1624話・スィエラの画策
石材で覆われた隧道を50mほど進むと、如何にも重そうな扉?に突き当たる。
因みに灯りは当然だが全く無いので、10m進んだだけで暗闇に包まれた。
なので収納魔導具から出したランタンを使い、ティミドが照らす事となった。
本来ならディーイーが照明魔法を使い、何の不便さも感じないところだ。
それを思うとティミドは、どれだけ主君に頼っていたかを自覚するのだった。
『はぁ……私って役に立ててない…』
主君の手を煩わせず、また主君の行動を快適且つ容易にするのが、そもそも自分の役目なのだ。
これでは利便性の悪い只の小間使いである。
そんなティミドに、背後からソロソロと風の精霊王が近付いてきた。
人間には異質な存在ゆえに、直ぐ悪寒の様な感覚を覚えるティミド。
「……!?」
『どうして私の背後に?!』
するとスィエラは、ソッとティミドの肩へ触れた。
『うぅぅ…!!』
こんな事を思っては何だが…非常に怖い。
それでもティミドは勇気を振り縛り、少しだけ背後を見やった。
真後ろに存在するスィエラ…その姿は辛うじて人の輪郭を保ち、体の周囲に僅かな気流が渦巻いていた。
また奥行きが無いようにも見え、恰も人間大の切り絵かと思えてしまう。
そんな彼女?が自分に触れている。
だが不思議な事に、触れられた箇所からは何も感じなかった。
『どう言う事? 精霊との親和性が低いから?』
ティミドが不可解に思っていると、頭の中へ直接語りかけてくる声が聞こえた。
「貴女は見込みが有るわ。主人の為にも私に協力しなさい」
「…!?」
『これって…スィエラの声?!?』
困惑するティミド。
「貴女の認識中枢へ直に話し掛けてるのよ。これなら私との意思疎通も難しくは無いわ」
そのスィエラの声は想像以上に女性然としていて、ティミドは意外に感じた。
『ディーイー様が女性型と仰っていたけど、これは…』
非常に柔らかで好感の持てる声音だった。
しかし"主人の為に協力しろ"とは、一体どう言う事なのだろうか?
そうすると全て見透かしたのか、スィエラの声が聞こえた。
『こうして直に干渉している以上、貴女の思考は全て私に筒抜けよ。疑問や提案が有るなら、そう思考してみなさい』
ギョッとするティミド。
最高位の精霊ともなると、触れられるだけで心を読まれる事実に驚いたのだ。
何にしろスィエラが自分に干渉して来たのは、それ相応の意味が有る筈。
ならば率直に問うだけである。
『協力するまでもなく、私はディーイー様の為に尽くすわ。それでも足らないと言う意味なら、その訳を説明して欲しい』
ティミドの思考を具に読み取り、間髪入れずにスィエラは返答した。
『今の主人は自己防衛力が著しく低下している。超絶者級の敵が現れれば、貴女達を守りながら立ち回るのは困難。だから貴女が主人と仲間を守りなさい』
そんな事は言われるまでも無く、ティミドは身を呈してでも守り抜くつもりだ。
しかしながら四方京の迷宮での事が脳裏に過ぎる。
あの時はアドウェナに襲撃され、危うく何もかもを失う所だった。
仮に自分が今よりもっと強力な力を有していれば、ハクメイ姫が攫われる事も無く、リキが致命傷を負う事も無かったのだ。
そう思うと遣る瀬無い情動に駆られた。
これを敏感に感じ取ったスィエラは、1つの提案をティミドへ告げた。
『私と契約しなさい。そうすれば今よりも格段に強い力を貸し与えよう』
『契約…?!』
その申し出にティミドは混乱する。
既にスィエラは主君と契約している筈なのだ。
そこに自分が契約しては重複になり、色々な意味で大丈夫なのかと不安になった。
『フフフッ…何も心配いらない。契約の元では無く、私の意思でプリームス様を主人としている』
脳裏に流れて来るスィエラの言葉で、更に混乱が増すティミド。
『んん????』
この世界では精霊に関して、余り研究が進んでいない。
否…厳密に言うと精霊魔術は、遥か昔に失われた技法なのである。
そもそも魔術も1000年前の大転倒時に遺失し、漸く今の水準まで復元されたのだ。
そんな現状の中で魔術や精霊魔術は、突出した人物が密かに権威として存在している。
そう、プリームスや狂気の魔法医師だ。
故にスィエラが言うような事を、ティミドが知る由も無かった。
『え〜と……精霊と契約する事で、人は魔術以上の力を行使出来るのよね? でもディーイー様は貴女と契約せずに、風の精霊王の力を行使しているの?!』
これは飽く迄もディーイーからの受け売りで、ティミドが勝手に解釈した事だった。
ティミドの疑問に、再びスィエラは間髪入れずに答えた。
『本来、精霊は人に対して友好的で、親和性の高い者に自然と集まっていたわ。でも精霊は人にとって毒にも成り得る。だから失う事を恐れた精霊は、人と1対1の契約に因って独占するようになったのよ』
『え……それって詰まり、精霊に群がられた人間は、耐えられずに死ぬって事?!』
『………』
言語としての肯定は無くとも、その情動がティミドに伝わって来た。
『やっぱり…死ぬのね』
どうやら精霊と干渉し合うと、互いの思考が筒抜けになるようだ。
よくよく考えれば"精霊病"なるものが、この世には存在する。
これは精霊と親和性の高い生き物に、人間が近くに居過ぎると患うとされていた。
そして精霊力に準じた症状により、最後は衰弱死してしまうのである。
ふとティミドは思う。
只の精霊…もとい精霊の宿主?に近付いただけで、人は死に至る病を患うのだ。
なのに主君は精霊王を、"少なくとも"2体は従えている。
果たして悪影響が無いのか、臣下としては心配でならない。
その危惧がスィエラに伝わった。
『心配はいらない。主人は人間の基準を遥かに凌ぐ境地に在る。どのような存在でも、あの方を蝕むには至らない』
『そう…良かった……』
ホッと胸を撫で下ろすティミド。
『して…如何する? 私と契約し力を得るか? それとも無力なまま主人に守られるか?』
もうそれは煽りと同じだった。
その所為でティミドは、自尊心を刺激されてしまうのであった。
『わ、分かったわよ! そこまで言うなら契約してあげるわよ!!』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




