1582話・南湖監獄(4)
グラキエースはソッと管理棟の壁面へ右手を添え、直ぐに3mほど距離を取った。
何も起こらず、不思議そうに壁を見つめるガリー。
「…??」
その直後、ガリーは目を見張る羽目になる。
何故なら壁に小さな穴が穿ったのだが、その穴が急に巨大化したのだ。
「え?え? 何!?」
その所為で恐怖を感じ、咄嗟に飛び退った。
「消滅と言う魔法です。原型は支配階級の魔神が使いますが、それを少し改良し規模を縮小してみました。言うなれば下位・消滅でしょうか」
「これで規模が小さいって…この魔法、ヤバくないですか?!」
「う〜ん…確かにパッと見の衝撃は凄いですが、実は簡単に目標へ当てられる魔法では無いです。今のは動かない壁にでしたし、」
「あ……そう言えば少し時間差も有ったような…」
頷くグラキエース。
「その通りです。魔法の発動から発現の間に1〜2秒の間が有るので、まあ実戦では使えないでしょうね」
「成程…何事にも完璧は無いのですね」
ガリーは納得した。
強力な力ほど代償や対価が大きくなる。
この場合、下位・消滅とやらは、その威力の代償に、速度と捕捉力を犠牲にしているのだろう。
グラキエースは穿った壁の穴を潜って言った。
「さあ先を急ぎましょう。地位の高い看守か、もしくは所長でも捕まえれば、聖女の居場所も直ぐに分かる筈です」
「あ…は、はい!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
敷地中央に在る管理棟らしき建物は、石材で緻密に作り上げられた塔と言えた。
その高さは30mは有りそうで、まるで強大な魔術師が根城にする魔塔のようだ。
また東西南北に建てられた監獄庁舎へ、この管理棟だけが繋がっている。
つまり4箇所の監獄庁舎から出るには、絶対に管理棟を経由しなければ為らない。
そこで1つグラキエースの中で疑問が湧く…どうやって外に出るのか?
管理棟自体には灯窓らしき小さな物しか無く、"基本的には"外部への経路が無い。
唯一例外的に出入りしている様に見えるのは、この孤島を囲う外壁の警備兵だ。
彼らは外壁の上を巡回し、内部では無く外部を見張っていた。
恐らく魔獣の接近や、何らかの襲撃を警戒しているかも知れない。
そんな警備兵が巡回する外壁は、どうしてか管理棟と繋がる経路が見当たらなかった。
「どうやら外部の警備と、監獄区画は完全に隔絶しているようですね」
と先を歩くグラキエースが小声で言った。
現在2人が進んでいるのは、管理棟外縁部の通路だ。
ここは巨大な円柱をした正に塔のような建物で、故に通路は緩やかな曲線を描いていた。
「それって…警備の意味が有るんですか?」
「う〜ん…調べてみないと分かりませんね。かと言って余裕も無いですし、ここは気にせず聖女の救出を優先しましょう」
「……」
ガリーは漠然とした不安を感じながらも、黙ってグラキエースの後に続く。
因みに管理棟内部は実に殺風景だった。
監獄施設なので当然だが、別の意味で普通の施設とは違っている。
最も目を惹くのは内壁で、見慣れない白い石材?で覆われていたのだ。
「珍しいですね…化粧煉瓦とは」
壁にソッと触れて呟くグラキエース。
「化粧煉瓦…? これが煉瓦の類なんですか?」
「焼き入れをすると言う意味なら、まぁ同じですね。でも表面がツヤツヤしていて割と綺麗でしょう? 少し製法も違いますし、普通の煉瓦より耐熱性と耐久性に優れています」
外観と内装が余りにも違い、妙にガリーは不気味さを覚えた。
「何だか中身だけ別の文明のような…」
「ふむ……それは的を射ているかも知れないですね」
「え……」
その時、グラキエースは急に立ち止まった。
「分岐です」
先には外壁面に沿った階段と、この1階外縁部を周回するであろう通路が続いていた。
「……」
ここまで誰一人として出会わず、また人の気配さえ感じなかったガリー。
このまま進んで大丈夫なのか?……先程にも増して妙な不安が胸中を覆う。
「どうかしましたか?」
そんな伴侶の気持ちを敏感に察したのか、グラキエースが心配そうに尋ねた。
「……何と言うか…嫌な予感がして」
少し思考した後、グラキエースは静かに告げる。
「潜在的な危機予測でしょうね。それを言語化してみましょうか?」
「え…?」
「本来、厳重でなくては為らない場所で、こうやって手薄なのは違和感があって当然です。特に傭兵や冒険者なら、それを敏感に感じ取るのですが…どうしてだと思いますか?」
ここに来て、まさかの問答にガリーは困惑する。
『それどころじゃ無いと思うんだけど…』
「ん~~~多分…経験でしょうか?」
「その通りです。そして今と似た状況を、実際に迷宮に潜って体感した事があったのでは?」
「あ……! そう言えば……魔獣が殆ど居ない階層や区画は……」
頷くグラキエース。
「はい。魔獣など必要ない程に強固な罠が有るか、若しくは強大過ぎる守り役が居るかですね」
「そんな……」
ガリーは不安が的中し、思わず後ずさってしまう。
ここまでグラキエースが言うのだから、この先は相当に危険に違いない。
きっと自分は足手纏いにしか為らないだろう。
そんなガリーの手を、グラキエースは直ぐに掴んで引き寄せた。
「あ…!」
「大丈夫です…私はプリームス様の次に強いですから。そんな私を倒せる存在が居ると思いますか?」
「…!」
ガリーは失念していた事に気付く。
そう、自分の伴侶となった彼女は永劫の騎士であり、初代ラスィア女王なのだから。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




