1話・魔王討伐部隊 ※挿絵有り
プリームスは仮設の玉座に静かに座していた。
終わりの時を迎える為に。
既に大元老院からの武装解除の書簡が届いていた。
更に人間側へ、、、教会に投降せよとの上意下達も含まれていた。
魔王は最高統治者であるにも関わらずだ。
しかし魔王プリームスは大元老院には従わない。
従う理由などない。
投降し、戦犯として扱われるなど武人としてのプライドが許さなかった。
ならば最後まで戦い、戦いの中での死を選ぶと言うもの。
それが武人の矜持であり、プリームスが選んだ責任の取り方なのであった。
「プリームス陛下、、、勇者共が間近まで迫っております」
誰もいない玉座の間でプリームスに話しかける声がした。
それは誰もが聞く事が出来る音や声の類いでは無い。
プリームスの意識に直接語りかける思念波であった。
そしてその思念派の発信源は、プリームスの胸元に有る真紅の宝石がはめ込まれたネックレスからだ。
プリームスが少し怒った様子で呟いた。
「急に話し掛けるな。スキエンティア・・・ビックリするだろう」
スキエンティアと呼ばれた声の主は畏まったように、
「も、申し訳ありません・・・しかし、実体があらぬゆえ、手振り身振りが出来ません。よって急にしか話し掛けられません」
プリームスは溜息をつく。
「分かった分かった。相変わらず生真面目な奴だな、お前は・・・」
するとスキエンティアは戯けたような声で言った。
「生真面目なのは陛下がよく緩んでおいでですから、私めがしっかりしなければと思い、こうなったのですよ」
「フフッ」と小さく笑うプリームス。
「こんな時でも、お前はお前らしいな」
終末を迎えようと言う時に、何も変わる事の無い忠臣の振る舞いに心が絆される。
戸惑ったようなスキエンティアの声がした。
「左様で・・・」
次の刹那、玉座の間に緊張が走る。
スキエンティアが警戒した声で報告する。
「来ました」
その時、重く鈍い音が玉座の間に響き渡った。
開いたのだ、玉座の間の重い扉が。
そして姿を現したのは、軽装の剣士、ローブ姿の壮年の男、フルプレートの騎士のたった3人だけだ。
魔界最強の魔王を人間如きが、たった3人で討伐しようと言うのだ。
正気の沙汰ではない。
だがプリームスにとっては戦場で見知った顔でもあった。
幾度もプリームスの本陣へと斬り込み、プリームスを追い込んだ3人、。
プリームスが完全な勝利を達成しかけた時に、突如現れ人軍の撤退を成功させた3人、。
いつもここぞと言う場面で現れプリームスを悩ませた3人、。
そう、この3名は人類最強の戦士であり、大魔導士であり、大騎士であった。
プリームスはほくそ笑んだ。
人類最強の3人であれば、不足などある訳がない。
己が幕引きに打って付けの相手と言えよう。
あらゆる武器を使いこなすのを見た事がある。
その戦士然とした風貌の若い男が、プリームスを真っ直ぐに見据えて言った。
「魔王陛下・・・ご壮健そうで何よりです。しかし、こうして相見えるのは何度めでしょうね。最後にお目にかかれたのは、感慨深いものがあります」
プリームスは玉座に座したまま微笑んだ。
「両手の指で数える程だが・・・卿らはいつも、私が完全な勝利を得ようとした時に邪魔をしてくれた」
そして苦笑に変わる。
「見えた数より悪い印象の方が強いがね」
すると戦士は苦笑すると恭しく礼をした。
「まだ名を名乗っていませんでしたね。私は魔王討伐暗殺部隊の隊長ディケオスニー・カーランドと申します」
ディケオスニーの背後に立っていたローブの男が前に歩み出た。
「ワシはペンシエーロ・・・貴女の討伐に協力するよう、教会より派遣された魔導士だ」
それを聞いたプリームスが少し驚いた様子で呟いた。
「ほほう・・・卿が人間界最強の大魔導士、ペンシエーロか。その名、魔界まで轟いているぞ」
かの魔王に褒められて嬉しかったのか、ペンシエーロは小さく笑むと横を向いた。
その後、待ち侘びたようにガシャリとフルプレートの音を立てて、全身白色の騎士が前に出た。
そして兜のフェイスガードを上げる。
「私はベーネだ」
そこにはうら若き美しい乙女の顔があった。
プリームスは唖然とした。
人軍最強の騎士と呼ばれる人物がこれ程に若い上、女性とは思わなかったからだ。
自嘲するようにプリームスは「フッ」と小さく笑った。
人間を見くびっていたと・・・。
自分は色々と洞察し違えていたと、今更ながらに思い知る。
強さは、才と可能性があれば時間など必要ないのかもしれない。
魔族よりも随分と寿命が短い人間だからこそ、その刹那に強大な力を発揮するのだ。
もっと彼等を知っていれば争い以外の道も有ったのかもしれない。
しかし、もう定められた幕引きを変える事は出来ない。
彼等と戦い自身に終末を告げるのだ。
プリームスは玉座から立ち上がる。
「名乗りは終わった。後は終幕を演じるのみ・・・」
掲げられたプリームスの右手に紅蓮の刃が召喚される。
「私を倒さねば戦は終わらぬ! さあ来るがいい全身全霊で! そして私に終末を告げてみよ!」
ディケオスニーとベーネが同時に剣を抜き放った。