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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
1689/1765

1565話・妖術師と最悪最凶

メディ.ロギオスは、まるで廃坑のような通路を淡々と歩いていた。

ここはアドウェナが隠れ家とする小規模な迷宮で、孤島に在って恐らくは未発見の場所だ。


「フッ…こんな場所に隠れ家を作るとは、中々に良い感性ですよ」

少し愉悦を覚えるロギオス。

何故なら、事が済めば此処を自身の物と出来るからである。



そうして半ば崩れた通路を進む事10分。

景色が急に変化した。



「ふむ…随分と綺麗に施工していますね」

ロギオスは感心した風に呟く。

先程までボロボロだった地面や壁、それに天井が、真新しい石材で作り替えられていたのだ。


『これは…無機固体材質ですか。手の込んだ事を』

それだけ此処に思い入れが有る、若しくは本当に最後の拠点なのかも知れない。


何より防衛機構が明らかに強固過ぎる。

入り口の幻影と防壁を兼ねた結界、内部に点在する探知機構…どれを取っても過剰に思えた。

その反面、直接的な武力が希薄で、侵入された場合を想定していないようにも見える。


『まぁ隔壁結界が有るでしょうし、侵入者は取り敢えず閉じ込める形ですかね』

などと推測しながら進むと、探知機に表示された目標が至近となった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






「そろそろ心を許してくれても良いのでは?」

アドウェナは揶揄気味に言った。



言われた側は、ただ静かに椅子に座ったままの少女…ロン・ハクメイ。

今はアドウェナの妖術により、自発的な行動が完全に不可能な状態にあった。


これは事前に指定された細かな禁止事項…いわゆる制約に因るものだ。

またアドウェナの命令にも抗えず、恰も別の自分が動いているかのようだった。


せめてもの救いは、自我が確保出来ている事だけだろう。

しかしながら拒絶と抵抗の意志を持てても、体が勝手に従うのだから成す術無しである。



ハクメイの対面に椅子を置き、鷹揚と足を組んで座るアドウェナ。

そして不気味な笑みを浮かべて告げる。

「フフッ…どれだけ拒んでも無駄よ。貴女自身が苦しくなるだけなのだから、身も心も私に捧げなさい」



ハクメイは不思議でならない。

どうして精神まで操り、自分を支配しないのか?

殆ど傀儡のように操れるなら、初めから自我を奪い好きにすれば良いのだ。


『ひょっとして…何かしらの限界や制限がある?』

例えば課する制約の数に上限があったり、そもそもは精神までは支配出来ないのでは?


そこまで考えたハクメイは、それが徒労だと察する。

仮に問い質し答えを得たところで、結局は何も出来ないのだから。



黙り込んだままのハクメイへ、執拗に絡むアドウェナ。

「貴女の考えている事を当てましょうか」



「……」



「どうして完全な傀儡にしないのか…でしょう?」



「…!」

ついハクメイは目を見開いてしまう。



「フフフッ…当たったみたいね」

ニタ〜っと笑みを見せた後、アドウェナはハクメイの胸元を指して続けた。

「貴女の体は予備なの。だから鮮度が落ちては困るのよ」



「せ、ん…ど…?」

掛けられた制約の所為で、上手く声が出ない。



「そうよ。この体が限界を迎えた時、私は貴女の体に乗り換えるの。それが1年先か、それとも10年先かは分からない。だから鮮度を保つ為にも、貴女の自我を残さないといけないのよ」



アドウェナの言葉を要約すれば、自我を無くした人の体は朽ちていく事になる。

言われてみれば、そうかも知れない…と妙にハクメイは納得した。


自我とは意識であり、意識を無くした人は生命活動を半ば停止したに等しい。

なら、生命を維持出来る程度に操れば?

『多分、そんな複雑な事が出来ないんだわ』


ハクメイが推測するに、操ると言っても"馬の手綱を握る"程度が限界なのだろう。

そして手綱を握られている馬は、意識が有り当然に自我も有る。

恐らくは手綱を握って制御する強さ…つまりアドウェナは強制力や従わせる力を、妖術と言う手法で行使しているに違いない。



「どうやら色々察したみたいね。貴女は可愛くて綺麗な上に、中々に聡い……貴女に依り代としての適性が無ければ、私の補佐か助手として傍に置き続けるのだけど」

と残念そうに言うアドウェナ。



これにハクメイは寒気を覚えた。

正に拒絶する思いが先走って、体が勝手に反応してのである。



そんなハクメイを見透かしたようにアドウェナは続けた。

「まぁ貴女が心底拒もうが、今更どうにもならないわ。時が来るまで私の為に働いて貰うわよ」



「う……うぅ……!!」

傀儡になるくらいなら死んだ方がマシだ…そう叫びたかったが、微かな呻き声を上げるのが精一杯のハクメイ。

これ程に無力な自分が情けなくて仕方が無い。


『きっと盾にされる……そんな事になったら』

御姉様ディーイーと再び戦わされる羽目になる。

そうなる前に…せめて……せめて己の命を絶つ事が出来れば。



刹那、男の声がした。

「死のうだなんて考えないで頂きたい。貴女は聖女皇陛下の大切な義妹なのですから」



硬直するアドウェナ。

「……!!!」



アドウェナの視線の先……それは自分の背後。

そう気付いたハクメイは恐る恐る振り返った。

『……?! だ、誰?!』

自分の背後に立っていた白衣の男…一見して医者に見えるが、実に優男で頼りない。



「あ、貴方は…!!」

白衣の男を見つめ、アドウェナは半ば呆然と呟く。


この存在を自分は知っている。

否…初めて知ってより、忘れられる筈も無かった。

そう、彼は列国に脅威認定された”最悪最凶の魔術師”なのだから。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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