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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1568話・アドウェナ 対 魔法医師(2)

「終わりですよ、アドウェナ・アウィス」

そう告げたロギオスは、徐に右手をアドウェナへ向けた。



アドウェナは精神を集中させ、凡ゆる魔法に抵抗を試みる。

幻惑か?

捕縛か?

それとも精神干渉系の魔法か?

何にしろ、この肉体を傷付ける手段は取るまい…そう高を括った。



「え……?!?」

つい声が漏れてしまうアドウェナ。

気付けば右の肩口から、一瞬で袈裟斬りにされていたのだ。

『??!!??!?』


鮮血が舞い上がり、勢いよく天井を濡らした。

その光景が余りにも非現実的で、アドウェナは夢の中のようで痛みさえ感じなかった。



「逃げられるくらいなら、殺してしまうしかないでしょう。しかし本当に残念です…見込みは有ったのにねぇ」



ロギオスの声が聞こえた時、アドウェナは仰向けで床に倒れ込んでいた。

『これが……トゥレラ‐ロギオスの力………』


知っていたのに侮ってしまった?

否…侮ったのではない、判断を誤ったのだ。

取引などせず、初めから全力で逃げに徹していれば良かった。

それならば千に1つ…いや、万に1つでも助かる可能性は有っただろう。

だが…それは、この体を維持しつつ逃げた場合の話だ。


もう”この体”は使えない。

なら即座に諦めて捨てるしか、今の自分には術など残っていない。

『あぁぁぁ……せっかく手に入れた最適合の体だと言うのに…』



「………」

全く動かなくなったアドウェナを、ジッと見つめるロギオス。

『ふむ…まぁ及第点……いや、彼女にしては上出来ですかね』



急に訪れた結末に、ハクメイは終始呆気に取られたままだった。

そうして漸く我に返った時、目の前にロギオスの顔が有って驚く羽目に。

「ひゃっ!??」



「既に貴女へ施された術は解除してあります。後、危険な呪法もね…」

などと思わせ振りな事を言うロギオス。



「え…? 危険な呪法…ですか?」



「はい。お嬢さんの体には、圧縮した魔力を蓄える呪法が仕込まれていました。その量は平均的な魔術師100万人分に相当します」



ロギオスの説明に、ハクメイの目が点になる。

「ひゃ、100万人??!」



頷くロギオスは更に補足した。

「因みにですが…その魔力を火炎魔法などに変換した場合、爆心地の温度は100万度を超えます。また爆発半径は100mは優に超えるでしょうねぇ」



度重なる100万の数字…もはや想像の域を超え、ハクメイは全くピンと来ない。

「んんん?? 良く分かりませんが、兎に角は不味い状態だったのですね?」



「いえ、溜め込むだけなら何の問題も有りません。恐らくアドウェナは万が一の際、貴女を人間爆弾にして逃げるつもりだったのかと」



「爆弾???」

聞き慣れない言葉に首を傾げるハクメイ。



「これは配慮が足りませんでしたね。爆弾とは火薬を元に製造された殺戮兵器です。分かり易く例えるなら、禁呪級の火炎魔法の火炎爆撃ファイアエクスプロージョンと言ったところですか。兎に角、凄まじい威力と熱量でドカーンとなる訳ですよ」



正直、火炎爆撃ファイアエクスプロージョンと言われても見た事が無いので、またもやハクメイはピンと来ない。

それでも危険だった事は十分に自覚出来た。

「つまり貴方のお陰で、私はドカーンと成らずに済んだのですね。助けて頂き有難う御座いました」



「フフッ…流石は火炎島の姫様ですね。しっかりと礼節を弁えておられる。ですが礼には及びません…私は聖女皇陛下の命で救出に参ったのですから」



そう…ディーイー本人では無く、臣下を使った事がハクメイは気掛かりだった。

「お姉様に何かあったのですか?」



「プリームス聖女皇陛下は、特にお変わりは有りませんよ。どうしてですか?」

態とらしく尋ねるロギオス。



「え〜と……お姉様が直接助けに来てくれなかったので…」

ハクメイはモジモジとしながら答えた。

かの聖女皇相手に烏滸がましいかも知れない。

しかし惚れた身としては、その相手に直接助けて貰いたいのが乙女心である。



「あぁ〜〜成程、それでしたら私が自ら申し出たからです。なお聖女皇陛下は、リキ殿の故郷へ向かわれました。どうやら南方を出てからの因果を、一気に片付ける御考えのようですよ」



「えっ?! それって…」



「はい。ガリーさんの最終的な目的…聖女の救出も同時に行います」



此処に来て怒涛の展開に、ハクメイの認識的許容が限界を迎えてしまう。

「え? え? えぇぇ?!?」



ロギオスはニヤリと笑みを浮かべた。

「驚いている所に申し訳ありませんが、加えて南門省は聖女皇陛下の傘下に加わります。これで龍国の南辺境は、完全に永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの勢力圏となりましたね」



現在、北方の南西は永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの傘下となった武國がある。

これを踏まえると永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアは、飛地とは言え大陸の3分の1を制覇したに等しい。

実際には物理的な距離が長い為、動線も長くなり軍事的に欠点となるのは否めないが…。


しかし商業的な観点で言えば話が別だ。

広範囲な上、国と国の合間に有り、更には文化圏の境に領土を持つ。

要するに貿易の中継地を確保している事となり、貿易旅団の通過料や貿易品その物に関税を掛けられるのだ。

これは国の経済基盤として非常に大きな優位性と言える。


また永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの領土が、大陸の3分の1程度なのも功を奏していた。

何故なら貿易とは”他国在って”意味を成すからである。

以上の点から南門省の併合は、永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアを軍事強国から経済大国へと変化させる起点となるのだった。



そんな事が直ぐに思いつく訳も無く、只々ハクメイは呆気に取られるばかりだ。

「……」



「これから如何に大陸情勢が変化していくか、私的には実に興味深いですね」

『まぁ聖女皇陛下は、そんな物を期待していないでしょうが…』

ロギオス個人の気持ちとしては、現状は因果の観点から実に面白い題材である。

しかしながら安穏を望む主君を思うと、少し複雑な思いを禁じ得ない。



「そ、そうですか……」



妙に不安そうなハクメイに、ロギオスは怪訝そうに尋ねた。

「どうかしましたか?」



「あ……いえ。アドウェナは死んでしまったのですか?」



「さて、どうでしょうかね。死んだかも知れないし、死んでいないかも知れません」



「えぇぇぇ??!!!」

無茶苦茶なロギオスの返答に、つい立ち上がって声を張り上げるハクメイであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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