1604話・狂飆の守護者(2)
船縁から周囲を見渡したリキは、顔を青ざめさせた。
「おいおいおい………何で下に船を降ろさないんだよ」
リキが文句を口にするのは当然だった。
ディーイー達が乗って来た次元潜航艇は、深い渓谷の中腹に浮かんでいたのだ。
この次元潜航艇の場合は目的の座標に着いたなら、人が下船する為に地面へ船を降ろさねば為らない。
埠頭や桟橋に横付けする普通の船とは、そもそも扱いが違うのである。
これにディーイーは困り顔で返した。
「そんな事を私に言われてもなぁ…」
するとリキの目の前に、淡い光が突然出現する。
「むぉ?!!」
慌てるリキに、”また”姿を隠していたカルボー010が言った。
「申し訳ありません。この次元潜航艇は試作一号艦で、水平な場所で無いと停泊できないのです。その代わり内部での快適性を追求していまして…ですからご容赦願います」
『また急に現れやがって…』
「ならどうやって下船するんだよ」
「さぁ…?」
と他人事の様に首を傾げるカルボー101。
「こいつツ!」
「まぁまぁ、リキさん落ち着いて。こうなる可能性は分かってたから、狂飆の守護者を召喚したんだよ」
怪訝そうするリキ。
「ほほう…どうするんだ?」
「簡単な話だ。飛び降りるんだよ」
「なっ?!」
リキが異を唱えようとした直前に、その場に居た全員の肌がヒリ付く感覚を覚えた。
そしてそれを見透かすように告げるディーイー。
「今、皆んなの体に精霊力が干渉してるけど、拒絶せずに受け入れてね。そうでないと上手く効果が出ないから」
「え…? 精霊力?」
ティミドは嫌な予感がする。
下船するにしても、飛び降りるのと"飛んで降りる”のでは随分と違う。
前者なら浮遊魔法で、後者なら飛行魔法が該当し、両方とも慣れていないと相当に怖い。
因みにティミドは訓練等で慣れており、自前の魔導具で浮遊も飛行も行える。
なので高所に対する恐怖は、常人よりも感じない方だった。
『私は別に良いのだけど…』
「うおっ!?」
「…?!」
リキが驚いた声を上げ、シンは珍しく目を丸くした。
二人の体が急に舞い上がったからだ。
勿論、ディーイーとティミドも同じく宙に浮くが、こちらは慣れたもので全く動じない。
「大丈夫だから皆んな落ち着いて。これからスィエラの力で地上に降りるよ」
とディーイーが言い終わるや否や、4人の体は軽々と宙を舞う。
そして何の合図も無く次元潜航艇から飛び出し、急降下を始めた。
「ひぃぃ!?!」
「…!!!」
急降下に因る体への負荷…それは"ひゅんっ!"と股間に来る独特のもので、男であろうが女であろうが関係無い。
それを物語るようにリキとシンは、無意識に股間を押さえていた。
『あぁ……慣れない内は、そうなっちゃうよね』
前置きなく飛ばされた…もとい急降下させられた二人を、ティミドは気の毒に思えた。
そうして10秒程で渓谷の底に着き、その場へ屈み込んでしまうリキとシン。
そんな二人を他所にディーイーは周囲を見渡した。
「ふむ……何にも無いな」
まるで癇癪を起こした様にリキが起こり出す。
「当たり前だろ!! 俺は村が山の中腹に在るって言った筈だ! 何で麓まで降りるんだよ!?」
これに朧げに漂うスィエラが、ギロッとリキを睨み付けた。
「ひぃ!?」
良く分からないが、敵意を向けられた気がして悲鳴を上げるリキ。
「こらこら…スィエラ、仲間を威嚇するんじゃ無い」
『やれやれ……精霊は人の情動に敏感だからな』
ディーイーは召喚する精霊を間違えたと、今更になって後悔する。
銀冠の女王ノクスは大人しく淡白な印象だが、スィエラは話が違う。
この風の精霊王はディーイーの事が大好きで、自ら従属する事を望んだのである。
つまり些細な事でもディーイーに関係していれば、容易に逆鱗へ触れる結果となるのだ。
『取り敢えず、ちゃんと言い聞かせておくか…』
「スィエラ…ここに居る3人は私の大事な仲間なの。だから守ってこそ当然で、威嚇したり傷付ける事は絶対に許されないぞ」
するとスィエラは動揺した様に震え、その場に土下座したのだった。
なお精霊力に親和性が無い他3人は、スィエラが何をしているかが明確には分からない。
ただ理解出来るのは、その朧げな姿が小さくなった事だけ……それでも十分に状況が読み取れてしまう。
御伽話にしか存在しないような精霊王が、人間の少女に平服している。
この絵面には、居合わせた3人とも驚きを隠せなかった。
『うわぁ……ディーイーさんて、どんだけヤベェんだよ…』
『この方は本当に人間なの…?!』
『流石はプリームス様です!』
畏怖を禁じ得ない3人を尻目に、ディーイーは続けてスィエラに命令を出す。
「さて、ここからが重要だ。スィエラよ…この一帯を覆う魔力源を特定してきて欲しい。その間に私はリキさんの村に向かうから」
これにスィエラは僅かに揺れると、小さな飆を起こして消え失せたのだった。
「お、おい?! ディーイーさん…何をするつもりなんだ?!」
色々と心配になって来るリキ。
今回の目的は自分の故郷の村から、村人全員を四方京に移送する事なのだ。
なのにディーイーは明らかに違う意図へ意識を向けている。
要するに目的を見失っていないか心配になった訳だ。
「ん? あぁ~~心配せずとも、ちゃんと村人全員を此処から連れ出すよ。だけど確認したいことも有ってね」
思わせ振りなディーイーの言い様に、リキの心配は益々膨らむ。
「確認…? それは…移送させた後じゃ駄目なのか?」
「ん~~その移送に利用出来そうな感じがしてね。まぁ調査はスィエラに任せるから、取り敢えずは村まで案内してよ」
「お、おう…分かった」
仕方なく引き下がるリキ。
助けられている身として、そんな事を言われては異議を口に出来る筈も無いのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




