1574話・ガリーとグラキエース(4)
『うぅぅ…完全に絆されてしまった……』
などと体を洗われながら思うガリー。
劣等感の所為で色々と愚図ったのだが、それをグラキエースが言葉巧みに静めたのである。
否…言葉だけでは無い。
同時に優しく抱きしめたり、優しく撫でたり…これに常人が抗える訳も無かった。
「は〜い、腕を上げて下さい。脇や腕を洗いますから」
ガリーの背中を流していたグラキエースが、次の箇所を指定してきた。
「あ…はい、何だか恐縮です……」
「フフフッ…畏まらないで下さいね」
そう返した後、グラキエースは何を思ったのか突拍子も無い事を言い出す。
「あ、そうだ…今から私と貴女は、恋人同士と言う設定にしましょう」
「えぇぇ?!?」
正直、ガリーからすれば恐れ多い。
相手は永劫の騎士なだけで無く、ペクーシス連合王国の初代女王なのだから。
「妙な反応ですね。プリームス様とは仲間以上で恋人未満の関係なのでしょう? なのに私と擬似的な恋人になるのは嫌なのですか?」
と少し不服そうに問うグラキエース。
「い、いえ! 滅相も無い!! なれる物ならなりたい位です!」
「でも私の提案に釈然としないのでしょう?」
ガリーはモジモジとしながら答えた。
「えっと…擬似的と言うのが、何とも納得出来ないと言うか。気持ちが入らないと言うか…」
「成程…そう言う事ですか。なら本当の恋人同士になりましょうか」
「え……えぇぇ?!?!」
「幸い私には特定の相手が居ませんし、ガリーさんが良ければ如何ですか?」
まさかの提案にガリーは驚き過ぎて固まる。
「……」
「…? ガリーさん? ひょっとして都合が悪いですか?」
何とか我に返り、慌てて答えを返すガリー。
「都合が悪いなんて、とんでも無いです! グラキエースさんこそディーイーが居るのに、私なんかを恋人にして良いのですか?」
そこまで言い切って、直ぐ失言した事に気付く。
『あ……しまった!』
これは飽く迄も、自分から主観的に見た二人の関係なのだ。
つまり窺い知れない事情が必ず有る筈である。
またディーイーとグラキエースは主従関係であり、おいそれと恋人関係などになれる訳が無い…どれだけ慕っていてもだ。
「そうですね…でもプリームス様には皇妃であるアグノス様が居られます。そもそも"私達"が割って入る余地も権利も無いのですよ」
グラキエースは背後に居るので、その表情などの様子は分からない。
それでも声音が明らかに沈んでるのを、ガリーは感じ取れた。
「すみません…配慮の無い事を言ってしまって」
「いえ…気にしないで下さい」
そう言ってグラキエースはガリーの腕を洗い始めた。
『き、気不味い…』
物凄く居た堪れない気持ちになるガリー。
盛り上がりかけていたのに、これでは台無しである。
しかしグラキエースは違ったようだ。
ガリーの両腕を洗い終わると、どうしてか急に抱き付いて来たのだ。
「…??!!」
目まぐるしく変化する状況に、ガリーは対応出来ずに混乱し再び固まった。
『な、な、何?!』
それでも潜在的な欲望は偽れず、体は正直に反応してしまう。
「実は…ガリーさんは私の好みなんですよ」
背後から耳元に囁かれ、ガリーはゾクゾクっと快感に似た刺激が体に走る。
「本当に俺で…良いのですか?」
「勿論です」
もう拒絶出来ない。
いや…端から拒む気など無かった。
今まで踏ん切りがつかず、ただ逡巡していただけだ。
そして言質を得た今、何を憚る事が有るだろうか。
堪え切れなくなったガリーは瞬時に向きを変え、正面からグラキエースを抱きしめたのだった。
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湯浴みを済ませた後、直ぐに寝室へ移動したガリーとグラキエース。
だが、そこからの記憶がガリーは少し曖昧になっていた。
まるで箍が外れたように求めたのは、ぼんやりとだが覚えている。
また相手も同じく求めてくれたのを、この体が確かに記憶していた。
『……何だか夢の中に居るみたい…』
天井を見つめたガリーは、現実味のない感覚に囚われてしまう。
それは満たされた所為であり、こんなに多幸感を得たのは、実に久方ぶりだったからだ。
「どうかしましたか?」
隣に横たわるグラキエースが尋ねた。
視線を彼女へ向ける。
すると艶かしい褐色の肌が目に飛び込んで、ガリーの意識を激しく刺激した。
「あぅ…」
小さく声を漏らすグラキエース。
虚を突くように、ガリーが急に抱きしめたからだ。
「あ…! ご、ごめんなさい!!」
慌ててガリーは体を離した。
『うぅ…しまった……思わず目一杯抱きしめちゃった』
ディーイーの時は華奢すぎる体の為、力加減には細心の注意を払った。
なのに同じ配慮が出来ず、自分でも驚いてしまう。
「大丈夫ですよ。その程度で私は壊れませんし、少し強くて強引な方が私は好きです」
とニッコリ微笑むグラキエース。
「…!!」
その言葉でガリーは殆ど確信する。
恐らく自分は気持ちの赴くまま、グラキエースに欲望を加減無しで打つけていたのだ。
「あわわわわ……ど、とこか痛くしてないですか?!」
"どこか"とは、当然まぐわいの最中に触れた"色々な場所"だ。
「フフッ…多少赤くなっても、肌が褐色なので全然分かりませんよ」
「ちょっ!? それって…多少は痛めたって事では!?」
するとグラキエースは目を見張る身のこなしで、逆にガリーを抱きしめた。
「だから大丈夫と言っているでしょう」
片や抱きしめらたガリーは、漸く自分の心配が烏滸がましいと察する。
『そうだった…グラキエースさんは永劫の騎士で…』
武と魔術に於いて、ディーイーに限り無く近い存在なのだ。
直後、自分の異変に気付く。
「ん…んん?!」
『ま、全く体が動かない?!』
簡単に抱き締められたと思ったのだが、恰も捕縛されたように身動きが取れない。
「どう? 膂力も中々のものでしょう?」
などと耳元に囁くグラキエース。
「ひゃっ?!」
その所為で飛び上がりそうになるガリーであった。
実際はガッチリとホールドされているので、一切の身動きが取れないが…。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




