1554話・超絶者の振り分け
ディーイーは食卓の前で縮こまり悶絶していた。
その理由はイェシンがディーイーを"名君"なとど称したからだ。
「せ、聖女皇陛下…?」
急なディーイーの変化に、イェシンは戸惑ってしまう。
するとティミドが颯爽と間に入って告げた。
「ディーイー様は…その…上部だけの賞賛などは好まれません。え〜と…ですから無闇に為さらないで頂きたい…です」
だが如何にフォローすべきか定まっていないので、しどろもどろだ。
そうなると何とか空気を読んで謝罪するしか無いイェシン。
「え…あ…はい…申し訳有ません」
ただ事実を述べて称しただけなのに、何とも御無体な話である。
「と、兎に角、イェシン都督の言いたい事は大体分かった。つまり永劫の帝国の庇護下に入りたいのだね? 扱いは属領となるけど…そんなので良いの?」
ディーイーの問いに、イェシンは頷いた。
「はい、火炎島と同じ扱いで構いません。ところで…我らを受け入れる提案をされたのは、どうしてなのですか?」
どう考えても厄介事であり、露見すれば侵略行為とみなされるのだから。
少し思考してから答えるディーイー。
「………う〜ん…アドウェナを追うにしても、やっぱり北方の地に拠点が欲しいしね。それに少し卿らと関わり過ぎた…今更見て見ぬふりをするのは忍びないよ」
「え…?! この南門省や私が気の毒だと思われたのですか?」
「まぁそうなるかな。私的に北方の国家機構は、余りにも歪過ぎると感じるわ。そこに皆が違和感を思って脱却したいなら、手を貸してあげても良いと考えたの」
イェシンは目が点になった。
『まさか…ここまでお人好しとは……』
言い方は悪いが、この言葉が正にしっくり来る。
そんな彼へ、グラキエースがソッと囁いた。
「陛下は1人や2人を救うのも、大勢を救うのも大差無いのです」
「……」
呆気に取られるが、妙にイェシンは納得もいった。
『王に成るべくして…いや、その王等の上に立つ器…』
凡そをの話がついたのを見計らい、ティミドはディーイーへ尋ねた。
「これから如何します? 御二方を召喚したと言う事は、二手に分かれるのですか?」
「ん? あぁ〜〜いや、この際、全て片付けてしまおうと思う」
「え?! 全てですか?」
つい聞き返してしまうティミド。
「うん。ハクメイとアドウェナの件、ガリーの件、それにリキさんの事も済ませてしまおう」
「えぇ?! 三手に分かれるのですか?!」
驚くティミドに続き、グラキエースも少し目を見開いた。
一方、メディ.ロギオスはニヤニヤと笑みを浮かべるばかりだ。
話の要領を得ないイェシンは、戸惑いながらも協力を申し出た。
「私に何か手伝える事は有りますか?」
「ん〜〜万が一にアドウェナが戻るかも知れないから、その警戒をしておいて。一応は銀冠の女王も付けておくから大丈夫だとは思うけど」
要するに何もする事が無く、しゅん…となるイェシン。
「左様ですか…」
そうすると大人しくしていたヤオシュが、急に声を上げた。
「聖女皇陛下!」
驚いたディーイーは体が跳ねる。
「な、何っ?!」
「私も同行させて貰えませんか?」
「んん? それってハクメイの奪還と母君の事?」
「はい! 母の事は私の業でも有ります。ですが、それ以上に聖女皇陛下のお役に立ちたいのです」
このヤオシュの言葉からは誠実さが窺え、更にその面持ちから必死さが感じ取れた。
だからか、ディーイーは拒む事が出来なかった。
否…拒む必要性を感じなかったのだ。
『まぁ北方の人間が多いに越した事は無いしな』
「好きにすると良い」
「有難う御座います!」
当然、ティミドが顔をムッとさせる。
「……」
既にガリーやハクメイと言う現地妻が居て、そこに加えて都督の娘が参戦した。
主君を敬愛する者として、これは全くもって由々しき事態と言える。
グラキエースがメディ.ロギオスを見やって言った。
「三手に分かれるのでしたら…無論、私とメディ.ロギオスは別になりますね」
本心で言うなら、この男と行動を共にするのが嫌なので先手を打った形だ。
「そうね。どちらかがガリーの上司?…え〜と、聖女を救出しに向かって欲しい」
そこまで言ったディーイーは、失念していたとばかりに声を漏らした。
「あ……」
「え?」
「何ですか?」
「…?」
グラキエースとティミド、そしてロギオスが首を傾げる。
「本人への確認を忘れてた! ガリー、強引に聖女を救出しても構わない?」
ある意味で済し崩し?で話が進み、状況へガリーは身を委ねていた。
なので此処で確認されるとは思っても居らず、変な声が出てしまう。
「ふぁ?! あ……その…」
「余計な事だった?」
不安そうに尋ねるディーイー。
「そ、そんな訳無いよ! 助け出せるなら、この際手段なん関係ないから!」
とガリーは慌てて答える。
先程までの鷹揚とした姿から一変…急に上目遣いで尋ねられ、そもそも否定的な事を言える筈も無かった。
しかも絶世の美女なのだから尚更だ。
「そう…なら良かった」
ホッと胸を撫で下ろすディーイー。
落ち着いた所でロギオスが間髪入れずに告げた。
「ハクメイ姫の奪還、それと都督殿の奥方ですか…その両方を私に任せて頂けませんか?」
「…!」
狂人の申し出に、ギョッとするシン。
それに続きティミドとイェシンが驚いた表情を見せる。
「「……え?!」」
またグラキエースは怪訝そうに眉をひそめた。
「……」
何か企んでいる…そう勘ぐったのである。
『主君を害する事は無いだろうが……何を企んでいる?』
「………ふむ、こうして卿が自ら申し出るのは初めてだったか。それ相応の理由と自信が有るのだろう?」
ディーイーの問いに、ロギオスは恭しく首を垂れて答えた。
「はい。お任せ頂ければ、上々の結果を御覧入れましょう」
「……分かった、卿に任せる。では聖女の救出はグラキエースに頼もうか」
これにグラキエースも丁寧に首を垂れた。
「承知致しました」
こうして消去法でディーイーがリキの担当となる。
が、しかし…黙々と食事を取るリキは思うのだ。
『俺の意思は確認してくれないんだな…まぁ良いけど……』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




