1603話・狂飆の守護者
ディーイー達が船内から甲板に出ると、周囲が完全に霧に覆われていた。
時刻は午前9時…霧を透けて照らす陽光で、辛うじて甲板の足場が確認出来る程だ。
「これは……下手に動くと危なそうですね」
と無意識にディーイーの手を取って呟くティミド。
これへ即座にシンの声が返って来る。
「そうですね。ですが、私の手を取る必要はありませんよ」
「え?! あれ?! ディーイー様は?!」
当然にティミドは慌てた。
「やれやれ……視界が少し悪くなった程度で慌てるとは、永劫の騎士として情けないぞ」
そう告げてティミドの手を取るディーイー。
しかし、その手は妙に厳つかった。
『むおっ?!』
すると呆れたリキの声が返って来る。
「おいおい…ディーイーさんよ、それは俺の手だ」
「ちょっ?! って…ティミドは何処だ?!」
「私はここです!」
『ここって…何処だよ…』
などとディーイーは思いつつ周囲に違和感を覚える。
否、周囲と言うより更に外側…次元潜航艇を囲む空間が明らかに変だった。
「みんな、取り敢えず霧が晴れるまで動かないで!」
「後一時間もせず、日差しで気温が上がって霧が晴れると思います。一旦船内に戻りませんか?」
と至極冷静なシンの声が聞こえた。
「う〜ん……」
『今戻ったらダレそうだしなぁ』
逡巡するディーイー。
そもそも何故にカルボー010が配慮せず、こんな見通しの悪い場所に停泊したのか?
『あ……いや、違うか』
人を模した人工精霊と言えど、根幹は精霊なのだ。
人間の都合を考慮して、指示や指定された以上の事をする訳が無い。
『先ずは…この違和感を確認するべきか』
後々になって不都合が起こっても困る。
幸い取り急ぐ必要は無いので、腰を据えて周囲の安全を確認する事にした。
「リキさん! 一応は村の近くに来た筈なんだけど、こんなに霧が出るのは良くある事なの?」
「ん? あ〜〜村の周辺は森だからな。それに村が山の中腹にある、だから霧が出易いみたいだぞ」
「ほほう…なるほどな」
一応納得するディーイーだが、霧に含まれる魔力濃度が異常に高い気がした。
『これは思わぬ拾い物かも知れないな』
空気中の魔力が常に高い場所なら、そこには何らかの魔力放出源がある。
それが自然の物なら魔石の鉱脈などで、作為的なら迷宮が発生する直前だったりするのだ。
前者なら、その利用価値は言うまでも無い。
そして後者ならば"ディーイーにとって"利用価値の高い物となる。
「兎に角、霧を晴らした方が良いな。ただ待つのも芸が無いし」
ディーイーの言い様に、ティミドが不安そうな声を上げた。
「霧を晴らすって…ディーイー様、魔法を使っては為りませんよ!」
「大丈夫、大丈夫! 私が魔法を使う訳じゃ無いからね」
「え…? ならどうやって……」
余計に心配になるティミド。
元よりディーイーの成す事は規格外なのだ。
それは詰まる所、別の何かが成すとしても規格外で、危険なのは変わらないと言えた。
刹那、周囲に漂う濃い霧が、急に流動し始めた。
「な、何?!」と、ついティミドは声を上げる。
『絶対ディーイー様の仕業だわ!』
霧の流動…これは空気の流れが原因であり、即ち風が吹いた事を意味する。
しかも尋常では無い荒れ狂う風。
いや…荒れ狂ったは語弊が有る。
この風は規則正しく同じ方向に吹き、良く観察すれば大きく螺旋を描いているようだった。
そう…これは竜巻。
だが不思議な事にティミド達が居る甲板では、その突風の影響が殆ど無い。
『どう言う事なの…?!』
ふとティミドは何気なく振り向いた。
そうすると少し離れた位置にディーイーが立っており、その傍に不可思議な何かが寄り添っていたのだ。
『…!! 敵?! いや、でも……』
主君が危害を加える存在に、そう易々と後れを取る訳が無い。
ティミドの視線に、ディーイーは笑顔を向ける。
暗に「安心しろ」と言わんばかりの表情だった。
そうして暫くすると風は収まりだし、すっかり霧は晴れてしまう。
「あんなに濃かった霧が…」
半ば唖然と呟くティミド。
霧が晴れただけで無く、深い渓谷を陽光が差し、美しい情景を作り出していたからだ。
「綺麗ですね」
と代弁する風に言ったシンは、ディーイーに向き直って尋ねた。
「所で…その傍に居るのは?」
「フフッ…段々シンさんも驚かなくなって来たね」
少し揶揄い口調のディーイー。
「当然です。今まで色々な物や事象を見せられましたから。で、それはひょっとして…」
「うん、私が契約している風の精霊王よ。名前はスィエラと言うの」
「そうですか……名前の印象から女性なのでしょうね」
と返すシンだが、ディーイーの傍に立つ存在を正しく認識出来ていない気がした。
発する存在感が異様で、その影響なのか姿が朧げなのだ。
『銀冠の女王に似てるようだけど…』
幸いノクスと違い、不思議と恐怖は感じない。
只々フワ〜としていて、そこにボンヤリと存在している。
「あぁ……そうか。精霊に対して親和性が無いと、人の目で認識するのは難しかったな」
そう告げたディーイーは、傍に立つスィエラに触れて続けた。
「私の目には絶世の美女に見える。とは言っても、こやつが私の好みに姿を変えているだけだがね」
「左様ですか…」
「因みに二つ名は狂飆の守護者だ」
訊いても居ないのに聞かされ、シンは抑揚無く淡々と相槌をうつ。
「はい……そうですか」
正直、然して興味が無いが無下にも出来ないので、いつもの様な反応になってしまう訳だ。
そんな時、唖然としていたリキが我に返った。
「お、おい! またこんなのを呼んじまってよ、ディーイーさん…今度は何をするつもりだ?!」
「何って…皆は浮遊魔法とか飛行魔法は使えんだろ」
それを聞いたリキは、察した様子で船縁へ駆け寄った。
「う、うぉ!! 高っ!!」
眼下に見えたのは深い渓谷であり、その一番底までは200m以上も有るように見えたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




