1565話・妖術師と最悪最凶
メディ.ロギオスは、まるで廃坑のような通路を淡々と歩いていた。
ここはアドウェナが隠れ家とする小規模な迷宮で、孤島に在って恐らくは未発見の場所だ。
「フッ…こんな場所に隠れ家を作るとは、中々に良い感性ですよ」
少し愉悦を覚えるロギオス。
何故なら、事が済めば此処を自身の物と出来るからである。
そうして半ば崩れた通路を進む事10分。
景色が急に変化した。
「ふむ…随分と綺麗に施工していますね」
ロギオスは感心した風に呟く。
先程までボロボロだった地面や壁、それに天井が、真新しい石材で作り替えられていたのだ。
『これは…無機固体材質ですか。手の込んだ事を』
それだけ此処に思い入れが有る、若しくは本当に最後の拠点なのかも知れない。
何より防衛機構が明らかに強固過ぎる。
入り口の幻影と防壁を兼ねた結界、内部に点在する探知機構…どれを取っても過剰に思えた。
その反面、直接的な武力が希薄で、侵入された場合を想定していないようにも見える。
『まぁ隔壁結界が有るでしょうし、侵入者は取り敢えず閉じ込める形ですかね』
などと推測しながら進むと、探知機に表示された目標が至近となった。
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「そろそろ心を許してくれても良いのでは?」
アドウェナは揶揄気味に言った。
言われた側は、ただ静かに椅子に座ったままの少女…ロン・ハクメイ。
今はアドウェナの妖術により、自発的な行動が完全に不可能な状態にあった。
これは事前に指定された細かな禁止事項…いわゆる制約に因るものだ。
またアドウェナの命令にも抗えず、恰も別の自分が動いているかのようだった。
せめてもの救いは、自我が確保出来ている事だけだろう。
しかしながら拒絶と抵抗の意志を持てても、体が勝手に従うのだから成す術無しである。
ハクメイの対面に椅子を置き、鷹揚と足を組んで座るアドウェナ。
そして不気味な笑みを浮かべて告げる。
「フフッ…どれだけ拒んでも無駄よ。貴女自身が苦しくなるだけなのだから、身も心も私に捧げなさい」
ハクメイは不思議でならない。
どうして精神まで操り、自分を支配しないのか?
殆ど傀儡のように操れるなら、初めから自我を奪い好きにすれば良いのだ。
『ひょっとして…何かしらの限界や制限がある?』
例えば課する制約の数に上限があったり、そもそもは精神までは支配出来ないのでは?
そこまで考えたハクメイは、それが徒労だと察する。
仮に問い質し答えを得たところで、結局は何も出来ないのだから。
黙り込んだままのハクメイへ、執拗に絡むアドウェナ。
「貴女の考えている事を当てましょうか」
「……」
「どうして完全な傀儡にしないのか…でしょう?」
「…!」
ついハクメイは目を見開いてしまう。
「フフフッ…当たったみたいね」
ニタ〜っと笑みを見せた後、アドウェナはハクメイの胸元を指して続けた。
「貴女の体は予備なの。だから鮮度が落ちては困るのよ」
「せ、ん…ど…?」
掛けられた制約の所為で、上手く声が出ない。
「そうよ。この体が限界を迎えた時、私は貴女の体に乗り換えるの。それが1年先か、それとも10年先かは分からない。だから鮮度を保つ為にも、貴女の自我を残さないといけないのよ」
アドウェナの言葉を要約すれば、自我を無くした人の体は朽ちていく事になる。
言われてみれば、そうかも知れない…と妙にハクメイは納得した。
自我とは意識であり、意識を無くした人は生命活動を半ば停止したに等しい。
なら、生命を維持出来る程度に操れば?
『多分、そんな複雑な事が出来ないんだわ』
ハクメイが推測するに、操ると言っても"馬の手綱を握る"程度が限界なのだろう。
そして手綱を握られている馬は、意識が有り当然に自我も有る。
恐らくは手綱を握って制御する強さ…つまりアドウェナは強制力や従わせる力を、妖術と言う手法で行使しているに違いない。
「どうやら色々察したみたいね。貴女は可愛くて綺麗な上に、中々に聡い……貴女に依り代としての適性が無ければ、私の補佐か助手として傍に置き続けるのだけど」
と残念そうに言うアドウェナ。
これにハクメイは寒気を覚えた。
正に拒絶する思いが先走って、体が勝手に反応してのである。
そんなハクメイを見透かしたようにアドウェナは続けた。
「まぁ貴女が心底拒もうが、今更どうにもならないわ。時が来るまで私の為に働いて貰うわよ」
「う……うぅ……!!」
傀儡になるくらいなら死んだ方がマシだ…そう叫びたかったが、微かな呻き声を上げるのが精一杯のハクメイ。
これ程に無力な自分が情けなくて仕方が無い。
『きっと盾にされる……そんな事になったら』
御姉様と再び戦わされる羽目になる。
そうなる前に…せめて……せめて己の命を絶つ事が出来れば。
刹那、男の声がした。
「死のうだなんて考えないで頂きたい。貴女は聖女皇陛下の大切な義妹なのですから」
硬直するアドウェナ。
「……!!!」
アドウェナの視線の先……それは自分の背後。
そう気付いたハクメイは恐る恐る振り返った。
『……?! だ、誰?!』
自分の背後に立っていた白衣の男…一見して医者に見えるが、実に優男で頼りない。
「あ、貴方は…!!」
白衣の男を見つめ、アドウェナは半ば呆然と呟く。
この存在を自分は知っている。
否…初めて知ってより、忘れられる筈も無かった。
そう、彼は列国に脅威認定された”最悪最凶の魔術師”なのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




