1621話・クラーウィスとディーイー(3)
「この山岳地帯の何処か……いや、この村の近くに箱舟を隠しているな?」
そんな事を急にディーイーから問われ、クラーウィスは表情を一変させてしまう。
「…!!」
そして直ぐ顔に出した事を後悔した。
『うぅぅ…これじゃぁ肯定してるのと一緒だわ』
「フフッ…やっぱりそうか。まぁ話したくないなら別に構わないよ」
「え?! 良いの?」
「うん。君も無理な協調を強いらないと言っただろ。だからお互い様だよ」
二人の遣り取りに焦れたのか、リキが頭を掻きながら言った。
「ご歓談のところ悪いんだがな、結局どうするんだよ?」
「ん? あぁ〜〜船に戻るかどうかだったか」
ディーイーは少し思案してから答えた。
「……一旦船に戻るか。カルボーが待ってるだろうし、何より狂飆の守護者の報告も吟味したいしな」
「そうか…じゃあ俺も船に戻らなきゃな」
そう言った直後に、リキは悲鳴を上げる羽目となる。
「ぐわぁ!?!」
クラーウィスが思いっきりリキの尻を蹴飛ばしたのだ。
「何いってるの!! 帰ってきて早々に妻を放置するなんて、馬鹿なんじゃない?」
クラーウィスに怒鳴られ、いつも以上にシュン…となるリキ。
「うぅ…蹴るなんて酷い……」
しかも蹴られた勢いで四つん這いになり、非常に情けない。
「フフフッ…ならリキさんはクラーウィス嬢と居れば良いよ。用事や話が有れば迎えに行くしな」
こうして一時間ほど休憩したディーイー達は、リキとクラーウィスを残して次元潜航艇に戻るのだった。
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「何と言うか…嵐のように来て去って行ったわね」
クラーウィスは山小屋の窓から空を眺めて、少し呆れた様子で呟いた。
先程、ディーイー達は得体の知れない何かに運ばれ、上空に待機している次元潜航艇へと戻って行ったところだ。
それが余りに奇異的で、驚きを通り越して呆れていたのである。
『人が飛んでるのを初めて見たわ…』
制限が解除され、自分も魔術が使えれば飛ぶ事も可能だろう。
しかしながら一人では無く、同時に3人を飛ばすなど幾ら魔術師でも出来はしない。
『やっぱりディーイーさんは規格外過ぎる』
「俺は他に凄いのを幾つも見てるからよ、今更驚く事は少ないがな。でもよ、あれで万全じゃねぇんだから、未だに信じられねぇわ」
などと、こちらも半ば呆れながら返すリキ。
「なら万全な時は、どれくらい凄いの?」
クラーウィスは物凄く興味が惹かれる。
ディーイーの武技は勿論のこと凄いが、その戦いに対しての覚悟が自分と全く違っていた。
それだけでも驚嘆に値するのだが、そこへ更に"凄いの"が有ると言うなら是非とも見てみたい。
それが駄目なら、せめて詳しい話を聞きたいと思ったのだ。
リキはベッドに腰掛けると、記憶を探る様に視線を泳がせた。
「う〜ん………」
「何? 言えないの?」
「いや…何をどう話せば良いか迷ってな」
相変わらず要領が悪いリキに、クラーウィスは溜息が出てしまう。
『見た事を言うだけで良いのに…』
「じゃあ、ディーイーさんの一撃の強さは?」
これには直ぐ答えを返すリキ。
「素手で巨岩を粉砕するぞ」
「え……あの白くて細い腕と拳で?!」
クラーウィスは耳を疑った。
「あぁ……俺も目ん玉が飛び出るかと思った」
『どう言う原理なの…?!』
理解が及ばず困惑するクラーウィス。
例え自分が鉄槌を持っていても、巨岩の外側を欠かすのが精一杯だ。
なのに粉砕とは、とても人間業とは思えなかった。
「ディーイーさんに少し聞いた話だと、螺旋の力を利用するらしい。一応は理屈も教えて貰ったけどよ…ちんぷんかんぷんだ、ぶはは」
豪快に自嘲するリキに、今回ばかりはクラーウィスも頭を抱えた。
『もうっ…肝心な所が分からないと意味無いじゃん!』
それでも"螺旋"が分析への良い鍵となる。
『螺旋……私に受け継がれた情報だと……』
2つの異なる力を螺旋状に束ね、それを出力する技法だった。
その中で最も基本的と言われるのが、自身と地面との反発を利用した大地の力と、体内で練り上げた”気”との螺旋だ。
と言っても尋常でない程に難しく、最も基本的にも拘わらず只の達人程度では実戦で使いこなせない。
かく言う自分も未修得な状態なのである。
だが1つ疑問が湧く。
この螺旋を使いこなせても、問題の攻撃手段が軟弱だと意味がない。
要するに幾ら攻撃が強くても、それを放つ為の拳が”常人のそれ”では、放った瞬間に自分の拳を砕いてしまうからだ。
否…拳だけでなく、腕までもを粉砕骨折させてしまうに違いない。
『え…?! じゃぁ…あんな弱そうな体が鋼鉄みたいに強靭なの?!』
「ね、ねぇリキ! ディーイーさんって体が無茶苦茶に頑丈なの?」
クラーウィスの問いに、リキは鼻で笑って答えた。
「フッ! そんな訳無いだろ。クラーウィスも見た通りに体力も無くて、物凄い虚弱体質だぞ」
「…??? なら、どうして素手で巨岩を砕くのよ?」
「そんなもん俺が知りてぇよ!」
「えぇぇ?!」
『こいつ役に立たない……』
どうも要領を得ず、クラーウィスは色々と落胆する羽目になる。
あからさまに落ち込む養女…もとい幼妻に、
「まぁそう落ち込むなよ…折角、俺が帰って来たんだし、パ~っと明るくいこうぜ」
などと空気を読まない発言をするリキ。
「何が明るくよ!! あんたが役に立たないから落ち込んでるんでしょ!! この唐変木!!!」
「えぇぇぇ?!!?」
結果リキは、クラーウィス以上に落胆する羽目になるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




