1159話・カルボーシリーズ
「稀代の天才魔術師…そして黒の髪と瞳…ですか」
とロギオスは独り言を呟きながら、とても船内とは思えない廊下を歩んでいた。
ここは失われた古代技術を復元し、それを元にロギオスが作り上げた船の中である。
この内部は小ぶりの屋敷程もあり、10人に1室ずつ充てがっても余る程だ。
しかもその1室が、居間、寝室、浴室と洗面室が揃っていて、大型豪華客船も真っ青な水準と言えた。
そんな部屋など目もくれず、突き当たりの階段を上るロギオス。
その先には次元潜航艇の中枢…艦橋が在った。
そう…この船は只の移動や運搬に使う船舶では無い。
区分としては戦艦に相当した。
誰も居ない艦橋に入ったロギオスは、中央にある作戦指揮台の前に立った。
そこには食べ掛けのクッキーが置かれ、先程まで誰かが居たような形跡が残っている。
海図も中途半端に広げたままだ。
「やれやれ…最低必要限はしてくれても、それ以上でも、それ以下でも無いとは」
少し呆れた様子でロギオスは呟く。
すると幾つかの淡い光が、ロギオスの頭上に出現する。
「動力の制御、それに航路の確認を怠っていませんか?」
誰にとも無く告げるロギオス。
これへ呼応するように、淡い光の球が徐に指揮台へ降りる。
その直後、光の球はシャボン玉のように弾け、その中?から人型の何かが現れた。
そして人型の何かは、ロギオスを見上げて不満そうに言った。
「今はメディ以外に人が居ます。だから急いで姿を隠したのですよ」
「そうですか…」
『ああ言えば、こう言う…饒舌にばかりなって全く…』
内心でボヤくロギオスだったが、直ぐに"感応された"事に気付く。
「私の心を読まないでくれますか」
「おやおや…バレてしまいましたね。ああ言えば、こう言うで申し訳ありません」
などと飄々と返す人型の何か。
ロギオスは先程にも増して障壁を強化し、またもやボヤく。
『やれやれ……外見は助手を模倣させたのですが、中身が何とも…』
可愛げが無い。
「可愛げが無いですか? 何でしたら可愛い"振り"だけでもしますよ?」
と小さく可愛らしい何かが言う。
「ちょっ?! 私の魔法障壁を突破したのですか?!」
驚きでロギオスは声を張り上げた。
全力では無いが、それなりに魔力硬度を高めた筈。
つまり狂気の魔法医師の魔力を上回った事になる。
『まさか…そんな力が人工精霊に有る訳が』
そうすると可愛らしい人型の人工精霊は、おどけた様子で告げた。
「フフフッ…メディ、顔に出ていますよ」
「ぐっ…!」
『この私が己の創造物に揶揄われるとは…』
「動力には何の問題も有りません。また航路も予定通りに進行中です。目的地への到着予定時間は、3時間から5時間後となっております」
人工精霊は誰かを真似した風に、恭しくお辞儀をしながら報告した。
「はぁ……001、余り私を揶揄わないで貰えますか」
「メディ…、ちゃんとカルボー001と呼んで貰えませんか」
頭を抱えるロギオス。
『誰に似たのやら……』
「カルボー001、お嬢さんの世話もお願いしますよ。3時間以上なら、腹ごしらえをした方が良いでしょうしね」
「承りました。メディは如何されますか?」
「食べようが食べまいが、私には何も起こりはしません」
「…? ですが空腹を感じられるのでは?」
怪訝そうに聞き返すロギオス。
「珍しく私に配慮しますね。何を企んでいるのですか?」
カルボー001は態とらしく慌てて見せた。
「企むなんて、とんでも有りません! 本物であろうが疑似的であろうが、生物として存在するなら生理現象からは逃れられません。それを無理に抑制されて、"悪い事"が起きないか危惧しているだけです」
流暢に話す人工精霊を前に、ロギオスは自嘲する。
「フッ……面白い事を言う」
『ふむ…限定的な超次元情報体への接続が影響しているのか?』
知能や利便性を向上させる為そうさせたが、無駄に知恵を付けたように思える。
自分に言わせれば"無駄"とは、人間が人間である最たる理由だと考えていた。
故に潜在的な自身の望みに、創造主の真似事でもしたいのか…などと自己分析してしまう。
『いや…これは結果の問題であって、私の趣味では無いですね』
神を倒そうとしていた原体《トゥレラ-ロギオス》なら、いざ知らずだ。
『いやいや…これも違いますか』
果たして神を倒す事と、神に成り替わる事は同義なのか?
失われた原体の思想と本懐…もう推し量るのは不可能である。
「メディ…?」
「ん…? あぁ〜〜少し考え事をしていました」
そう返したロギオスは、艦長席へ腰を下ろし続けた。
「軽食をお願いします。聖女皇陛下から託された任務が有るので、眠くなっては困りますからね」
「…? 任務ですか? 目的地までの航行は私が管理していますし、休まれても問題ありませんよ」
「いえ…別件ですよ。後始末と言いましょうか、念の為の確認です」
などと答えたロギオスは、早々に瞳を閉じてしまう。
「別件ですか…」
要領を得ないカルボー001は小首を傾げるが、直ぐに諦めた様子で艦橋を出た。
自分に自我が有るにせよ、実際は与えられた機構の一部でしか無いのだ。
なら疑問を持とうが、必要以上に問うては為らないのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




