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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1610話・辺境の名も無き村(3)

「リキから話は伺いました。これで儂の使命も漸く終わりを迎えられそうです」



などと言い出すローレに、益々ディーイーの中で怪訝さが募った。

「使命…? それは私が何者かを知って言っているのか?」



ピリ付いた空気にリキが慌てて反応する。

「ディーイーさん、すまん! 俺に細かな説明は無理でよ…率直に言っちまった」



「……私が永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの王だと言ったのか? 状況説明より先に?」

少しムッとしながら聞き返すディーイー。


どうせ後で分かる事だが、それでも一番の目的は村人等の安全確保なのだ。

故に優先順位を間違ったリキに、僅かだが苛立ちを覚えたのである。



「すまない…」

しゅん…となるリキ。



「はぁ……まぁ良いよ、さっさと家に入らなかった私も悪いしね」

溜息をつきながら返した後、ディーイーは見事な禿頭の老人へ続けた。

「で、私が王だと言う事を、ローレ村長は信じるのかい?」


自分で言うのも何だが、目元が隠れる仮面をつけて、尚且つ10代に見える小娘なのだ。

そんな奴が急に来て王などと言われても、普通なら誰も信じない。

それこそ権威で威嚇し、詐欺を働く輩に見えて当然だろう。



するとローレは微笑みながら答えた。

「悪しき者ならクラーウィスが黙って居なかったでしょう。それに村を思うリキがお連れした方…ですから儂は信用しました。それに儂らは"待って居た"のです」



ディーイーは村長の傍に立つクラーウィスを一瞥した。

『やはり只の人間では無かったか…』


この地域に漂う魔力濃度の高さ、質の良い龍脈、人が生活し難い場所に在る村…これらが一本に繋がった気がした。

「成程…つまり、この人が寄り付かない辺境で、信用出来る権力者を待ち続けて居た。そうローレ村長は言いたいのか?」



ローレは頷いた。

「左様です…」



内心で頭を抱えるディーイー。

ある意味で実に興味を惹く話だが、面倒事に関与してしまうのは間違い無い。

『他に解決せねば為らない事を抱えているのに…』


しかしながら今更になって嫌とも言えない。

仕方無しにディーイーは、引き受けるつもりで話しを促した。

「兎に角、詳しく話を聞かねば始まらない。準を追って説明して貰おうか」



ローレが「承知しました」と言うより早く、リキが素っ頓狂な声を上げた。

「ふぁ?! クラーウィスが黙って居ないって…どう言う事だ??!」



これにローレが失念していたとばかりに声を漏らした。

「あ……」



『やれやれ…養父であり夫にもなるリキさんが知らないとは、』

呆れるディーイー。


だがクラーウィスの言動から察するに、随分とリキは村に戻っていなかったようだ。

因って仕方ないのかも知れないが、蚊帳の外のような扱いで気の毒にも思えた。


なのでリキの疑問解決を優先する事にした。

「リキさんにクラーウィス嬢の能力を教えなかったのは、何か理由があったのだね?」



ディーイーの問いに、苦笑いを浮かべながら答えるローレ。

「はい……クラーウィスの存在は秘匿事項であり、それを守るのも我が一族の使命なのです。ですがリキは見ての通り腕っ節は良いのですが…」



「あ〜〜脳筋だから、うっかり秘密を漏らさないか心配だったのだな?」



「仰る通りです」



村長とディーイーの遣り取りに、透さず立ち上がり異義を唱えるリキ。

「ちょっ!! 村の為に出稼ぎしてる俺に失礼じゃないか?!」



「フフフッ…リキさんの気持ちも分かるが、ローレ村長の判断は正しいと思うぞ」



そうディーイーに言われては、これ以上の抵抗は無駄だとリキは諦めるしか無い。

『うぅ…ディーイーさんが御爺の肩を持つなら…』

されど味方が居れば話は違う。

「クラーウィスは俺の味方だよな?!」



「ん〜〜〜御爺の判断は正しいと思うよ」



最愛の妻?の裏切りに、リキは食卓へ突っ伏すのだった。

「ひ、ひどい…」



「うはは! まぁ秘密なのは分かった。で、どうしてクラーウィス嬢を秘匿するのだ? 私の見立てでは随分と"出来る"ようだが」

ディーイーが感じたクラーウィスの第一印象は、快活で小気味良い美少女…である。


だが、その身のこなしを見ると、まるで熟練した暗殺者のようにも感じた。

加えて内包する魔力が、常人の"それ"とは隔絶する程に大きい。

ここまで来ると隠し様が無く、秘匿とは一体?…と思えてしまう。


『まぁ超絶者に近い境地でないと、クラーウィス嬢の力を看破出来ないだろうが…』

と考えつつもディーイーは違和感を覚えた。

少なくともクラーウィスは、リキと同等以上の実力が有る。

それを鑑みると、その潜在能力を養父のリキが気付かないのも変だ。


『んんん??? ひょっとしてリキさんが鈍感だから気付かなかった?』

少し混乱するディーイー。



そうするとローレが察した様子で言った。

「クラーウィスが"覚醒した"のは、1ヶ月殆ど前の話なのです。それまでは普通の娘だったので、リキが気付かないのも無理は有りません」



「ふむ…覚醒か。それでクラーウィス嬢は何者なのだ?」



これにクラーウィスが自ら答えた。

「私はまつろわぬ一族の王女なの」



「まつろわぬ一族…?」

聞き慣れぬ名称に首を傾げるディーイー。



「まつろわぬ…この言葉は"何者にも服従しない"を意味するの。だから私達は誰の支配も受け入れないし、どんな神も信奉しないわ」



このクラーウィスの言い様は明らかに矛盾が有り、それをディーイーが気付かない筈も無かった。

「妙な事を言う。信用出来る"権力者"を待ち続けていたのだろう? 何者にも服従しないのにか?」



「ディーイー様の指摘された事はご尤もです。しかし見方を変えれば、また違う解釈が可能なのでは有りませんか?」

ただ否定するのでは無く、やんわりと問いを投げかけるローレ。

その話術は相手をおもんばかり、相互理解を願う意図が窺えた。



故にディーイーは直ぐ、ローレの言わんとする事を察する。

と言うか、消去法で1つしか残らない。

「服従では無く、協調…だな?」



「正解てす。権威に固執する王ならば、きっとその答えには至らなかったでしょう」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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