1593話・北の監獄庁舎
頑強な鉄扉を抜けた先には、10m四方の階段室が有った。
どうやら此処に生活必需品や食料が搬入される様だ。
その証拠に床には、1m四方の荷役台が幾つも重ねて置かれている。
「さぁガオシャン殿とガリーさんは、お仲間の元に向かって下さい。私は待機させてある次元潜航艇を、監獄敷地に降ろして行って来ます」
そう告げたグラキエースは、二人の返事を待たずに来た道を引き返した。
「あ……」
少し名残惜しいが、ガリーは引き留める事が出来なかった。
ここからは自分とガオシャンの問題であり、グラキエースに頼るのは烏滸がましいからだ。
「皆んなは寝ているかも知れませんが、取り敢えず向かいましょう」
「はい…」
ガオシャンに促され、ガリーは階段へ臨んだ。
幅が広く段差の浅い階段を上がり、一階と思われるフロアに着くと、目の前には頑強な石造りの通路が現れた。
幅は5m、高さは4m近く有り非常に大きな通路だ。
そして通路の両側には格子扉らしき物が窺えるが、明らかに開いておりガリーは怪訝に思う。
「え……牢屋が開いてるなんて…」
後を歩くガオシャンが小声で言った。
「多分、私が居た管理棟のように生活物資だけ渡して、囚人の世話を自分達でさせていたのでしょう」
「それって…」
嫌な予感がするガリー。
「監獄から出ても湖を渡れません。だから…厳重な監視も必要なく……」
囚人として最低限の人権も保障されなかった…そこまで口にするのをガオシャンは躊躇う。
飽く迄も可能性であり、まだ決まった訳では無いのだから。
しかし余りの人気の無さが、全てを物語っているのは明白だった。
だからこそ確りと見極める為、ガリーは駆け出し牢屋を確認して回った。
小さな灯り窓から漏れる月明かり。
それは僅かに牢屋の中を照らし、この陰湿な空間を幻想的に飾る。
だからか…まるで夢の中の様にガリーは感じた。
否……そうだったら良かった。
実際は只の現実逃避であり、目にする事全てはガリーの希望を砕くものだった。
牢屋には人が居た形跡だけで、もう何年も使われていなかったのだ。
「そんな……」
ガリーは一階の牢屋を殆ど見て回った後、その場に力無く膝を付いた。
そうしてガオシャンが追い付くと、体を震わせながら言った。
「許せない……私は何の為に…一体何を守って来たのか……」
「ガオシャン様……」
「許せない……絶対に許さない……」
直後、ガオシャンから凄まじい何かが発せられ、堪らず片腕で顔を覆うガリー。
「…!」
『これは…風の法力!』
ガオシャンは神子を超え、龍王に迫る法力の持ち主なのだ。
そんな彼女が怒りで力を暴走させれば、この監獄庁舎など一溜まりも無いだろう。
「ガオシャン様! 落ち着いて下さい!! まだ上の階を確認していません!」
直ぐさまガオシャンに抱き付き、ガリーは必死に呼び掛けた。
すると荒れ狂っていた風は緩やかになり、暫くすると気流は完全に停滞した。
「ごめんなさい……私とした事が…」
ガオシャンはガリーを抱きしめ返し、弱々しい声で謝罪する。
「いえ…俺こそ申し訳ありません。貴女の気持ちは察するに余るのに…俺は何も配慮が出来ませんでした」
「ううん…ガリーが傍に居てくれるだけで、私は凄く安心出来るの。本当に救いに来てくれて有難う」
「……」
ガリーは何も返す事が出来なかった。
もし本当に囚われた仲間が死に絶えていたなら、自分だけが逃げて生き延びた事になる。
そんな自分が卑怯に思え、自責の念に苛まれたのだ。
そんな時、突き当たりの階段室から物音が聞こえた。
「誰っ!?」
咄嗟に声をかけるガリー。
そうすると緩慢な動作で、何者かが通路へ進み出て来た。
「……! あなたは!」
目を凝らしたガオシャンは、その者が誰なのか即座に理解する。
この暗がりの中でも見えたのは、神獣の加護が有るからこそだが、本音で言えば見たくは無かった。
そう…ガリーと同じく、こんな真実を目にするのは余りに耐え難かったのである。
「その声は……ガオシャン様……」
通路に姿を見せた人物はローブ姿で、背が丸まっているのか小柄に見えた。
また声は嗄れており性別が分からない程だ。
ガオシャンはローブの人物へ駆け寄り、その手を取った。
「クルト……生きて居てくれたのですね……」
「よもや…こうしてガオシャン様に再会出来るとは……もうここで息絶えても構いませぬ…」
「馬鹿な事を言わないで!」
とガオシャンは叱りながらも、握ったクルトの手が痩せこけているのに気付く。
『やっぱり…碌な扱いを受けて居なかったのね』
「クルト殿……御無事で何よりです」
2人の再会に水を差す様で、少し躊躇いながらもガリーは話しかけた。
「……! その声はガリー? あぁ……まさか…お主にも生きて会えるとは……」
そう返すクルトの顔を間近に見て、ガオシャンは目を見張る。
「クルト……目が……」
齢60となる筈の彼女は、以前にも増して腰が曲がってしまっていた。
その上、目は焦点が合わず虚ろで、黒く美しかった瞳は白く濁っているように見えたのだ。
「私の目は光を失ってしまいました。ここでの生活は、老骨には少し酷だったようです…」
そう自嘲気味に返すクルトの腕に触れ、続けて丸まった背や小さくなった肩にガオシャンは触れる。
そして余りの酷さに己の感覚を疑った。
「…!!」
脂肪どころか筋肉さえも削がれた”骨と皮だけの体”。
それは明らかに栄養失調から来る、餓死寸前の状態と言えた。
『このままでは危ない。直ぐにでも何か食べさせないと!』
だが固形物は体が受け付けないかも知れない。
『どうすれば……』
ガオシャンが途方に暮れそうな時、ガリーがソッと何かを差し出した。
「クルト殿、これを召し上がって下さい」
ガリーから差し出された物を、一旦受け取ったガオシャンは眉をひそめた。
それは酒瓶ほどの容器2つで、どちらにも乳白色な物体が満たされていたのであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




