどな」
と考え込むクシフォス。
そして急にニヤリとクシフォスは笑みを浮かべた。
「ではスキエンティア殿はどうなんだ? プリームス殿を最優先に思っているのだろうが、フィエルテと同時に危機に陥ればどう対処する?」
「勿論、プリームス様を真っ先に守る為に動きます」
とスキエンティアはキッパリと言い切る。
「フィエルテはどうなる?」とクシフォスが問うと、特に考える事なくスキエンティアは答えた。
「同時に守る事が不可能なら見捨てますね」
笑い出すクシフォス。
「うはははっ、流石だな。人は迷う生き物ゆえ、それが弱さに繋がる。スキエンティア殿のように割り切れなければ、強くなれないのは確かだな」
スキエンティアは屋敷に向かって再び歩き出しながら、小さく首を横に振った。
「いえ、違いますよ。自分に大切な物が有るかどうかです。どれだけ強く、迷い無く判断出来ても、自分以外に大切な物がなければ必ず敗北が訪れます」
クシフォスは楽しそうに笑みを浮かべながら、スキエンティアの横に並び共に屋敷内に向かう。
「ほほう・・・面白い、哲学的だな。詰まりどう言う事かな?」
少しとぼけた仕草でスキエンティアも笑みを浮かべた。
「そんな学の有る話では無いですよ。要するに守るものが自身しか無ければ、簡単に心が折れてしまうと言う事です」
「ふ〜む」と顎に手を置きながらクシフォスは呟くと、
「志しと言うやつだな。騎士が、王や民に剣と忠誠を捧げるのと似ておる」
そう続けた。
スキエンティアは頷くと補足するように語り出す。
「この理念は、古からあるものです。言い方は悪いかもしれませんが、個の強さを維持し国が利用する仕組みと言っていいでしょうね」
「俺は騎士では無く、大公だからな! 関係ないわい」
とクシフォスは言い放ち笑い出す。
そんな大雑把なクシフォスを見てスキエンティアは苦笑してしまう。
そうして屋敷内に2人が入るとナヴァルが待ち受けていた。
スキエンティアは修練用の木剣を彼に手渡すと、
「食堂の方へどうぞ。昼食の用意は出来ておりますゆえ」
そうナヴァルが先を案内するように手を差し出して言った。