1571話・ガリーとグラキエース
ヤオシュは呆気に取られた。
半世紀以上も昔に起こった魔教と正道の戦争…元を質せばトゥレラ‐ロギオスが起因だったからだ。
「つまり、ロギオス様がアドウェナを救った所為で現状に至った…そう言う事ですよね?」
とハクメイが尋ねた。
するとロギオスは態とらしく首を傾げる。
「はて…? それは私に現状の責任が有ると言いたいのですか?」
「い、いえ……そう言うつもりで言ったのでは無いです」
実際は責めるつもりで言ったが、咄嗟に否定してしまったハクメイ。
相手が狂気の魔法医師だけに、下手な事は言えないと途中で気付いたのである。
「フッ……私が此処に来たのは、多少なりとも責任を感じたからですよ。まぁ大半の理由は実験の経過観測…それが理由ですがね」
などとロギオスは言い出す。
『実験の経過観測??!!』
これにはハクメイも呆れてしまう。
魔教と正道の戦争を間接的に引き起こしておいて、更には経過観測などとは烏滸がましいと言わざるを得ない。
正に他者を慮らない自己中…ひょっとすれば世界自体が、彼の実験場なのだろう。
しかし呆れてばかりも居られない。
「これからどうするのですか? お姉様には?」
「私が受けた任務は貴女の奪還、次点で都督妃の奪還です。そして序でにサーディクさんの救出…ですからアドウェナへの対処を厳密には承っていません」
「え…?! じゃ、じゃぁアドウェナは放っておくのですか?!」
「さぁ? 取り敢えずは聖女皇陛下に報告し、その後の沙汰を伺うしか無いでしょうね」
『いやいやいや、絶対不味いでしょ!』
と思うハクメイだが、ロギオスの言い様を一応は理解が出来た。
主君の意を汲んで勝手に動く事も出来る筈…それをロギオスがしないのは、恐らく事態が如何に動くかを彼でも洞察し兼ねるからだ。
そうなると何も出来ない矮小な自分に、異を唱える権利など無いと思えるのだった。
「そうですか……では直ぐにお姉様と合流しないと、」
「はい。合流は然ほど難しくは無いでしょう。先ずは私が乗って来た次元潜航艇に案内致しましょう」
そうロギオスは言うと、指をパチンと一つ鳴らす。
直後、彼の足元から何かが湧き上がり、横たえられていたサーディクを包み込んだ。
それは恰もスライムのように粘液体に見え、かと思えばサラサラとした砂の流動体にも見えた。
これには当然、サーディクを看病していたヤオシュが小さく悲鳴を上げる。
「ひぃっ?!」
「心配ありません。貴女達ではサーディクさんを運べないでしょう。ですから私が運ぶまでですよ」
さっさと部屋を出て行くロギオス。
「はぁ……」
ついハクメイは溜息が出た。
何か行動を起こす場合、他者を脅かさないように普通は配慮するものである。
だが相手は狂気の魔法医師なのだ…常識的な配慮を求めるのは間違いなのだろう。
『駄目だ…この人に期待しないでおこう』
こうして救出に来てくれただけ有難いと思うことにした。
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「グラキエースさん……」
ガリーは怖々と声をかけた。
対して呼ばれた相手は居間のソファーに座し、テーブルの上に広げられた地図をガン見していた。
「………ん? はい、どうかしましたか?」
「その…俺は何もしないで良いのかと……」
ガリーは次元潜航艇などと言う物に乗せられ、地図に大まかな位置を記しただけだった。
これから聖女の救出へ向かうと言うのに、自分が何の準備もしていない事が不安で仕方が無いのだ。
これにグラキエースは立ち上がって言った。
「お茶でも淹れましょうか」
「え…? な、なら俺が!」
「ガリーさんは座って居て下さい。ここに何が有るか把握していないでしょう」
グラキエースは優し気に返すと、隣の台所へ颯爽と行ってしまう。
「……」
そんな後姿に、ガリーは少し見惚れる。
引き締まっているのに女らしい曲線美を損なわない…それが余りにも羨ましく思えたのだ。
ディーイーが目指しても届かない至高だとするなら、グラキエースは届きそうで届かない頂上。
どちらにしろ凡人には届かない存在であり、それは美しさだけでなく生き様も同じだ。
故に、どうしても考えてしまう。
とても自分は小さく、何も成し得ない存在だと。
現に大切な聖女を自分で助ける事も儘ならない。
『このままで俺は良いの?』
何かを利用し尽くす程、自分は強かでも無かった。
本当に成さねばならない事なら、手段など選んでいる場合では無いと言うのに。
『ほんと…俺って中途半端……』
ディーイーに出会わなければ、聖女を救い出す機会など一生手に入れられなかったに違い無い。
目の前にカップが置かれた。
「…! あ、有難う御座います」
天下の永劫の騎士に手ずから茶を淹れさせてしまい、ガリーは恐縮を禁じ得ない。
グラキエースは対面に座ると、苦笑いを浮かべて言った。
「そう畏まらないで下さい」
「でも、グラキエースさんは永劫の騎士ですから」
するとグラキエースは不思議そうにした。
「…? 永劫の騎士は別に偉くも凄くも無いですよ」
「な、何を言っているんですか?! 永劫の騎士は聖女皇の代行者でもあると聞きましたよ?!」
「それはプリームス様の意を他者に伝える為です。またプリームス様を煩わせない為、我々が代わりとなって動くだけの話ですよ」
『いや、それが出来る立場だから…』
偉いのよ…と突っ込みたくなるガリー。
そもそも自分は、そんな問答をしたい訳では無い。
自分より遥か高みにある存在を前に、畏まるのは至極当然の話なのだ。
それを理解して欲しいだけだった。
それに今回の件で思い知る。
自分はディーイーどころか、仲間さえも守れない非力な存在だと。
グラキエースはガリーをジッと見つめた後、柔らかな口調で告げた。
「他者を不必要に称え畏れるのは、無意味に自身を卑下する事と同義です」
「え…?! あ……すみません」
グラキエースが何を言わんとするか、直ぐに察したガリー。
そう…自分は無意識に己を貶めていたのである。
「……なるほど。何か悩んでいるようですね」
と告げたグラキエースは何故か立ち上がって、ガリーの右隣へ座り直したのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




