1572話・ガリーとグラキエース(2)
「何か悩んでいるようですね」
そう言ってグラキエースはガリーの右隣に座った。
「え? え? グラキエースさん?!」
慌てるガリー。
それも当然…これ程の麗人が、肩が触れるまで密着して座ったのだから。
「ふむ…こうして傍で見ると、中々に良い逸材ですね」
「逸材?!」
ガリーは妙にドキドキする。
「背丈は並みの男性より高いですが、引き締まっていて良い体つきです。それにプリームス様の周囲には余り居なかった類ですし、それが返って魅力に感じたのでしょうか」
恐縮するガリー。
「え……あ…そうなんでしょうか」
目の前で品定めされれば、普通の人間なら不敬に感じる。
しかしグラキエースが相手だと、そんな思いなど吹き飛んでしまう。
それだけグラキエースは美しく、威厳に満ちているのだった。
ガリーの右手に、グラキエースは自身の左手をソッと重ねた。
「何か悩みが有るのでしょう? 私で良ければ伺いますよ」
「そ、そんな…俺なんかの…」
そこまで言ったガリーの口を、グラキエースが人差し指で押さえた。
『…??!』
「自分を卑下するのは止めた方が良いですよ。貴女は十分に魅力的ですし、実力も十分に有ると私は思います。何せプリームス様が貴女を仲間に選んだのですから」
少しばかりガリーは嬉しくなる。
かの永劫の騎士に認められた事は、それ即ち一廉の武人と評価されたに等しいのだ。
「有難うございます…」
「で、何を悩んでいるのですか?」
褐色の麗人から真っ直ぐに見つめられ、ドギマギするガリー。
果たしてディーイー以外で、これ程に心を乱した事が有るだろうか?
『この美しさには…』
抗えない…そうガリーは確信した。
美しさだけでは無い。
その表現し難い包容力、そして惹き付けて止まない目力と心地良い声音。
余りに魅力的で、魅了魔法に掛かったかのような気分だ。
その所為か、つい自分の悩みを吐露してしまう。
「その…何も出来ない自分に嫌気がさしたんです」
「何も出来ない? どう言った風にですか?」
更に続く優しげな問いに、箍が外れた様に話すガリー。
「俺一人では聖女は救う手立てさえ得られなかった…きっと一生かけても。それを染み染みと感じたんです」
グラキエースは優しくガリーを胸に抱いた。
突然の展開にガリーは驚き硬直する。
「…!??」
「貴女は偉いわ…普通なら、そんな事を考えもしない筈だから。それだけ向上心が有る証拠よ」
「そう…なんでしょうか?」
ガリーの頭を撫でながら、グラキエースは言った。
「そうよ。向上心の無い者は、過去ばかりに囚われて停滞する一方…下手をすれば後退する。だから貴女は、これからも伸びるに違い無いわ」
今のままで大丈夫…そう言われている気がして、ガリーの心は随分と軽くなる。
何より豊満で柔らかな胸に頭を抱かれ、悩み云々どころでは無い。
正直、頭の中が煩悩で満たされ、欲情してしまう始末だ。
「どうしたの?」
まるで見透かしたように尋ねられ、ガリーの心臓が跳ね上がる。
「えっ?! あ、その…」
「私の事が気になる? それとも私の"体が"気になるのかしら?」
「……」
そんな事を言われては、ガリーとしては返す言葉が無い。
何故なら完全に的を射ていたからだ。
「フフッ…二人きりで親睦を深めるのも良いでしょう」
グラキエースの意味深な言い様に、色々と勘繰ってしまい慌てるガリー。
「え?! えぇぇ?!!」
「ただ親睦を深めるだけですよ? 何か変な事を想像しましたか?」
「うぐっ!」
「冗談ですよ…フフフッ」
『え?え? なに? どれが冗談なの?!』
揶揄われたのか、はたまた揶揄ったのが冗談なのか?…どちらか分からず更にガリーは混乱した。
するとグラキエースは胸からガリーを離して告げる。
「親睦を深めるなら、裸の付き合いが良いと思いませんか? それとも私が相手では嫌なのかな?」
「い、いえ!! 滅相も無いです!」
そう答えたガリーは、今の状況に漸く気付く。
グラキエースが自分の膝の上に跨ぎ、殆ど密着状態だったのだ。
こんな体勢はディーイーともした事が無く、まるで恋人同士のようである。
「目的地まで時間に余裕が有りますから、先ずは二人で湯浴みでもしましょうか」
グラキエースは膝から降りると、ガリーの手を引いて言った。
「は、はい……宜しくお願いします…」
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ガリーがグラキエースに連れられた場所は、居間に隣接する洗面室の更に奥…浴室だった。
『ここって船の中よね…』
どう考えても内部の広さと、船の規模が合わない。
これが永劫の帝国の超技術かと思うと、ガリーは正直ゾッとした。
「ん? どうかしましたか?」
グラキエースが服を脱ぎながら言った。
「な、何でも有りません。思ったより広くて驚いただけで…」
「フフッ…確かに常軌を逸した構造ですよね。この船はメディ.ロギオスが開発した物で、私も根幹の技術は良く分かっていませんよ」
「グラキエースさんでも?!」
「得意な分野が違いますし、こう言った技術に於ては、プリームス様しか比肩しないでしょうね」
「やっぱりディーイーは凄いんですね…」
感心して返したのは良いが、臣下の前で主君を呼び捨てしたのに気付く。
「す、すみません!」
「構いませんよ。貴女はプリームス様の"仲間"ですし、それは詰まりプリームス様と対等と言う事ですから」
「そう言うものなんでしょうか…って、ちょっ!? グラキエースさん?!」
いつの間にかズボンを脱がされ、その早技に驚愕するガリー。
「体を洗ってあげますから、早く脱いで下さい」
などと言いつつも、既にパンツに手を掛けているグラキエース。
無論のことガリーは慌てる。
「ま、ま、待って! 自分で脱ぎますから!」
対してグラキエースは不思議そうに首を傾げた。
「女同士なのに…恥ずかしがる必要は無いですよ?」
「いや…女同士だから余計に恥ずかしいんです!!」
自分より遥かに美しい相手から"裸"を見られる…これは劣等感が刺激されて当然だろう。
加えて初めから妙に近く、ガリーは戸惑いを隠せないのであった。
『こ、この人…距離感が変じゃない?!』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




