1157話・用意された神器(2)
恐る恐る次元潜航艇なる物へ乗り込んだティミド。
すると直ぐ目を見張る事になる。
何と内部は船の外観とは、全く違った構造になっていたのだ。
具体的に例えるなら、普通の屋敷の内部である。
どう考えても高さや幅が違い、また船の側面…上棚だが、本来そこは緩やかな曲線の筈なのだ。
しかし如何に目を凝らしても、垂直に真っすぐな”壁”だった。
驚きはリキとシンも同じだったようだ。
「え…?! どうなってんだ?!」
「まるで…別の世界に迷い込んだみたい…ですね」
ディーイーは小さく笑った。
「フフッ…別の世界か…言い得て妙だな。実際に船の内部は別の空間なんだ」
「それって…大丈夫なのか?」
不安そうに尋ねるリキ。
急に元の容積に戻って、自分達が潰されないか心配してのである。
「大丈夫、大丈夫、何度も試験運用しているしね。何よりメディ.ロギオスが長年使っていた機構で、彼曰く不具合や事故は1000分の1程度らしいよ」
「そ、そうか…」
『それって1000回航行したら1回事故るんじゃぁ…』
などと突っ込みそうになるリキだが、そこは皆の不安を煽らないように我慢した。
何にしろ、この異質な船を1000回など乗る機会は無いだろう。
しかしながら1000分の1が今回で無い事を、只々願うばかりである。
そんなリキの危惧など他所に、ティミドが物件を内見するように船内を調べ始めた。
「わぁ〜〜広いですね。部屋も沢山有りますし」
これにシンが続く。
「ちゃんと浴室と御手洗も有って、使い勝手も良さそうですよ」
「そうだろう? 後、洗濯が出来る洗い場も備え付けてあるぞ」
何故か誇らしげに語るディーイー。
女子3人でキャッキャしているのを、リキは遠い目で見つめる。
『女ってのは、こう言うので盛り上がるよなぁ…』
傭兵の自分に言わせれば、風呂など外で雨に打たれて洗えば済む。
それが無理なら海にドボンすれば良いのだ。
『ん…? そう言えば…』
「ディーイーさん、どうやって動くんだ? 陸上だしよ…ひょっとして飛ぶのか?」
間の抜けた問いにディーイーは苦笑した。
「フフフッ…人の話はちゃんと聞かないとね。精霊界を航行すると言ったろ」
「え? あ? そうだっけ? てか、アストラなんちゃらって何だ?」
ズッコケそうになるディーイー。
『そこからか!』
「え〜と…銀冠の女王とか一角獣が元々居る世界だよ」
「ああ〜〜! 精霊界ってやつか!」
半ば納得したかに見えたリキは、直ぐに首を傾げる始末。
「んん?? 態々そんな異世界を航行するより、こっちを飛んだ方が早いんじゃないのか?」
『う〜む…子供と話してるみたいだな』
溜息が出そうなのを堪えて、ディーイーは可能な限り端的に説明を始める。
「飛ぶと言うか、浮いて滑るように進む事は可能だよ。でもね次元潜航艇の本来の力は、別次元を航行出来る点なの」
「ふむふむ…やっぱ陸上を進めるのか。でもよ別次元を航行する意味が分からん」
我慢出来なくなったティミドが駆け寄り、話に割って入って来た。
「だ、か、ら! 意味が有るから精霊界を航行するんでしょうが!!」
「ちょっ?! そんなに怒るなよ…」
「ディーイー様を煩わせるから怒るのです! そう言う物だと納得しなさい!」
「えぇぇ?! 無茶苦茶だぞ!」
口を尖らせて文句を言うリキに、ティミドの怒りに火が付く。
「むきっー!!」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。利用するなら基本的な仕組みは知った方が良い」
こうしてディーイーは2人を諭した後、子供へ語るように精霊界の説明を試みた。
※
※
※
「成程…要するに時間の流れの差を利用するんだな」
漸く合点がいった様子で呟くリキ。
『ふぅ…何とか理解してくれたか』
ディーイーは少しゲッソリとしてしまう。
「うん。精霊界の場所にもよるけど…精霊界の10日が、こちらでは1時間から1日って感じだね。例えば1週間の行程なら、こっちの世界で最短40分、最長で17時間程度かな」
「うむむむむ????」
実際に数字で言われると、こんがらがってしまうリキ。
一方、傍で黙って聞いていたシンは、物凄く感心した様子を見せる。
「そんな短時間で長距離を移動出来るなら、もはや戦略兵器と言っても過言では無いですね」
シンの熱い眼差しと言い様に、少しばかり引き気味のディーイー。
「はは…は……確かにそうかもね」
『うは……やっぱり元暗部だから、こんなのには興味があるのかな』
国家にとって暗部は情報戦の要である。
そして情報とは逸早く入手し、最速で利用しなければ価値が下がり、或いは戦略的に後手へと回る。
それを鑑みれば喉から手が出る程、暗部からすれば次元潜航艇が欲しい物となるだろう。
『まぁ私は戦略的に使う気も、他国に使わせる気も無いけどね』
既に永劫の帝国は、文明水準で他国を遥かに上回っているのだから。
ティミドが怖々とディーイーに尋ねた。
「あのぅ…幾ら短時間で長距離を移動出来るにしても、本当は相応の時間が掛かるのでしょう? その間の船内生活が、ディーイー様の負担になりませんか?」
『うむむ……息が詰まるかもな』
「……そう言われると自信が無いかも。よくよく考えれば、精霊界で生身の人間は活動できないし」
つまり船外の甲板に出たりする事は不可能なのだ。
「えぇぇぇ?!! ひょっとして船外に出れないのか!?」
急に声を張り上げるリキに、ディーイーの心臓が跳ね上がる。
「びっくりした……。そうよ、出たら死んじゃうよ?」
ちょっとイラっと来たので少し脅してみたが、実際は直ぐに命を失うような事は無い。
「そんなぁ……一体どれだけ船内に閉じ込められるんだぁ?!」
半ば泣きそうな様子で文句を言い出すリキ。
『おいおい…迷宮に何日も潜る傭兵が半べそ?!』
そんな彼を目の当たりにし、ディーイーは呆れてしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




