表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
1695/1765

1571話・ガリーとグラキエース

ヤオシュは呆気に取られた。

半世紀以上も昔に起こった魔教と正道の戦争…元を質せばトゥレラ‐ロギオスが起因だったからだ。



「つまり、ロギオス様がアドウェナを救った所為で現状に至った…そう言う事ですよね?」

とハクメイが尋ねた。



するとロギオスは態とらしく首を傾げる。

「はて…? それは私に現状の責任が有ると言いたいのですか?」



「い、いえ……そう言うつもりで言ったのでは無いです」

実際は責めるつもりで言ったが、咄嗟に否定してしまったハクメイ。

相手が狂気の魔法医師(ルナメディクス)だけに、下手な事は言えないと途中で気付いたのである。



「フッ……私が此処に来たのは、多少なりとも責任を感じたからですよ。まぁ大半の理由は実験の経過観測…それが理由ですがね」

などとロギオスは言い出す。



『実験の経過観測??!!』

これにはハクメイも呆れてしまう。


魔教と正道の戦争を間接的に引き起こしておいて、更には経過観測などとは烏滸がましいと言わざるを得ない。

正に他者をおもんばからない自己中…ひょっとすれば世界自体が、彼の実験場なのだろう。


しかし呆れてばかりも居られない。

「これからどうするのですか? お姉様には?」



「私が受けた任務は貴女の奪還、次点で都督妃の奪還です。そして序でにサーディクさんの救出…ですからアドウェナへの対処を厳密には承っていません」



「え…?! じゃ、じゃぁアドウェナは放っておくのですか?!」



「さぁ? 取り敢えずは聖女皇陛下に報告し、その後の沙汰を伺うしか無いでしょうね」



『いやいやいや、絶対不味いでしょ!』

と思うハクメイだが、ロギオスの言い様を一応は理解が出来た。

主君の意を汲んで勝手に動く事も出来る筈…それをロギオスがしないのは、恐らく事態が如何に動くかを彼でも洞察し兼ねるからだ。


そうなると何も出来ない矮小な自分に、異を唱える権利など無いと思えるのだった。

「そうですか……では直ぐにお姉様と合流しないと、」



「はい。合流は然ほど難しくは無いでしょう。先ずは私が乗って来た次元潜航艇に案内致しましょう」

そうロギオスは言うと、指をパチンと一つ鳴らす。

直後、彼の足元から何かが湧き上がり、横たえられていたサーディクを包み込んだ。



それは恰もスライムのように粘液体に見え、かと思えばサラサラとした砂の流動体にも見えた。

これには当然、サーディクを看病していたヤオシュが小さく悲鳴を上げる。

「ひぃっ?!」



「心配ありません。貴女達ではサーディクさんを運べないでしょう。ですから私が運ぶまでですよ」

さっさと部屋を出て行くロギオス。



「はぁ……」

ついハクメイは溜息が出た。


何か行動を起こす場合、他者を脅かさないように普通は配慮するものである。

だが相手は狂気の魔法医師(ルナメディクス)なのだ…常識的な配慮を求めるのは間違いなのだろう。

『駄目だ…この人に期待しないでおこう』

こうして救出に来てくれただけ有難いと思うことにした。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






「グラキエースさん……」

ガリーは怖々(おずおず)と声をかけた。



対して呼ばれた相手は居間のソファーに座し、テーブルの上に広げられた地図をガン見していた。

「………ん? はい、どうかしましたか?」



「その…俺は何もしないで良いのかと……」

ガリーは次元潜航艇などと言う物に乗せられ、地図に大まかな位置を記しただけだった。

これから聖女の救出へ向かうと言うのに、自分が何の準備もしていない事が不安で仕方が無いのだ。



これにグラキエースは立ち上がって言った。

「お茶でも淹れましょうか」



「え…? な、なら俺が!」



「ガリーさんは座って居て下さい。ここに何が有るか把握していないでしょう」

グラキエースは優し気に返すと、隣の台所へ颯爽と行ってしまう。



「……」

そんな後姿に、ガリーは少し見惚れる。


引き締まっているのに女らしい曲線美を損なわない…それが余りにも羨ましく思えたのだ。

ディーイーが目指しても届かない至高だとするなら、グラキエースは届きそうで届かない頂上。

どちらにしろ凡人には届かない存在であり、それは美しさだけでなく生き様も同じだ。


故に、どうしても考えてしまう。

とても自分は小さく、何も成し得ない存在だと。

現に大切な聖女を自分で助ける事も儘ならない。

『このままで俺は良いの?』


何かを利用し尽くす程、自分は強かでも無かった。

本当に成さねばならない事なら、手段など選んでいる場合では無いと言うのに。

『ほんと…俺って中途半端……』

ディーイーに出会わなければ、聖女を救い出す機会など一生手に入れられなかったに違い無い。



目の前にカップが置かれた。

「…! あ、有難う御座います」

天下の永劫の騎士(アイオーン・エクェス)に手ずから茶を淹れさせてしまい、ガリーは恐縮を禁じ得ない。



グラキエースは対面に座ると、苦笑いを浮かべて言った。

「そう畏まらないで下さい」



「でも、グラキエースさんは永劫の騎士(アイオーン・エクェス)ですから」



するとグラキエースは不思議そうにした。

「…? 永劫の騎士(アイオーン・エクェス)は別に偉くも凄くも無いですよ」



「な、何を言っているんですか?! 永劫の騎士(アイオーン・エクェス)は聖女皇の代行者でもあると聞きましたよ?!」



「それはプリームス様の意を他者に伝える為です。またプリームス様を煩わせない為、我々が代わりとなって動くだけの話ですよ」



『いや、それが出来る立場だから…』

偉いのよ…と突っ込みたくなるガリー。


そもそも自分は、そんな問答をしたい訳では無い。

自分より遥か高みにある存在を前に、畏まるのは至極当然の話なのだ。

それを理解して欲しいだけだった。


それに今回の件で思い知る。

自分はディーイーどころか、仲間さえも守れない非力な存在だと。



グラキエースはガリーをジッと見つめた後、柔らかな口調で告げた。

「他者を不必要に称え畏れるのは、無意味に自身を卑下する事と同義です」



「え…?! あ……すみません」

グラキエースが何を言わんとするか、直ぐに察したガリー。

そう…自分は無意識に己を貶めていたのである。



「……なるほど。何か悩んでいるようですね」

と告げたグラキエースは何故か立ち上がって、ガリーの右隣へ座り直したのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ