1618話・クラーウィスの技能の秘密(2)
「さて…覚悟して貰いましょうか」
などと言ってジリジリと迫るクラーウィス。
そして迫られるのは半裸状態のディーイーだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
何がどうしたのかと言うと、クラーウィスがディーイーの治療をすると言い出したのである。
これにティミドが不安に為らない訳が無い。
「クラーウィスさん、待って下さい! 何を如何に治療するつもりですか?!」
「それは…打撲箇所に湿布するのよ」
そう答えたクラーウィスは小箱を開ける。
そしてベッドの傍に有る小テーブルに、その中身を並べだしたのだった。
「……湿布…ですか?」
『これは思ったより…』
ちゃんとしていて意外に思うティミド。
並べられたのは小さな薬瓶で、瓶の側面には札が貼られており、何やら色々と文字が記入されていたのだ。
更にクラーウィスは10cm四方の布を小箱から取り出し、
「準備するから少し待っててね」
と言って一番大きな薬瓶を開け、その中身を布に塗布し始めた。
それが済むと徐にディーイーへ近付き、青痣が出来た左の鎖骨下へ湿布を貼った。
「ひゃっ!」
つい声が漏れるディーイー。
予想以上に湿布が冷たかったのである。
その後は丁寧に包帯を巻かれ、湿布が剥がれない様に固定された。
「やれやれだわ…少し上だったら鎖骨が折れてたかも知れないわよ?」
クラーウィスに苦言を口にされ、先程にも増してディーイーはシュン…と小さくなった。
『うぅぅ…魔法障壁が有る癖で、つい生身で受けたなんて言えないな……』
それこそティミドに怒られてしまうだろう。
そんなディーイーを他所に、ティミドは感心した様子で尋ねた。
「クラーウィスさんは随分と手際が良いですね。それも貴女が服わぬ一族の女王だからですか?」
正に確信を突く問いだが、これにクラーウィスは案外と気にした様子も無く答える。
「そうよ〜〜大体の事は一人で出来ちゃうよ」
「つまり…ディーイー様の推測通りだと?」
「うん。歴代の女王の技能を、私は遺伝子を介して受け継いでいるわ。でも少し制限も有ってね…まだ魔法技能は使えないの」
訊いた当人でありながら、少し心配になってしまうティミド。
「そんな赤裸々に語って大丈夫なのですか? 秘匿事項なのでは?」
するとクラーウィスは顎に人差し指を付けると、態とらしく思考してから言った。
「う〜ん…貴女達が協調してくれる仲間なら、大抵の事は話せると思うよ。敵になるって言うなら話は違うけど」
何とも聡明いが、その仕草は美少女だけに可愛らしい。
「そうなのですか…」
ティミドは表情に出さないが、非常に危機感を覚えていた。
と言っても政治的な事では無く、実に個人的な損得を基準にしている。
『くっ…可愛いじゃないの! それにディーイー様の好みに沿ってそうだし…』
そんな事など露知らず、クラーウィスは続けた。
「私が女王として覚醒したからには、一族の全権限は私に有るわ。つまり私が良いと判断すれば問題ないの。だから知りたい事が有れば、気兼ねなく訊いてくれれば良いよ」
「全権限ですか…」
そう呟いたティミドは、それとなく主君を見やった。
『ここは私が質問するよりも、王同士の話し合いが良いわよね…』
対してディーイーは、ティミドの意図など全く気付いていない。
『ふむ…歳の割には確りしているな。それにリキさんには勿体無い器量だし…』
ほんの少しだが身内にしたい欲に駆られていた。
ここで見兼ねるシン。
「ディーイー様…クラーウィスさんは恐らく王同士の会談をお望みかと」
「え? あ……そうなの?」
ディーイーの素っ頓狂な反応に、その場に居た全員がズッコケそうになる。
「ディーイー様……」
「ちょっ?! ディーイー様!?」
「おいおい…クラーウィスの話しを聞いてなかったのかよ?!」
「えぇぇ……ディーイーさん…本当に皇帝なの?!」
『うぐっ…皆の視線が冷たい』
「え〜と…じゃぁ、クラーウィス嬢の秘密は追い追い聞くとして、協調関係の詳細を明確にしようか」
ディーイーの提案に、クラーウィスは頷くとベッドの隅に腰掛けた。
「うん、分かった。でも、そんな安易に受け入れて後悔しない?」
「どの道、リキさんの村を庇護するのが目的だからね。その質が変わろうが、私の決めた事に変更は無いよ」
「要するに見返りを求めるつもりは無いと?」
「まぁね。でも協調したいと言うなら、"して貰える事"は受け入れるよ」
「ありがとう、ディーイーさん。なら先ずは私の目的…いや、使命を率直に言うわね」
そう居住いを正して言うクラーウィスに、その場の全員が固唾を飲んだ。
「「「……」」」
「うん…どうぞ」
「服わぬ一族の目的は、世界の均衡を保つ事なの。突出し過ぎた国家が世を乱すなら、その力を削ぐ…或いは滅ぼすわ。そして戦乱や大災害で文明が滅びかけたなら、復興するように手助けをするの」
「ほほう…面白いな」
『守り人一族と似ては居るが…そもそもの使命が違うか』
クラーウィスの語った内容で、凡そを洞察するディーイー。
恐らく守り人一族、月の民、そして服わぬ一族は同じ発祥なのだ。
しかし使命が違う。
人を淘汰しようとする存在…魔神を倒すのが守り人一族の役目であり、月の民は世の文明力の補助や維持が役目だ。
また服わぬ一族は世界の均衡を保つ為の、言わば裁定人と言ったところかも知れない。
だが前者2つと決定的に違うのは、その時々の権力に依存し過ぎない事だろう。
既に守り人一族と月の民は、永劫の帝国へ完全に取り込まれた状態で、自分に服従してしまっている。
されど服わぬ一族は飽く迄も"協調"を前面に立て、下でも無く上でも無く、同等を望んでいるのだ。
『これは……服わぬ一族の意思に沿わぬ場合は、簡単に私と袂を分かつ証拠だな』
そう判断したディーイーは率直に問うた。
「事の次第に因っては、私を裏切る可能性も有るって事だな?」
目を丸くするクラーウィス。
「………」
「お~い!」
「え……あ……ごめんごめん。そんな訳無いでしょ。こう見えて私は人を見る目は有る…と言うか受け継がれた統計からの判断で、ディーイーさんの様な人は稀だわ。だからきっと私達が裏切り合うような事には為らないよ」
「統計って……」
ディーイーは何とも言えない気分になる。
判断とは、経験し蓄積した情報を元に行う。
つまり保有する情報が多い程、その判断が自身に有益をもたらす可能性が高い。
しかしながら現実は、そう簡単なものでも無い。
『やれやれ……情報に囚われ過ぎるのも良くないんだがな』
世に存在する不確定要素…人の妄執や因果が、確立や統計を大きく凌駕する事があるのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




