1555話・超絶者の振り分け(2)
突如決まったハクメイ姫と都督妃、それに聖女の奪還作戦。
イェシンは呆気に取られるばかりだ。
『これが聖女皇陛下の手法なのか?!』
中間の審議や検討を挟まない直決の司令系統…正に君主国家の強みが出たと言える。
しかし昨今の君主制は議会制との併用で、聖女皇のようには行かない。
そうなると、ある意味で独裁国家と言えなくも無いだろう。
ディーイーは立ち上がると、皆を見渡して告げた。
「さて…お腹も満たされたし、そろそろ行動に出ようか」
ティミドが不安そうに尋ねる。
「ディーイー様…そのようなヒラヒラした格好で向かわれるのですか?」
彼女が心配するのも当然だった。
身支度を整えたと言っても、何百kmも移動する様な格好では無いのだ。
どちらかと言えば、北方式の夜会をする淑女の出立ちである。
それは漆黒の旗包で、体の線がクッキリと出る意匠だ。
加えて腰まで入ったスリットの所為で、チラチラと下着が見える始末。
言うなれば夜会で紳士を誘惑する装いで、とても何らかの作戦に出撃する格好では無い。
「ヒラヒラって、それは裾だけで他はぴっちりしてるよ?」
「その…私には目の保養……じゃ無かった、リキさんと行動を共にするなら、目のやり場に困らないよう配慮した方が宜しいかと」
何だかティミドが、伴侶のアグノスに似てきたと思うディーイー。
『私欲がダダ漏れなんだけど…』
「う〜ん…結構動きやすいから、何か上に羽織るのでは駄目かしら?」
『うむむ…何を着られても魅惑的になっちゃうしな…』
結果、ティミドが折れる事に。
「分かりました。肌の露出が多いので、怪我しないように分厚めの物を羽織って下さいね」
「分かってるよ」
それはディーイー自身も良く分かっていた。
今は魔力を使えない状況にあり、それは詰まり二重の魔法障壁を展開出来ない状態なのだから。
こうしてディーイーが収納魔導具から取り出したのは、"透け透け"のケープだった。
「ちょっ…ディーイー様! 私の話しを聞いていましたか?!」
つい声を張り上げるティミド。
「ちゃんと聞いてたよ? このケープは魔導具で、すんごい防御力が有るんだから」
「そうでは無くて、私が心配しているのは…」
そこまで言ったティミドは、溜息を漏らして続けた。
「はぁ……もう良いです。兎に角は他者の目が有る所で、脚を広げたりはしないで下さいね」
「うん、分かった!」
そんな2人を見ていた周囲は、どこぞのジャジャ馬姫と乳母…などと不敬な事を思ってしまう。
どちらも見た目は似たような歳だが、こうして時より精神年齢が上下するので、見ている側は何とも和んでしまう所だ。
その空気をロギオスが躊躇わず変えた。
「聖女皇陛下…今からアドウェナを追いますので、魔導具をお貸し頂けませんか?」
「あ…そうだった。卿に任せるなら私が持ってても意味が無いわ」
失念していたとばかりに言うと、ディーイーは両手の指に嵌めた指輪を1つずつ外した。
「そちらが魔力波動探知器と生命活動観測器ですか。実に見事ですな…こんな小さな指輪へ機能を付加させるとは」
取って付けたように褒めるロギオスに、指輪を手渡して皮肉で返すディーイー。
「ははっ…よく言う。卿なんぞ人工精霊に施して、私に引っ付かせてるだろうに」
「フフッ…私などの技術など陛下の足元にも及びません」
と飄々と返した後、ロギオスは恭しく礼をすると踵を返した。
「では行って参ります」
そうしてヤオシュの目の前まで来ると、2人を覆うように床が輝き出した。
その強大な魔力の波動に、目眩すら覚えるヤオシュ。
同時に自身の希望が儚く消えるのを自覚した。
『…!! まさか転送魔法?!』
「あぁん! 聖女皇陛下のお側に居られると思ったのに!」
直後、光が直ぐに収まり、ロギオスとヤオシュの姿が忽然と消え失せていた。
「……何と言うか…娘が申し訳ありません」
と何故か謝罪するイェシン。
「え…? あぁ〜〜別に気にして無いから」
などと返しつつも、ディーイーは疑問でならない。
『何で皆は私と行動を共にしたがるのか…』
それなりに慕われていると自覚してはいるが、それはそれ、これはこれである。
『もぅ! ディーイー様は鈍感過ぎだわ!』
容姿だけで無く、その為人に因っても他者を魅了して止まない。
それに気付かない主君に、ティミドはヤキモキするばかりだ。
このままでは現地妻ばかりが増殖してしまう。
そして元から高かった競争率が更に高くなって、何も出来ずに泣き寝入りする羽目になり兼ねない。
『今度会ったら釘を刺しておかないと!』
などと思いながら、ティミドは主君へ問い掛けた。
「え〜と…リキさんの故郷…東陽省でしたか、どうやって向かいますか?」
「それならメディ.ロギオスに用意させた物が有るから、それを使って楽して向かえるよ。正確な位置は東陽省に着いてから、リキさんに案内して貰おう」
「用意させた物…ですか?」
"それ"が何か全く想像がつかないティミド。
「フフッ…実物を見れば分かるよ」
「左様ですか…」
少し腑に落ちないティミド。
しかし楽が出来るなら、主君への負担が減るのと同義だ。
ここで異議を唱える理由は思い当たらなかった。
「それでは私もガリーさんと龍国へ潜入に向かいます。他に御用が有りましたら、宝珠で連絡をお願い致しますね」
そうディーイーに告げたグラキエースは、ガリーの傍へ歩み寄る。
ビクッと身を震わすガリー。
ヤオシュのように転送させられると思ったのだ。
「フフフッ…そんなに怯えないで下さい。短距離でも転送が可能なのは、メディ.ロギオスか陛下くらいですから」
ガリーは安堵した。
「そ、そうですか。その…でしたら徒歩で向かうのですか?」
首を横に振るグラキエース。
「いいえ。船です」
「ふ、船?!」
突拍子も無い答えに、ついついガリー声を張り上げた。
そもそも船とは海や河川で利用するのであって、その真逆の内陸部へ向かうのに使える訳が無いのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




