1610話・辺境の名も無き村(3)
「リキから話は伺いました。これで儂の使命も漸く終わりを迎えられそうです」
などと言い出すローレに、益々ディーイーの中で怪訝さが募った。
「使命…? それは私が何者かを知って言っているのか?」
ピリ付いた空気にリキが慌てて反応する。
「ディーイーさん、すまん! 俺に細かな説明は無理でよ…率直に言っちまった」
「……私が永劫の帝国の王だと言ったのか? 状況説明より先に?」
少しムッとしながら聞き返すディーイー。
どうせ後で分かる事だが、それでも一番の目的は村人等の安全確保なのだ。
故に優先順位を間違ったリキに、僅かだが苛立ちを覚えたのである。
「すまない…」
しゅん…となるリキ。
「はぁ……まぁ良いよ、さっさと家に入らなかった私も悪いしね」
溜息をつきながら返した後、ディーイーは見事な禿頭の老人へ続けた。
「で、私が王だと言う事を、ローレ村長は信じるのかい?」
自分で言うのも何だが、目元が隠れる仮面をつけて、尚且つ10代に見える小娘なのだ。
そんな奴が急に来て王などと言われても、普通なら誰も信じない。
それこそ権威で威嚇し、詐欺を働く輩に見えて当然だろう。
するとローレは微笑みながら答えた。
「悪しき者ならクラーウィスが黙って居なかったでしょう。それに村を思うリキがお連れした方…ですから儂は信用しました。それに儂らは"待って居た"のです」
ディーイーは村長の傍に立つクラーウィスを一瞥した。
『やはり只の人間では無かったか…』
この地域に漂う魔力濃度の高さ、質の良い龍脈、人が生活し難い場所に在る村…これらが一本に繋がった気がした。
「成程…つまり、この人が寄り付かない辺境で、信用出来る権力者を待ち続けて居た。そうローレ村長は言いたいのか?」
ローレは頷いた。
「左様です…」
内心で頭を抱えるディーイー。
ある意味で実に興味を惹く話だが、面倒事に関与してしまうのは間違い無い。
『他に解決せねば為らない事を抱えているのに…』
しかしながら今更になって嫌とも言えない。
仕方無しにディーイーは、引き受けるつもりで話しを促した。
「兎に角、詳しく話を聞かねば始まらない。準を追って説明して貰おうか」
ローレが「承知しました」と言うより早く、リキが素っ頓狂な声を上げた。
「ふぁ?! クラーウィスが黙って居ないって…どう言う事だ??!」
これにローレが失念していたとばかりに声を漏らした。
「あ……」
『やれやれ…養父であり夫にもなるリキさんが知らないとは、』
呆れるディーイー。
だがクラーウィスの言動から察するに、随分とリキは村に戻っていなかったようだ。
因って仕方ないのかも知れないが、蚊帳の外のような扱いで気の毒にも思えた。
なのでリキの疑問解決を優先する事にした。
「リキさんにクラーウィス嬢の能力を教えなかったのは、何か理由があったのだね?」
ディーイーの問いに、苦笑いを浮かべながら答えるローレ。
「はい……クラーウィスの存在は秘匿事項であり、それを守るのも我が一族の使命なのです。ですがリキは見ての通り腕っ節は良いのですが…」
「あ〜〜脳筋だから、うっかり秘密を漏らさないか心配だったのだな?」
「仰る通りです」
村長とディーイーの遣り取りに、透さず立ち上がり異義を唱えるリキ。
「ちょっ!! 村の為に出稼ぎしてる俺に失礼じゃないか?!」
「フフフッ…リキさんの気持ちも分かるが、ローレ村長の判断は正しいと思うぞ」
そうディーイーに言われては、これ以上の抵抗は無駄だとリキは諦めるしか無い。
『うぅ…ディーイーさんが御爺の肩を持つなら…』
されど味方が居れば話は違う。
「クラーウィスは俺の味方だよな?!」
「ん〜〜〜御爺の判断は正しいと思うよ」
最愛の妻?の裏切りに、リキは食卓へ突っ伏すのだった。
「ひ、ひどい…」
「うはは! まぁ秘密なのは分かった。で、どうしてクラーウィス嬢を秘匿するのだ? 私の見立てでは随分と"出来る"ようだが」
ディーイーが感じたクラーウィスの第一印象は、快活で小気味良い美少女…である。
だが、その身のこなしを見ると、まるで熟練した暗殺者のようにも感じた。
加えて内包する魔力が、常人の"それ"とは隔絶する程に大きい。
ここまで来ると隠し様が無く、秘匿とは一体?…と思えてしまう。
『まぁ超絶者に近い境地でないと、クラーウィス嬢の力を看破出来ないだろうが…』
と考えつつもディーイーは違和感を覚えた。
少なくともクラーウィスは、リキと同等以上の実力が有る。
それを鑑みると、その潜在能力を養父のリキが気付かないのも変だ。
『んんん??? ひょっとしてリキさんが鈍感だから気付かなかった?』
少し混乱するディーイー。
そうするとローレが察した様子で言った。
「クラーウィスが"覚醒した"のは、1ヶ月殆ど前の話なのです。それまでは普通の娘だったので、リキが気付かないのも無理は有りません」
「ふむ…覚醒か。それでクラーウィス嬢は何者なのだ?」
これにクラーウィスが自ら答えた。
「私は服わぬ一族の王女なの」
「まつろわぬ一族…?」
聞き慣れぬ名称に首を傾げるディーイー。
「まつろわぬ…この言葉は"何者にも服従しない"を意味するの。だから私達は誰の支配も受け入れないし、どんな神も信奉しないわ」
このクラーウィスの言い様は明らかに矛盾が有り、それをディーイーが気付かない筈も無かった。
「妙な事を言う。信用出来る"権力者"を待ち続けていたのだろう? 何者にも服従しないのにか?」
「ディーイー様の指摘された事はご尤もです。しかし見方を変えれば、また違う解釈が可能なのでは有りませんか?」
ただ否定するのでは無く、やんわりと問いを投げかけるローレ。
その話術は相手を慮り、相互理解を願う意図が窺えた。
故にディーイーは直ぐ、ローレの言わんとする事を察する。
と言うか、消去法で1つしか残らない。
「服従では無く、協調…だな?」
「正解てす。権威に固執する王ならば、きっとその答えには至らなかったでしょう」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




