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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
1725/1764

1601話・東陽省の辺境

「下船の準備をお願い致します」

気配も無く幽霊のように現れたカルボー010は、抑揚無く淡々と告げる。


その見た目は20cm程の人型で、非常に美しい女性の姿をしており、色素が薄いのか肌も髪も真っ白である。

また淡い光を放って飛んでいる所為で、恰も御伽話に登場する妖精のようだ。



「お化けみたいに入ってくるなよ…」

とリキは嫌そうな顔でボヤいた。



これにカルボー010は素っ気なく返す。

「我ら人工精霊は、ある程度の物理法則を無視します。これ位は慣れて頂かないと困りますね」



『いや……ドキドキして困ってるのは俺なんだが…』

と文句を言いたいが、そこはグッと堪えるリキ。

これから故郷の村に向かい、村民を南門省の四方京に移動させねば為らない。

こんな所で雑談している場合では無いのだ。


ふと思う…どうやって400人近い村民を移動させるのかと。

「ディーイーさん! 移動手段は?」



タイツを穿いている最中だったので、危うく転けかけるディーイー。

「急に声を上げないでよ…」

そして一旦ソファーに座って聞き返した。

「どの移動手段の話よ?」



因みにディーイーが今着ている服装は旗包で、腰まで入った深いスリットが特徴的だ。

なので無造作に座ると太腿だけで無く、下着まで見えてしまいそうである。


と言うか、実際に見えてリキは咄嗟に顔を背けた。

『おいおい…無防備過ぎるだろ』

「え〜と…俺の故郷の人間を移送するんだろ? 400人は居た筈だしよ、どうやってやるんだ?」



「あ〜〜その事ね。それだったら心配ないよ。少し準備に時間は掛かるけど、400人程度なら簡単に移送は可能かな」



「そうか…なら……」

心配ないか…と言いかけてリキは止めた。

『ん…待てよ…』

それ程の事をするのなら、人智を超えた魔法くらいしか方法が無い。

そしてディーイーは超絶者であり、それを可能とするだろう。


故に"それこそ"が問題だった。

「ディーイーさんよ…ちょっと待ってくれ。あんたは魔法を使ったら駄目なんだろ?」



「その事だったら大丈夫。"私が"魔法を使わずとも、幾らでも方法が有るからね」



「お、おう…」

胸を撫で下ろすリキ。

既に返し切れない恩が有るのだ。

ここで更に身を呈されては、立つ瀬が無いどころか、自分の存在意義すら怪しくなると言うものである。



居間の扉が静かに開くとシンが姿を見せた。

「ディーイー様、準備は宜しいですか?」



「うん。ところでティミドは?」



「ティミドさんは次の経路を確認してから、直ぐに甲板へ向かうと言っておりました。ですから私がお迎えにあがったのです」



「そっか…」

『何だか様子が…』

僅かにシンが苛立っている?、或いは焦っているようにディーイーは見えた。


なのでソッと近付いて尋ねてみる。

「何か気掛かりでも?」



「え……? あ……申し訳ありません。ここが片付いてからお伝えするつもりでした、私もまだまだですね…」



「いや、別に気にする程の事では無いよ。で、何?」



「……わかりました。それでしたら歩きながら話しましょう」

そうシンは言って、エスコートするように片手を差し出した。



「フフッ…子供じゃないんだから、そんな簡単に転ばないよ?」

などと苦笑しながら返すディーイー。

その直後に何も無いのにつまずき、思いっきり顔面から床へ飛び込む羽目に。

「どわっ!?」



だが顔面を強打する事は無かった。

シンが危なげなく抱き止めたのである。

「フフッ…どうやら子供で無くとも、盛大に転ぶようですね」



ディーイーは顔が真っ赤になる。

「うぐっ……と、取り敢えず有難う…」

『うぅ…寝起きの所為で、頭と体の連動が上手くいってなかったか』


この体になってからと言うもの、血の巡りが悪いように思えた。

朝が非常に弱くなったのが良い証拠だ。

しかしながら昼寝の起き抜けで、これだけ鈍臭いのは自分でも驚きを隠せなかった。



こうしてディーイーは、シンにエスコートされながら居間を出る。

因みにリキはと言うと、万が一にディーイーが後ろに転ばぬよう、2mほど空けて追随するのだった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






ディーイー達が甲板出入口へ到着すると、先にティミドが来て待機していた。



「あれ…? ディーイー様…体調が優れないのですか?」

シンにエスコートされながら来たディーイーに、心配そうに尋ねるティミド。



「え? あぁ〜〜ちょっと起き抜けでフラついてね、転んだら不味いから支えて貰ってたの」



「………」

ティミドはジト〜〜っとディーイーを見つめた。



「いや、本当に何でも無いから!」



「はぁ……左様ですか。ですが念の為、些細な不調でも仰って下さいね」



補佐役…もといお目付け役のティミドに釘を刺されては、流石のディーイーも無下には出来ない。

「う、うん…分かったよ」



「うはは! ディーイーさんは無茶苦茶つよいのに、てんで身内には弱いよなぁ」

透かさず揶揄うリキ。



「仕方ないでしょ! 何か有ったらメッチャ怒られるんだから!」



『怒られるから弱いって…子供かよ』

などとリキは突っ込みたかったが我慢した。

きっと藪蛇になるからだ。

「ほほぅ…まぁ体の具合が悪い時は俺に言ってくれ。片腕で担いでやるからよ!」



するとこれへティミドが即座に反応した。

「な〜にを言ってるんですか! むさ苦しいリキさんがディーイー様に触れるなど、私が許しませんからね!」



「えぇぇ?! 善意で言ったのに!」

結局は藪蛇だった。



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