表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
1694/1765

1570話・ルナメディクスの由縁

「ちょっ!?」

ハクメイは慌てた。

ロギオスが配慮の無い事を、ヤオシュへ言ったからである。



これにヤオシュは少し俯くと、小さな声で返した。

「そうですか…お母様は亡くなりましたか」



思った反応とは違い困惑するハクメイ。

「え…?! そ、それだけですか?!」

うっかり自分も配慮の無い問いをしてしまう。



「……はい。アドウェナに母を奪われ10年も経ったのです、取り戻せない覚悟はしていました」



『なんて気丈な…』

ハクメイは感心する。

いや、この場合は諦めが良いと言うべきか?

どちらにしろ傍に居る身としては、実に居た堪れない。



するとロギオスが小さく笑い出した。

「フフフッ……」



『怖っ?!』

「ロギオス様、どうかしましたか?」



ハクメイに問われ、どうしてかロギオスは勿体ぶった返をする。

「どうしたと思いますか?」



ムキー!!…と内心でなりつつも、ハクメイは冷静さを装って答えた。

「え〜と…何か良い事でも起こったとか?」

適当に答えたつもりだが、不幸の直中に居るヤオシュを前に、これが当たっていれば最悪である。



「良い事…ですか。違いますね」



「ちょっ?! まさか…もっと悪い事でも起こったのですか?!」

狂気の魔法医師(ルナメディクス)と言われるくらいだ、恐らく狂っているだろうし、何が起きても笑って居そうだ。



ロギオスは人差し指を立て小さく横に振った。

「違いますよ。そもそも何も起こっては居ないのです」



『この人…ちょっとイラッとするわね』

「え〜と…私にも理解し易く説明して貰えませんか?」



立てていた人差し指を、ロギオスは顳顬こめかみに当てて告げた。

「ある指定した空間の記憶を参照し、そこへ限定的な夢の世界を再現しました。ですから、そこで起こった事は事実ですが、真実では有りません」



「んん?????」

全く言っている事が分からず、ハクメイは怪訝そうに片眉を上げる。



しかしヤオシュは違った。

「もしや…! 呪法で幻覚を見せて、アドウェナに死んだと思わせたのですか?」



少しばかり感心して見せるロギオス。

「ほほぅ…流石はヤオシュ嬢です。しかし幻覚とは異なるのですよ。分かり易く言えば別次元に形成した仮想世界…そこでの事象は当事者に対し事実として認識されます。まぁ当然ですよね…実際に体感するのですから」



『仮想世界? 別次元??』

やはり全くチンプンカンプンなハクメイは、要約して尋ねた。

「兎に角、都督妃は死んで無いと? じゃあアドウェナは…?」



「肉体が生命活動を停止した…と認識したのですから、肉体を捨てざるを得ないでしょう」



「肉体を捨てたアドウェナは、どうなるのです?」

ハクメイは段々イライラして来る。

端的に答えを口に出さず、小出しにする言い様が実に気に食わない。



その様子を見て、ヤオシュは苦笑いを浮かべる。

『あらら……まぁロギオス様と会話すると、どうしても苛立ってしまうわよね』


そんな会話術をする師の意図…もとい為人と言うべきだろうか、理解出来なくも無かった。

トゥレラ-ロギオスは根っからの研究者であり、また優秀な教育者なのだろう。

だからこそ直ぐに答えを告げず、他者に思考と探究の機会を与えているのだ。


しかしながら、それは時と場合に因る。

生徒や弟子でも無い相手からすれば、迷惑この上ない話なのだから。



ロギオスは態とらしく思考してから告げた。

「アドウェナは逃げ出しましたよ…情報体としてね」



『また意味の分からない事を!』

苛立ちを抑えながら尋ねるハクメイ。

「情報体? それは何なのですか?」



ロギオスは大げさに両手を広げて言った。

「この世界は凡ゆる物質に情報が刻まれています。例えば人の目では捉えられない極小の物から、そもそも人間の感覚では認識出来ない物まで色々有ります。特に魔力は量や硬度に因って、様々な形態に変化すると言って良いでしょう」



「……」

前置きが長い……そう即座に感じたハクメイは、苛立ちから疲れへと気持ちが変化しだす。

正直、ガツンと言って改善させたいところだが、自分を救ってくれた命の恩人でもある。

その所為で強気に出れないところが非常に歯がゆい。



見兼ねたヤオシュが、この話に混ざった。

「ひょっとして…その魔力で出来た情報体になって、アドウェナが逃げたと言う事ですか?」

このまま講釈だけが続けば、自分は良いがハクメイが可哀そうだからだ。



「左様、流石は私の弟子となっただけの事はありますね」

そうして軽く咳払いをしてロギオスは続けた。

「遥か昔…アドウェナを私が救った事がありました。その際、既に死滅しかけていた肉体だった為、アドウェナの魂を別の器に移す事にしたのです。そして私の選んだ手段は…」



「魔力で作った器…ですか?」



ヤオシュの問いに頷くロギオス。

「はい。正確には人間の中に有る”魔力核”を基礎に、アドウェナの魂を入れる器を作りました。これは当時、私の理論では可能な施術でしたが、実際には1度も臨床実験を行っていませんでした。ある意味で非常に危険な賭けと言える行為でしたねぇ」



遠い昔に思いを馳せる…そんな言い様だ。

されど妙な愉悦を含んでおり、他者の生殺与奪を握っていただけに不謹慎さは否めない。

なのでヤオシュは苦笑いを浮かべ、ハクメイに至っては露骨に嫌そうな顔をした。



それに気付いていないのか、或いは意に介さないのか…ロギオスは飄々と続けた。

「元からの才なのか、それとも妄執から来る因果の力か…アドウェナの魂の器は私の想定を超えた物になったのです」



今現在までアドウェナが存在したのだから、魂の施術は成功した事になる。

そして想定を超えた物…それはつまり他者の肉体を乗っ取る能力だと、直ぐにヤオシュは察した。


『それって…』

結局、今に至る事態は狂気の魔法医師(ルナメディクス)が起因だと言うことなのだ。

そう…あの歴史の闇に葬られた魔教と正道の戦争も…。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ