1632話・一触即発の褐色と狂気(2)
「そうですか……」
落胆した様子で相槌を打つロギオス。
自分の言葉がグラキエースに届かなかった為だ。
その直後、周囲に舞っていた雪の結晶が集まり、数百本にも及ぶ鋭い氷柱が出現した。
グラキエースが"攻撃の為"に作り出したのは、火を見るよりも明らかで、その対象はメディ.ロギオスなのも明白。
そしてグラキエースの逆鱗に触れた代償が、氷柱に串刺しにされて命を落とす…これを一体誰が予想しただろうか?
恐らく馴染みのあるプリームスやスキエンティアなら、氷武帝と呼ばれた彼女の恐ろしさを知って居た筈だ。
そう、相手を選ばぬ無知故の愚行…それをロギオスは犯した。
されど彼は一切怯まずに告げる。
「私を殺して溜飲を下げたとして、その後は如何するのですか? 永劫の騎士同士が争ったなど、聖女皇陛下が何と思われるでしょうねぇ」
「言ったろう、貴様は危険分子だと。それを処理した理由を話せば、きっとプリームス様も理解される…だから安心して死ぬが良い」
と答えたグラキエースは徐に右手を掲げた。
全天を覆うような無数の氷柱。
それがグラキエースの仕草に合わせ、一斉に放たれようとした。
「…?!」
グラキエースは目を見張った。
何と二人の間にガリーが割って入ったのである。
「グラキエースさん! こんな所で仲間割れなんてしないで!!」
そう声を張り上げたガリーは、背後へ向き直り続けた。
「メディ.ロギオス! 貴方もです! あなた方は何の為に此処へ来たの? ディーイーの役に立つ為に来たのでしょう? なのに諍いを始めて…馬鹿なんじゃない?」
この世で"この二人"に「馬鹿なんじゃない?」などど言える者が居るだろうか?
居る筈も無い。
仮に居たとしても、二人の主君である聖女皇くらいだ。
それを差し置いて諭しながらも、二人へ罵声を浴びさせたガリー。
はっきり言って命知らずである。
幸いなのは一人が彼女の伴侶な点だが、それでも片方は狂気の魔法医師…このままでは済まないだろう。
「ガリーさん……そこを退いて下さい」
グラキエースは怒りを抑えながら言った。
「嫌よ、退かないわ! 俺の言っている事は間違って無い筈だもの!」
「……」
グラキエースは逡巡した。
ここで引けばロギオスの言葉を認めた事になる。
かと言って攻撃すれば、伴侶を巻き込んでしまうからだ。
「まさか"この私が"庇われるとはね……」
そうロギオスは呟くと、首を垂れて謝罪した。
「グラキエース殿…不敬な言い様をして申し訳ありませんでした。それにガリーさんと他の御二方も、気を揉ませてしまいましたね…申し訳ありません」
"あの"狂気の魔法医師が先に折れた。
この事実にガリーは目を丸くする。
「……」
『え? え? グラキエースさんを止めたのに…』
脅されていたのはロギオスであり、止める相手はグラキエースなのは間違いない。
しかしながら諍いの起因はロギオスだ。
その彼が謝罪したなら、すんなりと収まるかも知れない。
次元潜航艇の全天を覆っていた氷柱が、一斉に霧散した。
その所為か辺りに雪の結晶が舞い、月明かりで細氷の如くキラキラと輝いたのだった。
「はぁ………私も大人げ無さすぎました」
と溜息をつきながら言うグラキエース。
既に先程までの威圧感は消失していた。
その場にガリーはヘナヘナと尻餅を付いてしまう。
『あぅぅ…死ぬかと思った』
仮にグラキエースを止められても、ロギオスが黙っていないと思ったのである。
そんなガリーに慌てて駆け寄るガオシャン。
クルトに至っては、グラキエースの威圧に晒されて硬直したままだ。
「ちょ、ちょっと、永劫の騎士は一枚岩なのでは無かったの?!」
声を張り上げたいのを抑えて、ガオシャンはガリーへ囁いた。
事前に聞いて居た話では、永劫の帝国は聖女皇の為に存在するとの事だった。
つまり直属の臣下であり、超が付く精鋭の永劫の騎士は、当然に一枚岩でなくては為らない。
これでは主君の意向を無視し、権力闘争をする貴族と変わりない。
「そ、そんな事を言われても…」
困惑するガリー。
超絶者と言えど、それぞれは結局のところ全能では無い人なのだ。
つまり人なら人らしく、多少の喧嘩はすると思えた。
只、何か食い違いや諍いが起こった場合、その規模が尋常では無いのが怖い所だ。
何だか良く分からない諍いが収まり、取り敢えずは良しとすべきだ。
そう気持ちを切り替えたガオシャンは、ロギオスに一礼をして名乗った。
「初めまして…私はリン-ガオシャン……いえ、只のガオシャンとお呼び下さい」
対してロギオスも一礼をして応えた。
「ロギオスです。一応は医者ですので、メディを付けて呼んで頂けると幸いです」
先程の諍いは何処へやら…ケロッとしているのは流石は狂気の魔法医師である。
「あれ…? そう言えばハクメイ姫とヤオシュさんは?」
失念していたように尋ねるガリー。
そもそもハクメイを救出するのがロギオスの使命だった筈。
また同行していたヤオシュが居ないのも、明らかに変だと言えた。
「ハクメイ姫でしたら…アドウェナに操られていた負荷で疲弊しまして、今は安静に眠っていますよ。それとヤオシュ嬢は救出したサーディクさんと母君を看病中です」
ロギオスの返答に、ガリーは少しばかり青ざめた。
「まさか…救出が上手く行かなかったのですか?!」
「いえいえ、寧ろその逆ですよ。上手く行ったから現在療養中なのです。兎に角、ここでは話し辛いですし、中で話しませんか?」
「あ…は、はい……」
抜けかけた腰に鞭を打ち、ガリーは立ち上がった。
そして思うのだ…一体、メディ.ロギオスは何をしたかったのだろうと…。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




