1569話・配慮の無い医者
「さて、どうでしょうかね。死んだかも知れないし、死んでいないかも知れません」
などと言い出したロギオスに、ついハクメイは声を張り上げてしまう。
「ええぇぇぇ???!!!」
実際にアドウェナは袈裟斬りにされ、床に仰向けで倒れている。
血も天井まで噴き上げ凄まじい出血量…はっきり言って即死なのは明白だった。
しかし相手は他者の体を乗っ取り、自由に操る存在なのだ。
肉体を壊した程度で、果たして倒したと言えるのだろうか?
するとロギオスは、倒れ伏したアドウェナの前に屈み込んだ。
「こうするのが手っ取り早かったのですよ…都督妃の体を取り戻すのにはね」
「ど、どう言う事ですか?!」
「このアドウェナが依代にしている体は、ヤオシュさんの実母…要するに南門省都督の奥方なのです。そして貴女の救出と同時に、奥方の奪還も私が受けた任務なのですよ」
血相を変えるハクメイ。
「…!! そ、それじゃ殺してしまったら……」
ロギオスは頷き、然して大した事の無いように言った。
「左様。この有様では……普通は死んでますよね」
「だ、駄目じゃないですか!!!」
「駄目ですね。しかしアドウェナを体から切り離すには、この方法が一番楽なのですよ」
「そ、そんな……」
他人事ながらハクメイは絶望を感る。
そもそも体を奪還するために、死体でも良いと判断するところは狂ってるとしか思えない。
正に二つ名の通り狂気の魔法医師と言えるだろう。
何よりヤオシュ団長やイェシン都督が知ったら、どれだけ嘆くか今から心配で為らなかた。
「取り敢えず、領督妃の体は腐らぬように保管しておきましょうかね」
と呟いたロギオスは、アドウェナだった亡骸に右手を向ける。
そうすると亡骸が突如消失した。
「…?!?」
ギョッとするハクメイ。
『えっ?! まさか収納魔導具に?!』
本来であれば人を含む生物は、収納魔導具へ入れる事が出来ない。
何故なら魔法抵抗が皆無な"無機物など"が、その対象だからだ。
それを踏まえると確かに亡骸は意思を持たず、無機物と大差ないとは言える。
それでも人間の遺体を収納魔導具に入れるなど、倫理的に如何なものかと思えた。
そんなハクメイの気持ちなど他所に、ロギオスは思わせ振りな事を口にした。
「ふむ…どうやら向こうも片付いたようですね」
「向こう…ですか?」
そして直ぐにハクメイは察する。
南南東の迷宮から離脱する際、アドウェナが強制的に連れて来た人物…サーディクの事に違いない。
部屋の扉が音も無く開き、いつの間にかロギオスが二人になっていた。
二人になった事には驚いたが、それ以上に不気味で気持ちが悪いのが勝って、つい「うへ!」と言ってしまうハクメイ。
「やれやれ…驚かせたのは申し訳無いですが、何とも失礼な反応ですね」
苦笑混じりにロギオスが言った直後、後から来た?ロギオスの形が崩壊した。
例えるなら砂の彫刻。
それがサラサラ〜〜と崩れるやいなや、ロギオスの足元に吸い込まれたのだった。
何度も何度も奇怪なものを見せられた所為か、すんっ…となるハクメイ。
最早これは驚くだけ無駄…そんな諦めから来る、無の境地と言えるかも知れない。
「んんん……まだ二人は実験区画に居るようですね。なら向こうへ合流して、転送呪法で船に戻りましょうか」
ロギオスは誰にともなく告げ、颯爽と部屋から出て行く。
当然、自分しか他に居ないので、慌てて後を追うハクメイであった。
「え、あ…待って下さい!」
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「ロギオス様!」
急に消えて急に戻って来たロギオスに、ヤオシュは胸を撫で下ろした。
所詮、自分達はハクメイ姫救出のオマケでしかない。
最悪の事態が起こった場合、ロギオスに見捨てられても仕方ない…そう腹を括って居たのである。
それを見透かしたように揶揄うロギオス。
「フフフッ…私を信用して欲しいですね。貴女は私の弟子となったのですから、捨て置いたりはしませんよ」
「あ……す、すみません」
弟子という言葉が、ヤオシュは実に複雑に聞こえた。
著名で高名ならいざ知らず、最悪最凶の魔術師が師匠ともなれば、とても誇らしいとは思えないのだ。
一層の事、自分が邪道の人間だったなら…などと考えてしまう程である。
ロギオスの背後から、ひょこっと顔を出すハクメイ。
「ヤオシュ団長…貴女もロギオス様に同行していたのですね」
特に怪我も異常も見当たらないハクメイに、ヤオシュは安堵しヘナヘナと腰が抜けた。
「よ、良かった…ハクメイ姫、無事だったのですね」
「え……そ、そうですね、お陰様で…」
そこまで言って、その先をハクメイは咄嗟に堪えた。
まさか自分が爆発しかけたなどと言える訳も無い。
そして横たえられたサーディクを見やった。
すると緩やかに胸が上下しており、呼吸しているのが確認出来た。
「そちらも何とか無事に済んだようですね」
「はい。これもディーイー様…いえ、聖女皇陛下が寛大な沙汰を下されたお陰です」
染み染みと答えるヤオシュ。
そんな彼女へ残酷な現実を告げねば為らない。
「その…都督妃の事なのですが……」
その先をハクメイは言い淀んでしまう。
『って、私が言う事じゃ無いわよね』
そうして思うのである…ロギオスの役目だと。
しかし繊細さの欠片も、また配慮も無さそうなロギオスに言わせるのも憚られた。
『ど、どうしよう…』
そんな時、ロギオスが何故か自信満々で言った。
「ヤオシュさん…貴女の母君ですが、死んでしまいましたよ」
「ちょっ!?」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




