23話・リヒトゲーニウス最北の町
湯あみを済ませ、朝食も済ませたプリームス達は、クシフォスの案内で西に30分程進んだ。
すると町らしき物が見えてくる。
町の名は”ボレアース”とクシフォスが教えてくれた。
北側には岩山がそびえ立ち、南には水源となっていそうな湖がある。
混沌の森はこの岩山により直接向かえない為、プリームス達が来たルートを逆行するようにしないと向かえないようだ。
つまり町から東に進めば、混沌の森に続く道がある。
そして町から西に進めば、リヒトゲーニウス王国の領地を出て隣国に向かえるとの事だ。
またクシフォスの話によれば混沌の森への調査隊は各地から集められ、この町で編成されるらしい。
これは本国の主導であり、大公であるクシフォスは関係ないのだそうだ。
「うん?」と疑問に思うプリームス。
「管轄外なら、何故クシフォス殿は混沌の森へ?」
「今回は建前は調査ではなく、魔物の討伐と病気の対処だったからな。最終的には混沌の森へ調査に入ってしまったが・・・」
とクシフォスは溜息をついて言った。
溜息が出たのは自分が率いた師団が全滅してしまったからだろう。
しかもプリームス達に偶然出会わなければ、クシフォスも死熱病で命を落としていたに違いないのだから。
取り合えずこの町に死熱病の患者がいるらしい。
まずは患者の治療を考える事にするプリームス。
そして町に入る前に、スキエンティアの姿を出来るだけ人目に晒したくないのでフードを深めに被せる。
どう控えめに見ても今のスキエンティアは、普通の人間から見れば異端だ。
燃えるような赤い髪に、妖艶な外見。
元は自分の姿だと思うと、プリームスは少し恥ずかしい気持ちになった。
だから他人には余り見せたくないのだ。
クシフォスが不思議そうに問うてきた。
「プリームス殿は・・・フードを被らないのか?」
プリームスは少し考える仕草をして、
「う~む・・・この辺りは混沌の森と違って思ったより暖かいしな。フードなんて暑くて被ってられん」
「ふ~む」と困った顔をするクシフォス。
クシフォスの様子を見てプリームスは訝しんだ。
「何だ? 言いたい事が有るならハッキリ言ってくれ」
クシフォスはガシガシと頭を掻く。
「プリームス殿は・・・何だ・・・物凄く美人だからな。綺麗どころを見慣れてる貴族でも、プリームス殿を見たら度肝を抜かれるだろう。そうでない町の人間が見たらどうなるか・・・」
そんな事を言われてもな・・・と今度はプリームスが困った顔になる。
『そんなに私は美人なのか?』
プリームスとしては、自分を醜悪な外見とは思っていないにしろ、取り立てて美人とも思っていなかった。
するとスキエンティアが苦笑しながら言った。
「プリームス様・・・私の外見を見てどう思われましたか? 他人には出来れば晒したくないとお思いなのでしょう?」
プリームスは頷いた。
「そうだ。白く綺麗な肌、燃えるような美しい髪、それに端麗な顔と身体は他人に見せるには毒だ。要らぬ諍い・・・」
言い切る前にプリームスの口が止まった。
スキエンティアの伝えたい事を察したからだ。
スキエンティアは溜息をつくと、ウィッチコートを差し出す。
暑いのでプリームスは着ずに、スキエンティアに預けていた物だ。
「プリームス様の外見も、私とそう変わりませんよ。それどころかお顔と身体の不均衡さが更に美しさを際立たせていると言うのに・・・」
追撃するようにクシフォスも続く。
「うむ・・・それにその妖精のように白い肌と真っ白な髪。もう人の域を超えた美しさと俺は感じるのだ。要らぬ諍いは、貴殿が起こしそうに思うがね」
「嫌だ! そんな暑苦しい物など着れん」
とまるで子供のような態度をとるプリームス。
そしてプリームスはワンピース姿で先を歩くと、
「何か起こりそうなら、お前が守ってくれればよかろう」
と言い張り、その巨乳が揺れた。
スキエンティアは主の後ろ姿を見て思う。
漆黒の膝上丈のワンピースが、プリームスの美しい脚を際立たせる。
更にノースリーブの為に細くて真っ白な腕も露出し、クシフォスが言うように妖精のようだ。
ウエストも引き締まっていてタイトなワンピースのせいか、余計に華奢に見えてしまう。
緩やかな風になびく白銀の髪の間から、白く細い首が見えた。
それは少しでも力を込めて触れてしまえば、折れてしまいそうな位に儚い。
スキエンティアはプリームスに見惚れて溜息が洩れた。
『陛下の言う通り、私がお守りすればいいのだ・・・』
折角新しい世界に来たのだ。
今まで部下や仲間を守る為に戦い続けて来たプリームスに、思いのまま好きに生きて欲しいとスキエンティアは切に想う。
スキエンティアはクシフォスの耳元で囁くように言った。
「何かあれば私が対処します。ここは貴方の領地ですので、ご迷惑をかける可能性がありますが・・・」
クシフォスは気にした風もなく、頷き小声で答える。
「構わんよ。身に危険が迫って対応するのは当たり前のことだ。俺もそうならないように出来るだけ計らおう」
それを聞いたスキエンティアはホッとした表情で頷くと、クシフォスと共にプリームスの後を追った。