1609話・辺境の名も無き村(2)
「クラーウィスさん…初対面の相手に少し無礼では有りませんか?」
人懐っこい…もとい馴れ馴れしいクラーウィスに、ティミドが苛立った口調で告げた。
これにクラーウィスは少しキョトンとした後、首を傾げながら返す。
「無礼? どうして? 対話しないと相手の事が分からないのに、何も訊くなって言うの?」
「そうでは無くて、初対面の相手には礼儀をもって接するべきでしょう。もし相手が地位の高い者なら、不興を買って大変な事になりますよ」
「高い地位? そんなものが此処で役に立つの? 偉いとか偉く無いとかの話しなら、人よりも成果を上げてたり、皆んなの為になる事をした人の事でしょ?」
ティミドの説教に対し、疑問で迎え撃つクラーウィス。
このクラーウィスの遣り方は、相手を論破する常套手段の一つだ。
最後は矢継ぎ早に示される疑問に、相手は正確な答えが出来なくなってしまうのである。
結果、調子と論点を崩されて、恰も論破された様になるのだ。
そしてディーイーはと言うと、二人のやり取りが面白く見える始末。
『うはっ! これは興味深いな』
「論点をすり替えないで下さい。初対面の相手に礼を失するな…そう私は言っているのです」
『おおお! 流石はディミド!』
ティミドの切り返しに感心するディーイー。
普通なら意地になって、相手の疑問に付き合ってしまう所だからだ。
するとクラーウィスは意外にも簡単に引き下がった。
「そう言う事なら私が悪かったよ。ごめんね…」
「……分かれば良いのです。今後は言動に注意して下さいね」
とティミドも同じく潔い。
『な〜んだ…盛り上がらなかったか、』
ガッカリするディーイーだが、そう事は簡単に済まなかった。
先程の言い合いは何処へやら、クラーウィスは気にぜずディーイーに絡んだのである。
「ねぇねぇ…団長さん、ここには何しに来たの?」
「こ、この子は!」
カチンと来たティミドをディーイーは片手を上げて制した後、クラーウィスへ告げた。
「実は、この村を引き払って貰おうと思ってね」
「え……?」
まさかの返答にクラーウィスの足が止まる。
そんな少女の手を取って引くと、ディーイーは静かに続けた。
「理由は村長を交えて話すよ」
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村長の家は山道の一番奥に在った。
また村長でも他の民家と変わらず、然して大きい訳では無い。
つまり格差が発生しない程、村が貧しい証拠と言えた。
因みに民家の建築様式は、北方特有の様式に捉われていない。
そもそも"それ"に拘れない位に平地が無く、殆どが斜面なのだ。
故に元から生えている大木などを利用して、この村特有の家屋を建てていた。
そんな村の様子を目にしたディーイーは、染み染みと人間の強かさと順応に感嘆する。
また同時に、こんな生活の難しい辺鄙な場所に住む理由が知りたくなった。
『恐らく何か理由が有る筈だが…』
ぼんやりと周囲を見渡すディーイーに、クラーウィスが不思議そうに尋ねた。
「どうしたの? 早く御爺の所へ行こうよ」
「ん? あぁ〜〜少ない土地を上手く利用してると思ってな」
「……団長さん、話し方が年寄りみたいだね」
これにティミドがムッとした。
「……」
ディーイーは直ぐ身振り手振りでティミドを宥めた後、苦笑しながらクラーウィスへ告げる。
「こう見えて結構な歳なんだよ。だから無茶振りしないで欲しいかな」
「無茶振り? しないしない! こんな綺麗で世話焼きな人に、意地悪なんてしないよ!」
このクラーウィスの反応で、ティミドの溜飲が下がる事に。
「そうでしょう、ディーイー様は世界一美しいですから」
だが後の言葉が少しばかり引っ掛かってしまう。
「って…世話焼きは余計ですよ!」
「えぇぇ?! だって…こんな山奥にリキと来るなんて、絶対にお節介でしょ?」
「うぐっ!」
的を射ているだけに返す言葉が無いティミド。
そして当事者のディーイーはと言うと、可笑しくて笑いを堪えていた。
「くっ…くく……なんて率直な…」
ここまで来ると小気味良くて、逆に憎めないと言うものである。
そうこうしていると、先に村長の家に入っていたリキが出て来る。
「どうした? 早く中に入ってくれ、村長が待ってるぞ」
「うん、直ぐ行くよ」
『フフッ…リキさんみたいな脳筋で少し朴念仁には、これくらい快活な方が良さそうだな』
などとディーイーは思いながら、笑いを堪えつつ家の戸を潜ったのだった。
中に入ると直ぐに居間になっており、暖炉の傍に一人の老人が佇んでいた。
「済まない…急に押しかけてしまって。私の名はディーイー、傭兵団・眠りの森の団長をしている者です」
先にディーイーが名乗ると、その老人は人の良さそうな笑顔を浮かべる。
「これはこれは、こんな山奥まで来られて大変だったでしょう。どうぞ掛けて下さい」
食卓の席に皆を座らせると、この老人は茶を淹れながら名乗った。
「儂は村長をしておるローレと申します」
『ローレ……?』
怪訝そうにするディーイー。
クラーウィスもそうだが、北方人にしては北方人らしからぬ名前だからだ。
どちらかと言えば南方…いや、古代人が使う語感の印象を受けた。
皆にお茶を提供し終えたローレは、自分も椅子に腰かけると疲れた様子で言った。
「リキから話は伺いました。これで儂の使命も漸く終わりを迎えられそうです」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




