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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1158話・ヤオシュと魔法医師

しこたま驚いたヤオシュは、驚き疲れて半ば呆然とソファーに座っていた。

驚いた理由は、今乗っている次元潜行艇の事だ。


そもそも宙に浮き移動可能な船など、見た事も聞いた事も無い。

更には精霊界を航行可能だと言うのだから、魔術に詳しい者なら驚いて当然だった。


『精霊しか存在出来ない次元…それが精霊界の筈なのに』

しかし自分は実際に精霊界に居るのだ。

その事実をヤオシュは未だに信じられないで居た。



そんな彼女へ、ロギオスが淹れたての茶を差し出す。

「お嬢さん、落ち着きましたか?」



「え……あ、有り難う御座います。まだ夢の中に居る気分ですが、ちゃんと頭では理解して落ち着けたと思います」



「そうですか」

ロギオスもティーカップを持ちながら、ヤオシュの対面へ座る。



「……」

その様子を見たヤオシュは、"噂と違う"と思えた。

目の前の存在は、列国に脅威認定された狂気の魔法医師(ルナメディクス)なのだ。

そんな相手が手ずから茶を淹れてくれるなど、想像し得ない事態だった。



「なんですか?」

首を傾げるロギオス。



「い、いえ…何と言うか、噂は当てにならないと思いました」



「ほほぅ…噂ですか? どう言った物ですか?」



『それを聞くか?!』と口を突きそうになるヤオシュ。

それは詰まり悪評を、本人の目の前で語る事になるのだから。

「その…こう言う話は、本人の前で言うべきでは無いかと、」



「フフッ…構いませんよ。私にとって再認識する良い機会ですし、遠慮なく言ってみて下さい」



ここまで求められては、流石に嫌とは言えない。

仕方無くヤオシュは、権威者の間で囁かれる彼の悪評を話す事にした。

「分かりました…」


しかしながら狂気の魔法医師(ルナメディクス)の存在は、一般的に余り認知されていない。

何故なら彼は、国家や権威者に関わり悪さをするからだ。


そして"された側"は大半が恥をかかされた形で、その被害を市井に公表出来る訳が無い。

因って一般的に有名とは言えないのだった。

それでも自分のような傭兵団の団長が知る位には、その悪評は大陸に轟いていた。


「最近、実しやかに噂されているのが、西方のペレキス共和国の政変です。それに貴方が関わっていたと…」



「フッ…それから?」



『否定も肯定もしないのか…』

「他には…とある黒組織を利用して人を攫い、その人達で人体実験を繰り返したとも聞きました」



「人体実験ですか…まぁ私に有りがちな噂ですね」



全く意に介さないロギオスに、どうしてかヤオシュは負けん気が起こってしまう。

『人非人なのは確かなようね。なら悪行を並べて自覚させてやるわ!』

そこからヤオシュは、信憑性が有る物から無い物まで語った。



するとロギオスは少し思考する素振りを見せ、

「ふむ……貴女が知るだけでも結構な数ですね。全くもって悪名は無名に勝る…ですかね」

などと言い出す始末。



これにヤオシュは顔色を変えた…主に怒りでだ。

「その悪名の所為で、聖女皇陛下が不便に感じて居られるとは思わないのですか!」



「聖女皇陛下を罠に嵌めておいて、そんな事を貴女がよく言えますね」



「くっ…!」

鋭い的確な返しに、ヤオシュは口篭り怯んだ。



「まぁ良いでしょう、北方での私の評判を知れたのですから」

そう呟いたロギオスは、ティーカップを置くと続けた。

「聖女皇陛下は私の全てを受け入れ、そして配下したのですよ。何より実力は折り紙つきですし、"悪名こそ"利用価値が有るのでしょう」



『悪名が利用価値?!』

「貴方は何を言って…」

困惑するヤオシュだが、直ぐにピンと来た。

「まさか…」



頷くロギオス。

「そう…既に永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアは最強の剣聖を擁しています。そこに最凶最悪の私が加われば、何人であろうと矛を向けようなどとは思わないでしょう」



自身の悪名を利用し主君へ益をもたらす。

果たして歴史上で、こんな思い切った判断をした者が居るだろうか?


答えは"否"である。

これは聖女皇の偉業と名声が、狂気の魔法医師(ルナメディクス)の悪名を払拭する程に大きいからだ。


『やはり超絶者の考えは、私などでは推し量れないわね…』

柄にも無く激昂した事に、とてもヤオシュは恥ずかしくなる。

「無礼な物言い…申し訳ありませんでした」



「フフフッ…他者になじられるのは慣れていますから、全然平気ですよ」

そう返したロギオスは、足を組んで座り直し続けた。

「所で…アドウェナの事なのですが、詳しく話して貰えませんか?」



「アドウェナの事ですか?」

ヤオシュは聞き返してから、自分がウッカリしていたと察する。

メディ.ロギオスは急に召喚された立場であり、恐らくは凡その状況しか知らない筈なのだ。

「失礼しました。私から説明を切り出すべきでしたね…」



「いえいえ、謝罪には及びません。で、確か母君が妖術師…いや、迷宮の主であるアドウェナに体を乗っ取られたのですよね?」



「はい…乗っ取られたのは今から10年程前の事です。母は現役の傭兵で、凄腕の魔術師でした」



「母君の名前と容姿を教えて頂けますか? それと傭兵として、また魔術師として周囲の評価も伺いたい」



随分と細かい事を訊く…などと思いつつも、ヤオシュは素直に答えた。

「母の名はヨンガン…貴族では無いので姓は有りません。傭兵としては超一流と称され、魔術師としては稀代の天才と呼ばれていました。容姿は黒髪、黒の瞳、北方人然とした肌の色をしています」



「成程…魔術の才が仇となった訳ですね」

と呟いたロギオスは静かに席を立った。



「ロギオス様?」



「お嬢さん…貴女は船内で好きに過ごして構いません。因みに外に出ては死んでしまいますので、絶対に出ないで下さい。入れない場所も少し有りますが、ご了承願いますね」

紳士的な口調で告げるロギオス。



しかしながら、その柔らかで誠実そうな口調な裏に、何か薄寒いものをヤオシュは感じる。

「わ、分かりました」


それは他者を歯牙にも掛けない、不気味な程の無関心さ。

自分は居ても居なくても一緒…そう察したヤオシュは、ひとり愕然とするのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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