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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第一章:終焉と新生
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21話・死熱病の対策とその先

プリームスは深夜0時を少し回ったあたりで目を覚ました。



いつの間にか野営用の小さなテントの中に寝かされていたプリームス。

様子を見に来たクシフォスと目が合ってしまい、気まずそうに彼は目を逸らした。

「すまん・・・起きていたか」



そして出て行こうとするクシフォスをプリームスは呼び止めた。

「構わない、何故気を使う?」



困った様子で立ち止まるクシフォス。

「いや・・・女性というのは、寝起きを異性に見られるのは嫌がるだろう? 妙齢の女性なら尚更だ」



プリームスはクスクスと笑った。

「私を淑女扱いしてくれるのか。クシフォス殿は紳士だな」



クシフォスは照れた様子でそっぽを向くと、ボヤくように言った。

「やめてくれ、一応これでも大公だからな。宮廷作法や礼儀程度は心得ている。それに実際見た目は妙齢の女性で、これ程美しいのだ・・・大の大人が気を使わん方が問題あるだろ」



キョトンとした表情でプリームスは言い放つ。

「何だ? 私に惚れたのか?」



「何故そうなる!! 建前の話をしとるんだろうが!!」

と怒り出してしまうクシフォス。



これ以上からかうとクシフォスがキレそうなので、プリームスは止めておく事にした。

「すまんすまん。で、何か私に訊きたい事があって、様子を見に来たのだろう?」



するとクシフォスは大きく溜息をつき、プリームスの前に胡座(あぐら)をかいだ。

「死熱病の事を詳しく聞きたくてな」



プリームスは頷くと、照明魔法を唱えてテント内を淡い光で照らしだした。

そして思案する仕草で呟く。

「何から話せばいいだろうか・・・」



真剣な表情で少し前のめりになるクシフォス。

少し暑苦しい・・・。

「死熱病が発生する原因を知りたい。知れば対策も出来よう」



プリームスは最もな意見だと思い、死熱病の感染源を説明する事にした。

「死熱病は人の目に捉えられない程、小さい寄生虫によって引き起こされる。詰まりその寄生虫が血中に入り込み人体を蝕む訳だ。そしてその寄生虫は蚊を媒体にして感染する・・・ここまでは問題ないな?」



「うむ」とクシフォスは頷くと、誰もが思いつく疑問を投げかけてきた。

「宿主である蚊を駆除出来れば、死熱病を根絶出来ると思うのだか・・・無理なのか?」



喉が渇いたのかプリームスは、収納機能が有る魔法の指輪から水差しとグラスを2個取り出した。

「蚊の繁殖力と元の多さ、それに生息している地域の広さを考えると不可能に近いだろう」


そしてグラスに水を注ぎ、1つをクシフォスに渡す。



「その指輪には何でも入っているのだな」

と半ば呆れたようにクシフォスは感心した。



グラスの水を一口飲みプリームスは喉を潤すと、クシフォスの言葉は聞き流し話を続けた。

「ただ着目する点は悪くない。蚊を駆除するのではなく、蚊が居る所へ行かなければ良いのだ。この死熱病の原因になる寄生虫を私は”死熱病原虫”と呼んでいるが、宿主に出来る蚊は1種類しか居ない。しかも限られた気候にしか生息出来ない蚊ゆえ、避けるのは難しくない筈だ」



眉間にしわを寄せて難しい顔をするクシフォス。

「つまりそれは混沌の森に入るなと言う事だろうが・・・難しい話だな」



プリームスは首を傾げた。

「どうしてだ?」



クシフォスはグラスに入った水をグイッと一気に呷り答えた。

「混沌の森には古代遺跡が数多く存在していてな、そこに財宝はもとより数多くの英知や技術が眠っているとされていて、各国が(こぞ)って調査隊を送っているのだ。我が国だけが後れを取る訳にはいかんのだよ」



プリームスは溜息が出た。

それは正に国のジレンマと言うものだ。

新たな力や技術が目前に有るなら、危険を冒しても手に入れたい。


だが出来うるなら危険を回避したい。

もっと言えば他国が興味を示さなければ、自国も無理をしてまで動きたくないのだ。



これは恐らくだが、西や東に侵略的な危険が存在すると推測出来た。

でなければクシフォスの所属する国と周辺が、"南方連合"などと言う徒党を組む必要は無い筈。



そして混沌の森に危険を冒してまで調査隊を向かわせるのは、連合内の他国勢力に起因するのだとも洞察出来た。

その勢力が混沌の森で得た英知を武器に、侵略国家として変貌する可能性を恐れたのだろう。

故に対抗する為、各国は挙って混沌の森に足を向かわせてしまうのだ。



プリームスは死熱病の処置や対応手段を、市井に公表する事を思い直した。

『これは・・・うっかり公表すれば戦の引き金になりかねない』



今のところ混沌の森は、死熱病と強力な魔物のお陰で人の侵入を防いでいる。

更にこの地の人々が欲しがる財宝や英知が存在する事も分かっている。


ひょっとしたら本当に超常の存在が居て、人の侵入を防いでいるのかもしれない。

要らぬ争いが起こらぬ様に・・・。



ならばプリームスの取る行動は決まっていた。

死熱病に苦しむ者が居れば、必要な分だけしか特効薬を作らない。

そしてその製法は公表しない。

更には死熱病の感染と発病原因、プリームスが知りうる対策も公にしない。



プリームスは申し訳なさそうにクシフォスへ言った。

「悪いが、これ以上は話せないな。あくまで私個人の考えではあるが、この地の人々が戦乱に晒される原因を作りたくない」



何となく察したクシフォスは「ふむ」と呟き、

「プリームス殿は思慮深いな。俺など目先の事を解決するのがやっとだというのに、貴殿はその先の事も容易に考えているようだな」

と笑顔で言った。




「すまないな。私は権威に力を貸すつもりは無いのだ。だが苦しむ者が居れば助けるのは(やぶさ)かではないゆえ・・・」

と言いプリームスは頭を下げた。



慌てるクシフォス。

「おいおい、何故プリームス殿が謝る!? 無理を頼もうとしていたのは俺なのだから」


そして困った様子で愛想笑いを浮かべ続けた。

「それに俺の領民を死熱病から救ってくれるのだろ? 俺はそれだけで十分だ」



そう言われてプリームスは少し嬉しかった。

またこの実直で、素直でお人好しなクシフォスに、力を貸してやりたいと心底思うのだった。



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