1638話・山岳地下の古代遺跡
目の前に聳え立つ只の壁…しかも一切の隙間が無く強固に見えた。
ここはティミドとスィエラが転送された先の、貯水槽?の出入り口付近だ。
「これを突破して先に進むの?」
ティミドの不安そうな問いに、スィエラは僅かに微笑んだ。
「もう忘れたの? この遺跡の入り口を開いたのは誰かしら?」
「う、うん…そうだったわね」
確かにスィエラは遺跡の入り口を解析し、破壊する事なく道を切り開いた。
それでも"この壁"は明らかに異質で、並々ならぬ頑強さと緻密さを感じさせるのだ。
故に、これが開くとは想像出来なかった。
「大丈夫。私は派手な事は苦手だけど、こう言った細かな解析は得意なのよ」
「でも…」
開ける方法が分かっても、それを実行出来るかは話が別である。
すると諭すのを諦めたのか、スィエラは何も言わずに壁へ右手をかざした。
その直後に何処からともなく微風が吹き出す。
『遺跡の入り口の時と同じ…』
スィエラが何をしているのか、ティミドは凡そを推測出来ていた。
物の構造を解析する為に、スィエラは風へ何らかの魔術を付加しているに違い無い。
そしてその風に因って対象へ干渉するのだ。
また風は目に見えない無形…それだけに物質的な制約が無く、容易に干渉が可能なのだろう。
「フフッ…ちゃんとティミドは観察出来ているわね、貴女の推測通りよ」
そうスィエラが告げると微風がピタリと止み、ティミドに振り返る事なく続けた。
「でも如何にして開くか…その道理を理解していないわね」
「え…? あ……そ、そうね」
理解していないと言うか、そもそも分かる筈が無い。
なので飽く迄も推測の範囲を越えなが、恐らく扉の機構を読み取り、それを恰も使用権限者の如く勝手に動かすのだと考えられた。
つまり出入口の機構を騙す訳だ。
そうするとスィエラは嬉しそうに笑った。
「フフフッ…! 流石はプリームスの身内だわ。この世界の人間が、そんな推測をするなんて驚きよ」
「この世界の人間って……まるで他の世界を見て来たような言い方ね」
「……」
これに何も答えず、スィエラは出入口を開ける事へ集中する。
『やれやれ……都合が悪くなると何も言わないんだから…』
自分の思考や過去の情報は筒抜けなのに、こちらからは何も知りようが無い。
何とも不公平だとティミドは思ってしまう。
床が僅かに揺れた。
「んん?! ひょっとして成功した?」
ティミドの問いに、スィエラは踵を返した。
「え? な、何?! って…ちょっと!!?」
突然の展開に混乱するティミド。
その踵を返してきたスィエラが、急に自分を抱えて走り出したのだ。
そう…来た方向へ戻るように。
刹那、轟音が響き、僅かだった揺れが地震のように大きくなった。
「うわぁぁ………」
抱えられたティミドは余りの光景に、つい声が漏れる。
先程まで自分達の居た場所が、左右から迫り出して来た壁で消失していた。
もしスィエラに抱えられて離れて居なければ、壁に押し潰されて命を失っていただろう。
「機構は単純だけど、この設備の構造が複雑で大仰なようね」
「う、うん……」
スィエラの呟きに、ティミドも同感だった。
只ここを抜けるだけで、これ程にも大掛かりに設備が動くのは滑稽である。
そうして2分程の揺れが続く間、貯水槽の出口付近?は駆動し続けた。
左右の壁が交互に横へ迫り出し、そこに加えて突き当りの壁だった物が奥へ引っ込んでいったのだ。
「これって……」
ティミドの呟きに頷くスィエラ。
「うん、これは明らかに階段ね」
1段が30㎝は有りそうで、上るのも降りるのも実に大変そいうな階段。
それが天井まで続いていたのだった。
「えぇぇ……これを上がって行くの?!」
労力を考えるとゾッとしてしまうティミド。
「フフッ……横に進むより全然良いとは思うけど? 水平に移動しては、いつまで経ってもプリームスと合流出来ないわよ」
「まぁそうなんだけど……」
ティミドはスィエラから降りると、諦めた様子で上り難い階段へ向かうのだった。
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先行したティミドと精霊王を追って、長大な回廊を進むディーイーとシン。
既に500mは歩いた筈だが、未だに突き当りには到着していなかった。
また100mの天井付近に宝珠で灯りを燈しているが、それで見渡せる範囲は300m程度で、視認出来る範囲には何もない。
つまり少なくとも遺跡の入口から800mは、只のドでかい通路なだけであった。
「はぁ……はぁ……流石に疲れてきた……ちょっと休憩しよう」
そう告げたディーイーは、素早く収納魔導具からソファーを取り出した。
勿論、寝転ぶ為である。
「ディーイー様…大丈夫ですか?」
声音は淡々としているが、そのシンの表情は普通に心配顔だ。
ディーイーが虚弱体質なのを十二分に承知しているからだった。
「うん……少し休憩したら進もう」
「承知しました。所で、ティミドさんは随分と先に進んでしまった様ですね?」
「ん…? あ……いや、ひょっとしたら転送系の罠に掛かったのかも。宝珠で調べながら進んでいたんだけど、途中で魔法機構が起動した痕跡をみつけたのよ」
目を見張るシン。
「え…?! それは不味いのでは? それにこのまま進んでも…」
正直、意味が無いと思えた。
ティミドが他の場所へ転送されたなら、ここを進んだ所で合流出来る訳もないのだから。
「そうなんだけど……これがもし偶然に罠が発動していたなら、本気でティミドの捜索に注力した方がいい。でも私達を分断する為なら、このまま進むべきだわ」
シンはディーイーの言っている意味を即座に理解した。
「つまり後者なら、この遺跡の管理者なりが私達を危険視しているのですね」
「そう言うこと。その管理者か或いは防衛機構か…どちらにしろ私達を只で帰す気は無いだろうしね。だからボコってティミドと合流するだけよ」
「さ、左様ですか……」
強気なディーイーに少し引いてしまうシン。
しかし、このような発言や振る舞いが出来るのは、ディーイーに相応の実力が有るからだ。
正に超絶者ゆえの自信だと感服するのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




