17話・突破準備(2)
スキエンティアが用意した昼食を摂りながら、プリームスは収納機能を付加したアイテムをクシフォスに渡した理由を話し出した。
「出来るだけ身軽にする必要があった。故にクシフォス殿に”それ”を渡した訳だが・・・」
食べながらキョトンとするクシフォス。
どうやら善意で収納機能があるブレスレットを贈られたと思っていたらしい。
少し呆れつつもプリームスは話を続けた。
「あと15kmも進めば、魔物が徘徊するエリアに入るだろう? 試しに一戦やってみるが、その後は一気に魔法で森を抜ける予定だ。クシフォス殿は意外と重装だからな、それでは困るんだよ」
う~む、と思案した後、クシフォスは気付いた様子を見せた。
「つまり出来るだけ持ち物を収納しておけ、と言う事か。それに一気に魔法で抜けるとは・・・非常に興味深いな。了解した、とりあえずは一切合切収納しても問題ないのだな?」
頷くプリームス。
「問題ない。もし戦闘になるような事があれば、スキエンティアが対処する」
少し驚いた様子のクシフォス。
そして静かに食事を摂っているスキエンティアの方を見た。
「スキエンティア殿が? 失礼だが、とても強そうに見えんのだが・・・。プリームス殿の従者であって護衛では無いのだろ?」
何も言わずに苦笑するスキエンティア。
プリームスとしては自分が弱そうと言われているようで良い気はしなかった。
何しろスキエンティアの身体は、元々”魔王”であったプリームスの肉体なのだから。
行き成り不満をぶつけるのもどうかと思い、どうして弱そうに見えるのか訊いてみる事にした。
「スキエンティアが弱そうに見えるのかね? 理由は?」
出来るだけ威圧しない様に訊いてみたつもりだったが、クシフォスはプリームスに気圧されたようだった。
なので少しおずおずと話しだした。
「うむ・・・何と言うか、プリームス殿にも負けず劣らず美しく華奢なスキエンティア殿に、戦闘が出来る様に見えなくてな。それに俺の経験上、混沌の森の魔物は非常に強い。スキエンティア殿がそれなりに戦えるとしても、一人でどうこう出来るものでは無いよ」
「なるほど・・・」
と呟くプリームス。
確かにスキエンティアが纏っている雰囲気は武人のものでは無いし、そもそもが文官的立場にあった。
恐らくクシフォスは、その辺りを肌で感じたのだろう。
見た目に関しての意見は、プリームスにとって嬉しいような悲しいよう複雑なものだ。
『後で人は見かけに依らないと思い知らせてやろう』
とプリームスはほくそ笑んだ。
食欲が無いのかプリームスは、用意された食事を殆ど残し皿を地面に置いた。
そしてそのまま木にもたれて瞳を閉じると呟くように話し出す。
「因みにスキエンティアは従者では無いぞ。私の世話する者が居ないゆえ、それをスキエンティアがしているだけだ」
不思議そうに訊き返すクシフォス。
「では、どう言った立場なんだ? 俺から見るにプリームス殿とスキエンティア殿は、よく似ている。同じ血統のように見えるしな」
どう誤魔化すか少し逡巡するプリームス。
基本的にスキエンティアにはフードを深めに被ってもらい、その容貌が人目に付きにくい様にするつもりだった。
しかし今は運命共同体と言えるクシフォスと行動を共にしている為、余り隠し事をしたくなかったのだ。
故にスキエンティアはフードを脱ぎ、その燃えるような赤い髪とプリームスに似た容貌を晒していた。
スキエンティアがプリームスを庇うように口をはさんだ。
「プリームス様と私は、クシフォス殿が言う通り同じ血統なのです。似ているのは、そのせいかもしれませんね。それと私はプリームス様の軍師として傍にいました。それもあり近衛の指揮もとっていましたからね、私自身もそれなりに戦えますよ」
「ふ~む」とクシフォスは唸った。
「なるほど、そう言う立場なのか・・・申し訳ない、変に勘繰ってしまって」
スキエンティアは小さく片手を横に振る。
「いえいえ、お気になさらずに。まあ何かあれば私の実力をお見せ出来るでしょう」
食事を済ませた後は、1時間ほど休憩を取る事にした。
スキエンティアがプリームスの体調を心配したからだ。
クシフォスも、死熱病の対処が出来るプリームスに何か有っては困ると同意見だった。
風邪の調子が芳しくないので、プリームスは指輪に収納していた解熱剤を取り出し飲んでおく。
有事に備えて指輪に色々備蓄しておいて正解だった。
それを見たスキエンティアが自身のコートを脱ぐと、プリームスの傍にやって来る。
「陛下、ご無礼をお許しを・・・」
と言いスキエンティアはコートでプリームスを包んだ。
そしてプリームスを自身の膝の上に抱き寄せる。
まるで赤ん坊を抱くように優しく扱われ、少し恥ずかしくなるプリームス。
熱による気怠さから文句を言う元気も無かったので、スキエンティアの好きにさせる事にした。
クシフォスが何だか微笑ましい表情をして2人を見つめた。
「何と言うか・・・プリームス殿はスキエンティア殿に愛されているのだな。只の主従関係には見えん」
スキエンティアは頷くと、少し強い語調で告げる。
「勿論です! プリームス様は私にとって親のような存在であり、師でもあります。そして私が唯一、愛する方でもあるのですから」
スキエンティアの言い様に恥ずかしくて堪らないプリームス。
横目でクシフォスを一瞥すると、ニヤリとした表情を返されてしまった。
『む~、何だか弱みを握られた気がする・・・』
そうしてクシフォスも、色んな意味でお腹一杯になったのか地面に横になりだした。
「上手く事が済んで無事に帰れたら、貴殿達の話を聞きたいものだ・・・」
特に返事も期待していないだろうと思い、プリームスは柔らかいスキエンティアに包まれて微睡みに落ちた。




