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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1553話・イェシンの選択と決断

完全に腰を抜かしてしまったイェシン。

その理由は、ディーイーから火炎島が永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの属国になったと告げられたからだ。


そして同時にイェシンは納得もする。

『そうか! それでハクメイ姫が同行していたのか!』


火炎島の領督が自分の娘を傭兵に預けるなど、普通なら絶対に有り得ない。

だが、その傭兵が聖女皇なら?

恐らくハクメイ姫は侍女として差し出されたのだろう。



「だ、大丈夫?」

少し慌てるディーイー。

話題を変えるつもりが、どうしてか都督の腰を抜かさせてしまったからだ。



ティミドは頭を抱えて言った。

「ディーイー様…突然そんな事を言われれば、誰でも驚くと思いますよ。まぁ結果から話す方が端的で早いですが…」



「あ…そっか。今に至った経緯を話しておくべきだよね。じゃあティミド、説明を宜しく!」



ディーイーから説明責任を完全に丸投げされ、苦笑いを浮かべながら承諾するティミド。

「承りました」



しくも修羅場はウヤムヤにされ、順序立てたティミドの説明が始められた。

そうして5分後、凡そを理解したイェシンは呆然としてしまう事に。

「そんな事が…火炎島で……」



「これは最重要秘匿事項です。火炎島の神獣ロンヤンが喪われたなど、口が裂けても言っては為りませんよ」



ティミドに念を押され、イェシンは小刻みに首を縦に振った。

「も、勿論です!」

当然に娘のヤオシュも頷く。

「はい、分かりました」


しかし永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアが此処まで干渉しているなら、露見した場合に本国が侵略行為と見なす筈だ。

そこで問題になるのが、これが故意か否かになる。


故にイェシンは怖々(おずおず)と尋ねた。

「その…火炎島のロン領督は、永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアに助けを求めたのですか?」



「はい。属国…この場合は属領となりますが、これをロン領督が自ら願い出ました。神獣の加護が無くなったとなれば当然の選択でしょう」



ティミドの返答に、イェシンは胸を撫で下ろした。

「そうですか…」

既に先人が居るなら、永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアへ庇護を求めるのは、気持ち的に憚りが薄れると言うものだ。


また本国へ領土の復帰を成した所で、政権争いに巻き込まれるのが関の山。

なら龍国から完全に離脱し、永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの属領になるのも悪く無いと思えた。


『どの道、聖女皇陛下の助けを借りるのだしな…』

何より罠に嵌めた事への贖罪が済んでいない。

その償いを兼ねて、ここは自身と南門省を捧げるしか無いだろう。

「聖女皇陛下…この南門省を永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアの一部にお加え下さい。無論、私も忠誠を誓いましょう」



意を決したイェシンの言葉に、ディーイーは敢えて問い返した。

「本当に良いのだな? 気付かれぬ内は良いが、一度露見してしまえば逆賊とそしりを受けるかも知れんよ」



「それは覚悟の上です。それにねてより疑問を抱いていたのです…本国への復帰に意味があるのか?と、」



イェシンの思考に、ディーイーは少しばかり興味が惹かれた。

「ほほう…詳しく聞かせてくれるかい?」


神獣の加護を得られない辺境…その南門省をここまで発展させたのが彼なのだ。

そんな傑物が如何に考え判断したのか、その心情も含めて気になったのである。



「私は北方の…それも龍国だけの視野で物事を見ていたのです。この世界は東方も南方も西方も存在します、なのに龍国だけに拘るのは可笑しな話とは思いませんか?」



「ふむ……拘りで視野が狭くなる…そう言いたいのね? でもそこに価値が在れば、拘るのは悪い事でも無いと思うけど」

イェシンの言い分は理解できた。

だがディーイーに言わせれば正論であり、正論とは常に正しい訳では無いのだ。

何故なら人間は感情を持つ生き物で、その感情に因って価値が変動するからである。



「聖女皇陛下の仰る事は尤もです。ですが龍国に私が求める物は無くなっていた…いえ、そもそも元から無かったのです」



「ふむ…」

『そうか…私の考えこそが正論だったのやもな』

ディーイーは自分の考えに、矛盾が有る事に気付く。


価値が有ると思った事が反転し、全く違う物へ価値を見出す。

これが感情だろうが計算に因るものだろうが、変化したのなら"それこそが答え"なのだ。


「ではイェシン都督が抱いた"以前の希望"、また私の傘下に降る事で見出す展望は何か…聞かせて欲しい」



真剣な面持ちで告げるディーイーに、イェシンは立ち上がり居住いを正した。

その姿に確かな威厳を感じ取ったのである。

「はい。」


こうしてイェシンは、自身が抱いていた龍国の幻想を軸に話を始めた。

「北方で蔑視される純血では無い一族…それが南門省の民なのです。今では随分と薄れた価値観ですが、本国では未だに根強く残っているのです」


その所為で辺境の外様として、この地に根を張るしか自分達に術が無かった。

そして最も力を有する事になったのが、イェシンの家門…チャンシー一族だ。


そんなチャンシー家が辺境の領主となり南門省を発展させたのは、ひとえに迷宮を閉じる力を得る為だった。

それが達成されれば神獣の加護が回復し、この地が再び本国に戻される事になる。

つまり本国の民権を取り戻す事が、南門省に住まう民の願いであり、チャンシー家の悲願と言えた。


されど辺境なのは変わらず、迷宮出現の脅威に晒される事は避けられない。

仮に迷宮の脅威が無くても、純血では無い南門省の民は蔑視され続けるだろう。


「その上、本国では利権を懸けて内乱寸前…南門省が本国に復帰しても、その争いに利用されるだけでしょう」

そう告げたイェシンは、落胆した様子で肩を落とした。



「成程…では永劫の帝国アイオーン・アフトクラトリアへ何を期待しているのだね?」



率直なディーイーの問いに、イェシンは真っ直ぐに見返して答えた。

「飽く迄も私が受けた印象ですが、聖女皇陛下は救いを求める者を無下にはしないでしょう? 何より貴女は龍国のように、搾取し続ける事をしないように思うのです。ですから"今より"良い状況になると勝手に期待しています」



「フフフッ…随分と高く買ってくれているのだな」



イェシンは首を横に振った。

「いえ、貴女様が名君なのは現状が物語っていますよ」



「め、名君?!」

ギョッとするディーイー。



「大陸の反対側…遥か西方の地で、月の民が国家を樹立したのは正に青天の霹靂でした。更に武國までもが聖女皇陛下の庇護下にあります。これらが武力での併合で無いのは周知の事実…名君でなければ不可能でしょう」



『うぅ…勘弁して!』

これを聞いたディーイーは、恥ずかしくて縮こまってしまうのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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