20話・固有魔法(2)
魔法陣の光がプリームス達3人を照らす。
そして静かにプリームスは言い放った。
「転送」
次の瞬間、魔法陣は消失し視界が暗転する。
クシフォスは自分が立っているのか、それとも地面に寝そべっているのかさえ分からなくなってしまう。
それもその筈、自身を覆う空間全てが闇に包まれたからだ。
だがそれも一瞬の事であった。
5秒程の闇の時間が過ぎると、クシフォスの目を光が満たし眩んでしまった。
「到着だ・・・クシフォス殿」
とプリームスの声が聞こえた。
クシフォスはゆっくりと瞼を開ける。
すると眼下には広大な草原が広がり、遥か先に見覚えがある山並みが見えた。
何が起こったか分からず辺りを見渡すクシフォス。
傍には少し疲れた様子のプリームスと、それを背後から支えるスキエンティアの姿が有った。
更にクシフォスは背後を見やる。
その視線の先には古代巨木の森が見て取れた。
「混沌の森が背後に・・・それに前には俺の見知った土地が見える・・・」
スキエンティアはクシフォスに笑みを向けた。
「混沌の森を抜けたのですよ。そしてここは恐らく貴方の領土かと思われます」
呆然とするクシフォスは、呟くようにプリームスへ問いかけた。
「一体どうやって森を抜けたのだ・・・? まだ優に20kmの距離は残っていた筈」
プリームスは疲れた表情で、掌を上に向けて正面にかざした。
その上には先程の黒い球体が浮かんでいる。
「この斥候で転送する安全な位置を割り出し、転送で転送して森を抜けただけの事だ。別段、驚く程の事ではあるまい?」
クシフォスは半ば詰め寄る様子で言った。
「おいおい・・・驚かない方が変だろ! こんな魔法見た事も聞いた事も無いぞ!!」
スキエンティアが困ったような表情でプリームスへ進言する。
「斥候も転送も、プリームス様の固有魔法でありましょう。ですから私のような身近な者でもない限り、誰でも驚くかと・・・」
指を鳴らして黒い球体を消し去るプリームス。
そしてスキエンティアに辛そうにもたれ掛かった。
「ふむ、そうだな・・・知らない魔法を見れば誰でも驚くか」
スキエンティアはプリームスにもたれ掛かられたのが嬉しかったようで、そのままコートで覆うように抱きしめてしまった。
仲睦まじい2人を見つめながら、クシフォスは溜息をつく。
「いや、そうでは無くてだな。こんな事が可能なこと自体、驚きだと言ているんだ。スキエンティア殿にしろ、プリームス殿にしろ色々規格外すぎるぞ・・・」
プリームスは瞳を閉じると、
「すまないが眠らせてもらえないか? その話はまた後で頼む・・・」
そう言って直ぐに寝息を立て始めた。
スキエンティアは、そんなプリームスを慈しむように見つめる。
そうして抱きしめたままその場に座り込んでしまった。
「今日はこの辺りで野営ですね・・・」
再び溜息をついてクシフォスもその場にドカリと座り込む。
「そうだな・・・普通に森を進んでいては、今頃魔物を倒し続けて疲弊していたことだろう。ここで一晩過ごしたところで、お釣りが返ってくるな」
気が付けば随分陽が傾いていた。
もう夕刻になっていたのだ。
危険地帯を抜け自分の領地に到達したとは言え、プリームスが消耗してしまったのだ。
いや、消耗させてしまったと言うのが正しいだろう。
命の恩人であるプリームス。
しかもクシフォスの手助けまでしてくれると言ってくれた。
そんな彼女に無理を強いた自分が情けなくて仕方ない。
何とかプリームスに報いる方法が無いか、沈みゆく夕陽を見つめクシフォスは考えた。
自分はこの国に2人しか居ない大公なのだ。
ならば、プリームスに思いのままの報酬を渡す事が出来る。
爵位だって授与する事が出来る。
だがこれは不敬に値するだろう。
一国の王であったと思われるプリームスに、爵位を授与するなど恐れ多くて出来たものでは無い。
それに爵位を授与すると言う事は、”我が国に仕えよ”と言う事なのだ。
それこそ論外である。
どうするか・・・。
ふと思い出すクシフォス。
自分はプリームスに”同等の友人関係で居よう”と言ってしまった。
ならば、友人として出来うるだけの事をすれば良いのだ。
一度で終わる報酬などでは無く、これからも続く友人としての関係で。




