1600話・龍王と神子ミエンティ
「南湖監獄が消滅したそうです」
と落ち着いた声で言った。
その者は白髪かと見紛うばかりの灰色の髪色だ。
また顎の辺りで切り揃えている所為か、非常に可愛らしく実年齢より随分と若く見える。
加えて右目に装着した白い眼帯…それは布地に淡く刺繍がされていて、明らかな装身具に見えた。
天蓋付きの絢爛な架子牀…そこに横たわる女の気配が揺れる。
「消滅…?」
女が架子牀から起き上がろうとし、それを咄嗟に呼び止めた。
「リアンシー陛下、取り乱しては御身体に障ります」
「……そなたの報告が私を乱したのだ」などと言い掛けてリアンシーは止める。
ただ彼女は報告をしただけなのだから。
「それは確かなの? フェオンが貴女に教えた?
それとも伝令からの報告?」
「フェオンが異変に気付き、私に伝えてくれました。ですが神獣の力を以てしても、南湖消滅の経緯は分かっていません」
リアンシーは焦る気持ちを抑えへ告げた。
「それは仕方が無いわ。兎に角は急いで調査隊を送り、状況の把握と原因の解明をさせなさい」
親友であり良き理解者だったガオシャン。
その彼女を南湖監獄に幽閉したのは自分だ。
しかし、そうしなければ反逆罪で極刑にしなければ為らなかった。
『なのに…南湖監獄が消滅?!』
それ程の事故?が起きたなら、恐らく誰も生き残っていないだろう。
その為、まさかの事態になり後悔ばかりが募ってしまう。
「リアンシー陛下…神子である私も調査に向かいましょうか?」
天蓋カーテン越しに尋ねる声は、落ち着いてはいるが不安が僅かに窺えた。
「ミエンティ…気遣ってくれて有難う。でも神子の貴女が此処を離れては、貴族等が何事かと勘繰るやも知れない。私達は大人しく調査報告を待つしか無いわ」
するとミエンティは少し首を垂れて言った。
「陛下…私は神獣の伴侶ゆえ中立を保たなければ為りません。それでも私は"私個人"として、陛下へ協力は惜しみません」
「色々と済まない…」
「いえ…私はこれで……」
申し訳ない気持ちを抱え、静かに王の寝所を出るミエンティ。
そうして厳かな神域を進み、ふと気付くと中央庭園に来ていた。
そこは小ぢんまりとしているが、自分が趣味で世話をしている花々が咲き誇る場所…ミエンティが唯一自由に出来る空間だった。
傍に屈み込み、ソッと真っ白な華の花弁に触れる。
元気に美しく育った姿が、恰も植物が自分に恩を返している様に見えた。
そう、草木や花でさえも、こうして世話をされた事に対して応えるのだ。
されど自分は?
一体何を返し、応える事が出来ただろうか?
何者でも無かった自分が見初められ、突然に神獣の伴侶となった。
世間を知らぬ初心な自分を、龍王リアンシーは温かく受け入れ、また多くの事を教えてくれた。
筆頭聖女だったガオシャン…彼女にも随分と世話になった。
だからこそ姉のように慕っていたのに、今では落胆と失望を禁じ得ない。
何故なら彼女が使命を拒絶しなければ、きっと現状のような逼迫した事にはならなかった筈なのだ。
何よりガオシャンが命を落とす事は無かっただろう。
「死んでしまっては、何も恩返しが出来ないじゃないの……」
「神子様……」
姿が見えないのに、何処からか男の声が聞こえた。
「準備が出来たの?」
素っ気ないミエンティの返しだが、姿無き声の主は気にした風もなく答える。
「はい。いつでも入れ代われるよう影も待機しております」
「そう…なら直ぐに向かうわよ、南湖跡にね」
「承知いたしました…」
その声の直後、僅かに在った気配さえも掻き消えた。
『ガオシャン……貴女は本当に死んでしまったの?』
ミエンティは自身に問い掛ける。
そうする事で思考の切っ掛けを作ろうしたのだ。
ただ漠然と現実を受け入れるのでは無く、起因と経緯を探り、そして何者かの意図を洞察する。
偶然の事故なら捨て置くのも手ではある、だがこの世に偶然など殆ど存在しない。
故に何事に対しても疑い、思考する事を忘れない。
もし、ガオシャンが死を装っていたなら?
この仮説はミエンティの希望的観測に過ぎないが、万が一に”そうなら”、正に裏切りであり絶対に許されない。
「必ず見極めて墓標を立ててあげるわ」
そう誰にともなく呟いたミエンティは、ただ静かに颯爽と庭園を後にしたのだった。
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「ディーイーさん、ディーイーさん!」
誰かが呼ぶ声が聞こえ、ぼんやりと目が覚めるディーイー。
しかし寝起きの間抜けな声とイビキが被り、妙な音を口から放ってしまう。
「ぶぅ、ぶひっ!」
「ちょっ!? 淑女がイビキをかいて、更に豚みたいな声出すのは流石に…」
と呆れながら言ったのは、傭兵団・眠りの森唯一の男であるリキだ。
「んん〜〜〜!」
ディーイーはソファーの上で寝起きの伸びをした。
そして眠気まなこでリキを睨み付ける。
「誰が豚だってぇ?」
「いや…"みたい"と言っただけだぞ…」
これにディーイーは何故か自信満々で返す。
「フッ…昔は1週間くらい寝ずに居て、起きながらイビキが出た事があったぞ。ブヒブヒってな!」
「えぇぇ……」
ドン引きするリキ。
果たして1週間の不眠不休を自慢しているのか?
それとも豚声を自慢しているのか?
どちらにしても女性がする事では無い。
「で、起こしたのは用が有るからでしょ?」
などと乱れた衣服をきにずディーイーは尋ねた。
当然にリキは目のやり場に困りながら答える羽目に。
「その…そろそろ着くってよ」
「え……あぁ〜〜そうだった、リキさんの故郷に向かってたんだっけ、」
現在ディーイー達は次元潜航艇に乗って、東陽省の更に辺境へ向かっていた最中だった。
「おいおいおい! 俺の生まれた村を救ってくれるんだろ?!」
「ついでにリキさんの柵もだね」
「お、おう…ありがとな、ディーイーさん」
そんな時、居間の扉をすり抜け、淡い光を放つ何かが侵入して来た。
これにリキが条件反射で警戒したが、それを直ぐに解く。
「お化けみたいに入って来るなよ…」
対して"お化けみたいな"存在は、リキの言葉を無視して告げた。
「ご歓談中に失礼致します。後5分程度で目的に到着しますので、下船の準備をお願いします」
彼女?はロギオスの人工精霊カルボー010であった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




