1563話・狂人な勧誘
振り下ろされた丸太の如き両腕は、その威力を拳に伝え魔法障壁を粉砕した。
それだけに止まらず、威力を維持したままの拳はロギオスの脳天に直撃する。
「ロギオス様!!!」
ヤオシュは叫んだ。
叫んでも仕方無いのを理解していても、体が…口が勝手に動いていた。
そして刹那に見る…ロギオスが強大な2つの拳に押し潰されるのを。
絶対に助からない。
きっとグジュグジュに潰れ、肉塊になったに違い無い。
絶望したヤオシュは、その場に崩れ落ちた。
「………」
『私も…ここで死ぬの……?』
残酷な現実…しかし仕方ないとも思えた。
自分は母を人質に取られ、今までアドウェナへ密かに協力し続けていた。
ある時は物資を供給し、ある時はアドウェナが必要とする素体…つまり傭兵や冒険者を迷宮へ送り込んだ。
これに因って数々の行方不明者が続出し、南南東の迷宮は辺境最悪最難関と呼ばれる様になったのだ。
そう…嘆きの壁だけでは無い。
自分や都督である父の行為で、多くの人命が失われたのである。
そして今、この時こそが贖罪の機会なのかも知れない…自らの命を差し出す事に因って。
ヤオシュが全てを諦めた時、サーディクが不快?そうに腕を振り払い始めた。
『な、何?!』
その様子を呆然と見つめるヤオシュ。
そうして直ぐ異変に気付いた。
『え……?! あのへばり付いているのは?!』
ロギオスを潰したサーディクの両拳には、粘液状の何かが付着していたのだ。
それは拳だけで無く腕にまで及び、いや違う…次第に範囲を広げていた。
見る見るうちに拳から腕、更に二の腕にまで達し、もうすぐ肩にまで至りそうだった。
一方、サーディクは懸命に振り払おうとし続ける。
だが全く剥がれず巨体は次第に力を失い、とうとう両膝を床に付けてしまう。
それを好機と見たように、付着していた粘液が一気にサーディクを覆う。
結果、サーディクは”堪えきれなくなった”ように、俯せに倒れたのであった。
一連の出来事にヤオシュは言葉を失う。
「………???」
「やれやれ…傷付けずに制圧するのは骨が折れますね。かと言って毒を使う訳にもいけませんし」
などと何処からともなくロギオスの声が聞こえる。
死んだ筈の人物の声が聞こえ、またもや驚愕するヤオシュ。
「???!!!?!!」
「フッ……驚かせてしまいましたね」
そんなロギオスの声が聞こえた刹那、倒れ伏したサーディクからヌ~~っと何かが湧き上がった。
「きゃぁぁぁ??!!」
思わず悲鳴をあげるヤオシュ。
それも当然だった…サーディクを覆っていた粘液がモコモコっと盛り上がり、それが人の形を模したのだから。
盛り上がった粘液は、ロギオスの顔の部分だけを構築。
その顔だけのロギオスが困惑した様子で尋ねた。
「ちょ?! そんなに驚く事ですか?!」
完全に腰を抜かしたヤオシュ。
「ひぃぃ!」
『参りましたね……どうして人と言うのは、基本概念を外れると卒倒するのですかね』
などとロギオスは内心でボヤく。
このままでは無駄に刺激するだけなので、取り敢えずは全身を再構築する事にした。
こうして5分程が経過。
すっかり元の姿に戻ったロギオスは、ヤオシュに片手を差し出して告げる。
「さぁ、いつまでも座ってないで立って下さい」
「は、はい……」
何とかロギオスの手を取ったが、本音で言えばヤオシュは怖くて仕方がない。
「ふむ…まるでオバケを見る様な顔ですね」
「も、申し訳ありません。ロギオス様が完全に潰れた所を見てしまったので…」
「成程。つまり訳が分からない故に、この私が怖いのですね?」
小さく何度も頷くヤオシュ。
『ふむむ…私に言わせれば不可解だからこそ、興味が惹かれ探究心を刺激されるのですが』
皆が皆、そう言う訳では無いのを理解はしている。
それでも恐怖が勝るのは、知る事への阻害であり、ロギオスからすれば勿体なく思えた。
彼女を落ち着かせる為にも、兎に角は説明するべきかも知れない。
「私は複製体です。それは理解していますよね?」
ヤオシュは再び小さく何度も頷く。
「複製体と言っても、全く同じ物質と質量を有している訳では有りません。厳密に言えば代替え物質で、見た目を模倣しているに過ぎません」
「え……?!」
混乱するヤオシュ。
見た目は完全な人の姿…なのに違う物質。
そんな事が果たして可能なのか?
ロギオスは自身を手で指し示しながら告げた。
「この体を構成しているのは液体金属です。そして液体金属の元になっているのが、ナノスマキーナなのですよ」
「あの薬瓶に入っていた物と…同じ?!」
「基本的な構成は同じです。只、組み込まれた命令機構が異なります。そもそも"この体"には核が有って、それに因り全体を支配制御していますから」
少しだが理解し始めたヤオシュ。
「ひょっとして…ゴーレムと似た機構なのですか?」
核に因って制御する…自分が知っている似た機構は、それしか思い当たらなかった。
「ほほう…中々に理解が早いですね、正解です。似た…と言うより、ゴーレムと同じ機構ですよ」
「あ、ありがとうございます」
褒められ少し嬉しくなるが、やはりヤオシュ的には合点がいかない。
目の前のロギオスの複製体は、明らかに人間だからだ。
首を傾げるロギオス。
「ん? 何だか腑に落ちない様子ですね」
「そ、その…今のロギオス様が、どう見ても人間に見えるので…」
「フフッ…それだけ精巧で高度な技術と言う事です。どうです? 興味が惹かれませんか?」
「……」
また弟子の勧誘だとヤオシュは察する。
正直、非常に魅力的な誘いだが、いまいち踏み込めない自分を自覚する。
それが恐怖なのか不信なのかは定かでは無い。
『兎に角、今はサーディクが先』
「あの…サーディクを元に戻せるのですか?」
「あぁ〜〜そうでした。先に貴女の部下を治療しないと」
などと態とらしく言うロギオスだが、
『警戒しているようですが、ここで更に私の能力を見せて信頼を得るとしますかね』
と内心では下心で一杯なのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




