178話・魔法と魔術技能の力比べ
プリームスを捕らえようと迫った黒装束の衛兵2人は、一瞬で打倒されてしまう。
そしてその場にいた一同は、何が起こったのか理解出来ていない様子であった。
「法王ネオスよ、君を守る衛兵を全て打倒せば真面目に話を聞いてくれるのかね?」
そうプリームスは言うと不敵な笑みを浮かべた。
ネオスは表情を強張らせて言い放つ。
「多少の傷なら構いません、何としても取り押さえなさい!」
次の瞬間、プリームスの周囲に黒装束の衛兵が15人ほど姿を現す。
更に今のところ何もしていないフィエルテにも3人ほどが迫った。
『え!? 私、何もしていないんですけど・・・ど、どうしよう?!』
と少し慌てるフィエルテ。
するとプリームスがフィエルテを一瞥して、
「かなりの使い手だが3人程度なら問題無かろう? 修行の成果を見せなさい」
ニヤリと笑みを浮かべて言った。
フィエルテは時間が有ればスキエンティアから技術的な指導を受け、プリームスからは間や呼吸、兆しなどの感覚に依存する特殊な指導を受けていた。
それらの向上が著しい為、プリームスはそう言ったのだ。
にじりにじりとフィエルテに迫る黒装束の衛兵3人。
素手だが仕方ないとフィエルテが腹を括った時、前方で幾人もの低い悲鳴が上がった。
何事かとフィエルテだけで無く迫る3人もプリームスの方へ視線を向ける。
そうすると既にプリームスが伸してしまったのか10人の黒装束が地面に横たわっていた。
その一瞬の間隙をついて3人の黒装束へ迫るフィエルテ。
その速度自体はプリームスを上回る様に思えた。
そして3人の黒装束は、眉間や顎などをフィエルテの肘や掌打に打ち抜かれ一瞬で昏倒してしまう。
フィエルテは自身の身体が思った以上に動く事に驚く。
そんなフィエルテへプリームスは振り返らずに告げる。
「スキエンティアや私を相手に修行したのだから、その程度の者では相手にならなだろう?」
全くその通りだとフィエルテは納得した。
恐らく世界最強の強さを持つ2人に師事しているのだ、生半可な相手では水準が違い過ぎて相手にならないのは明白であった。
フィエルテの傍に居たラティオーは、目の前で起きる事態に驚きすぎて何も出来ないでいた。
法王を守護する立場である為、プリームスの傍若無人を本来であるなら止めねばならない。
だがどう見ても自分が向かって行った所で相手になる筈も無かった。
それにプリームスは言ったのだ、”今仕えている相手も無傷に済むよう計らおう”と・・・。
その言葉が現実になり得るのではないかと、半ば信じていたとも言えるかもしれない。
故にラティオーは動けずに居たのだ。
ネオスは漸く事の重大さに気付き、慌てる様に立ち上がる。
「私が自ら対処します。あなた達は下がっていなさい!」
玉座のネオスとプリームスの距離は既に5m程迄に縮まり至近と言えた。
「この距離で何をするつもりだね?」
とプリームスがゆっくりと歩を進めネオスへ告げる。
一瞬苛立ちの表情を浮かべたが、直ぐに憮然とした面持ちになり、
「魔導院の魔法技術は世界の最高峰にある。貴女の知らない現実を見せてあげましょう」
そうネオスは言うと片手を徐に掲げた。
「魔力の縄」
無詠唱で魔法を発動させたネオス。
その刹那、プリームスの足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから無数の青白い蛇が頭を出した。
否、それは蛇ではなく魔力で形成された縄の様な物であった。
そしてその蛇のような魔力の縄は巻き付こうと、凄まじい速度でプリームスに躍りかかったのだ。
しかしプリームスは特に慌てた様子も無く足を止めると、ワザとらしく驚いて見せた。
「おお?! この様な高度な魔法を操るとは流石と言った所か・・・」
そう悠長に言っている間に、見る見るプリームスは青い魔力の縄で雁字搦めにされてしまう。
これには慌てる他無いフィエルテ。
「プリームス様!!」
急いでプリームスの元へ駆け寄ろうとするフィエルテであったが、まだ無事に残っていた黒装束の衛兵2人に立ち塞がれる羽目に。
「くっ!」
苛立ちを隠せないフエルテへ、再び悠長な口調でプリームスが告げた。
「フィエルテよ、如何なる時も平常心を忘れるな。そしてもっと私を信じるのだ・・・・」
その直後、プリームスを覆っていた魔力の縄は、まるで霧散するように消し飛んでしまった。
驚愕の表情を浮かべて法皇ネオスは呟く。
「相殺魔術・・・・・」
プリームスは感心する。
この世界に魔法を消し去る技術がある事と、それを法王ネオスが知っていたからだ。
「ほほう・・・・流石だな。この世界の魔法技術も捨てた物では無いのかもな・・・・」
そしてプリームスはネオスに触れようと片手を差し出し肉薄した。
しかしまだ諦めていないネオスは叫ぶ。
「雷光弾」
プリームスの目前に突如発現した紫電。
それは轟音を伴い20cm程の雷球と変化する。
「これでお終いです。命までは奪いたく無かったのですが・・・・」
そうネオスが告げると、雷球はプリームスへと凄まじい勢いで迫った。
プリームスは直ぐさま一歩後方へ退がると呟く。
「断空壁」
その直後、プリームスへ向かっていた雷球が空中で急停止したかと思うと、床と天井へ撒き散らすように放電を始めた。
そして直ぐに雷球も放電現象も消失してしまった。
「高度な雷球を発現させられる事には感心するが、如何せん精度が甘い。それにやり方がなっとらん」
と悠長に告げるプリームス。
今し方、直撃すれば死は免れ無い魔法を向けられて言うような事では無い。
だが今起きた事が奇跡などでは無く、必然でしかもプリームスが成した技だと言っている様なものであった。
絶対の自信で放った雷撃魔法が、いとも容易く防がれた事にネオスは絶望の表情を浮かべる。
「こんな馬鹿な・・・・一体どうやって雷撃弾を防いだと言うの?!」
プリームスはネオスの言い様に首を傾げた。
「うん? 私が何をしたのか分からなかったのか?」
分からないも何も、全てが一瞬の出来事でネオスが理解出来る範疇を超えてしまっていたのだ。
しかし理解出来た事が一つある。
それは魔術の頂点に立つ筈の法王を、プリームスが容易に凌いだと言う事であった。




