1591話・北方の国家形態
地下1階の看守区画を、たった一人で完全に制圧してしまったグラキエース。
これによりガリーは、気絶した看守を拘束する事しか仕事が無かった。
ガオシャンに至っては全くする事が無く、ただグラキエースの後を付いて回るだけである。
その後、グラキエースは宝珠を1つだけ階段室に向かわせた。
地下5階には外に繋がる隧道区画が有り、そこは現体制派…つまり龍王禁軍の管轄なのだ。
それらに気付かれた場合、逸早く此方も気付けるように宝珠を監視に使ったのだった。
「凄く便利ですね…宝珠って、」
と感心した様子でガオシャンが言った。
先を歩きながら微笑むグラキエース。
「フフッ…確かに便利に見えますが、それなりに使う事が難しい魔導具でもあります。一応は半自立型で魔力供給も不要ですが、規模が大きくなると使用者が魔力補填をしなければ為りませんしね」
「規模と言うと、範囲とかですか?」
「はい、それに今回は該当します。後は禁呪を超えた禁忌魔法なども、宝珠単独では発動が難しいので、私が魔力と魔法機構を補完しますね」
「成程…」
と普通に返しつつも、ガオシャンの内心は驚愕に満たされる。
『き、禁忌魔法?!』
それを察したのか、ガリーが補足した。
「ガオシャン様…禁忌魔法と言うのは多分ですが、災害級の規模だと思います。ディーイー…え〜と、聖女皇陛下が使ったのを2回ほど見ました」
「さ、災害級?! それはどんな魔法だったのです?」
「海に嵐を起こして巨大な渦を生み出したり、何もかも吸い上げる巨大な穴?を空に出現させたり…兎に角、地獄の一風景みたいな?ですかね」
「地獄の一風景…」
そんな魔法を人間が使えるなど、ガオシャンは一度も聞いた事が無い。
ここまで来ると神獣が"使う事が可能"な、戦略級魔法に匹敵するだろう。
そんな強大な破壊魔法を永劫の帝国の女帝が使い、あまつさえ臣下の騎士までもが使い熟す。
なのに未だに世界が征服されていない…その事実をガオシャンは不思議に思えた。
『それだけ聖女皇は平和主義者なのかもね…』
今度はグラキエースが見透かした風に言った。
「因みにですが…プリームス様は全く権威や版図拡大に興味が有りません。ですから今の我々の力は、戦争の抑止力に貢献していると言えますね」
「え…? で、では聖女皇陛下は、どのような暮らしをされているのですか?」
このガオシャンの疑問は当然と言える。
普通の君主ならば、その権威を守り後世に引き継ぐ為、必死に現状維持以上を目指すものだ。
なのに野心どころか権威にまで興味が無いなど、国が滅びても可笑しくない。
「プリームス様は……いつもゴロゴロされていますね。気が向けばエスプランドルの街へ散策に出たり、何か隠れてゴソゴソしていたり。まぁ自由奔放に過ごして居られますよ」
微笑ましい…と言わんばかりの語調でグラキエースは答えた。
余りに君主としての意識の無さにガオシャンは呆れ、つい率直な疑問が口を突く。
「失礼な言い様になるかも知れませんが、そんな状態で国政が維持されているのですか?」
するとグラキエースは逆に問い返した。
「国政とは如何な理由で成すと思いますか?」
「え……? え〜と…国家を正しく運営する為です」
更にグラキエースの問いは続く。
「では何を正しいと定義するのですか?」
「そ、それは…国家憲法と帝の意思に因って決定されます」
少し意外そうにするグラキエース。
「ほほう…北方四国にも憲法があるのですね」
「ちょっ!? 失礼な事を言わないで下さい! それに北方は麟国を中央にした"五国"です」
グラキエースは足を止めると、ガオシャンへ振り返って軽く頭を下げ謝罪する。
「これは失礼致しました」
そして再び質問を続けた。
「では、北方は連合国家なのですか?」
「れ、連合国家…?」
二人の問答を見ていたガリーは、
『あ〜〜これは…』
グラキエース得意の誘導尋問と気付く。
何気ない遣り取りの中で質問を繰り返し、相手の真意を吐露させるのだ。
「統治権を持った国家が、共通の規範や思想で集まった結合体です。ですが話を聞いた感じだと…連邦国家な印象ですね」
グラキエースの返答に、ガオシャンは首を傾げた。
「んん? れんぽう?」
「連邦は1つの主権の元、複数の国が集まった結合体です。帝とやらが頂点ならば、北方は連邦と言うのが正しいかも知れませんね」
グラキエースが"知れませんね"と濁したのは、政治的な観念に断言は危険だからだ。
一応グラキエースの考えは客観的だが、北方の人間からすれば勝手な言い様をされたに等しい。
なので相手を刺激しないよう配慮したのだった。
そうするとガオシャンは、少し思考してから言った。
「……成程、グラキエース殿の仰る通りですね。そもそも北方は閉鎖的ですから、そう言った政治的概念が入って来なかったのでしょうか…」
「その可能性も有りますが、外部の概念を取り入れる必要が無かったのでしょう。人外の存在が治める人の国家…我々からすれば特殊過ぎるので、ある意味で新しい国家形態とも言えます」
絶妙な調子で返すグラキエースに、内心でガリーは舌を巻く。
『流石はグラキエースさんだわ』
国家形態を批判しながらも、そう思わせない言い様。
また端的に纏めているだけに、相手へ考える余地を残している。
加えて相手の思考を誘導しているだけに、ここまで来ると洗脳に近い話術と思えてしまう。
「中央の麟国を除く四方四国は、表向きは主権を認められています。しかし実際は中央に従属する大総督領に他なりません。その上、神獣が人を治めるなんて…」
そこまで言って、ガオシャンは先を言い淀んだ。
「ここで話した事は記録もされませんし、私も口外するつもりは有りません」
このグラキエースの一押しで、ついガオシャンは吐露してしまった。
「本心で言うなら、これが正しい人の国とは思えないのです。何から何まで歪と言うか…」
「だからガオシャン殿は龍王の命に背き、今ここに収監されているのですね」
「はい……」
グラキエースは踵を返し、再び歩み始めながら問うた。
「貴女は"国を正しく運営する為に国政を成す"と言いました。その根幹には国の存在意義が有りますよね?」
「……はい、私は民の為に国家が存在すべきだと思います。今のままでは神獣間の見えない争いや、既得権益者に民が振り回され犠牲になるだけです」
「ふむ…面白い」
そう呟いたグラキエースは、僅かに振り返り続けた。
「貴女の本音が聞けて良かったです」
グラキエースの声音は実に落ち着き理知的だが、その眼光は刃のように鋭い。
故にガオシャンは思う…この超絶者に隠し事をしては為らないと。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




