1551話・超絶者の召喚
応援を呼ぶと言い出したディーイーに、イェシン都督は怪訝そうな表情を浮かべた。
何故なら、その言い様が回りくどく要領を得なかったからだ。
また娘のヤオシュはと言うと、理解する事を半ば諦める始末である。
しかしディーイーの次の言葉で一転する。
「特定の分野に於いては、私以上の実力が有るわね」
「なっ?!」
「え…?!」
イェシンとヤオシュは絶句した。
既にディーイーが1人でも一騎当千…否、一騎当万と言える。
そんな人間と同等以上となると、もう超常の存在としか思えない。
「もう既に呼んであるから、2人共そろそろ来る筈だよ」
然も大した事の無いように告げるディーイー。
これに同席していたガリーとリキが、
「あ……また"あれ"か…」
「うむ…またあれだな…」
などと呟いて2人は苦笑いを浮かべた。
「あれ…とは?」
「…??」
やはり全く訳が分からず尋ねるイェシンと、首を傾げるヤオシュ。
すると突如、空気が震撼した。
「!??!?」
突然の出来事に思わず立ち上がるイェシン。
「きゃっ?!」
ヤオシュは耳を押さえて可愛らしい声を上げた。
直ぐにティミドは立ち上がり食堂の窓を開けると、苦笑しながら呟く。
「フフッ…これは中々に絶景だわ」
「絶景?!」
何が起きたか確かめる為、イェシンは窓際へ駆け寄った。
そして又もや絶句する羽目となる。
「…!!」
都督府舎の最上階から見えた景色は、見慣れた物とは全く違う様相を呈していた。
何と少し離れた上空に、2つの巨大な渦が出現していたのである。
それは余りにも常軌を逸し、恰も世の終末を告げているかの様だった。
「心配いらない。到着すれば直ぐに収まるから、イェシン殿は落ち着いて待たれるといい」
とディーイーは素っ気無く言う。
一々この程度で驚く事自体が、ディーイーからすれば大袈裟な事なのだ。
『やれやれ…この後が思い遣られるな』
「え……あ、う、うむ……」
そうは言われても、何が起きるか気になって仕方が無いイェシン。
結果、窓際に齧り付いて離れない有様だ。
そうすると何かが都督府舎に近付いて来るのが見えた。
恐らく一定の速度であり、しかし鳥のようには全く思えない。
何故なら速度だけで無く、高さが変化せずに一定だったからだ。
そこから1分が経過した。
「……? 人?」
少しずつ輪郭が分かり、イェシンは目を凝らす。
1人は白衣を着た男?
もう1人は白いドレス?を着た女性に見えた。
人が空を飛ぶ事は、それほど驚く事では無い。
非常に高位の魔術師なら、浮遊魔法や飛行魔法を行使出来る為だ。
だが人が宙を歩み進める…そんな行為など見た事も聞いた事も無い。
更に2分程が経過し、謎の人物2人が窓の傍へ到達した。
その2人は宙に浮いた状態で、殆ど同時に恭しく首を垂れる。
「聖女皇陛下の召喚に応じ馳せ参じました」
「お待たせ致しました、麗しき聖女皇陛下…」
半ば呆気に取られるイェシン。
「せ、聖女皇…陛下…?!」
「…!!」
ヤオシュは立ち上がりディーイーを見やる。
『只者では無いと分かっていたけど、まさか永劫の帝国の女王だったなんて…』
しかし全てに合点がいった気がした。
南方で最強の軍事国家と称され、その傘下には剣聖が属している。
その国家の君主ならば、あの巨大な迷宮を半壊させるのも頷けると言うものだ。
一方、ディーイーはと言うと、忠臣2人へ見向きもせず食事に没頭中である。
イェシンが居合わせた面々を見渡して怖々と尋ねた。
「このお二人は…?」
白衣の優男は、まるで階段でも在るかのように宙を歩み、食堂の床へ降り立って言った。
「これは申し遅れてしまいましたね…私はメディ.ロギオスと申します」
続いて純白のドレスを身に纏った、見目麗しい褐色の美女が告げる。
「私はグラキエースと言います」
二人とも控えめな自己紹介で、”何者か”までは特に言及しない。
その理由は、主君から言って良いとの許可を得ていないからだった。
しかしながらディーイーを聖女皇陛下と呼んでしまっており、それは詰まり自分達が永劫の騎士言っているに等しい。
正に今更感が否めない。
そんな2人へディーイーは皮肉るように言った。
「わざわざ私を聖女皇などと呼んで、自分達は名だけを告げるとは…お前達2人とも遊んでるのか?」
「いえいえ、滅相も有りません。我ら永劫の騎士は聖女皇陛下の御威光が有ってこそ、存在意義を持つのですから」
などと漸くぶっちゃけるロギオス。
こうして回りくどい事をするのは、ディーイーもとい主君が下座に居るのを不満に思った所為だ。
彼からすれば如何な場所や状況であろうと、主君は絶対の存在…故に穏便に権威を示そうとしたのだった。
グラキエースはと言うとイェシンなど放置で、ディーイーの傍まで来てソッと片膝をついた。
「プリームス様…少し御窶れなのでは? 無理を為されていませんか?」
「え? そ、そう? 窶れて見える?」
少し焦るディーイー。
『こいつ…中々に鋭いな』
仲間を救う為、時間逆行を使ったなどと言える訳も無かった。
きっとグラキエースは心配を通り越し、血相を変えて怒るに違いないのだ。
「はい……やはり私が随行すべきでしたね…」
そうグラキエースは呟くと、僅かにティミドを一瞥した。
これは暗に言っているのだ…「その身を呈して何故主君を守らないのか!」と。
当然、敏感に察したティミドは縮み上がる。
「も、申し訳ありません!」
凍り付いた空気に、居合わせたイェシンとヤオシュも釣られて縮み上がった。
そしてそれはガリーとリキも同じ……特にリキなど”その原因”になったのだから表情が蒼白状態だ。
因みにシンは、胸中は別として何食わぬ顔だ。
「ぶっ!!??」
突如、グラキエースが鈍い声を漏らして頭を押さえた。
ディーィーの拳が彼女の脳天に直撃したのである。
「阿呆!! 私を大事に思うのは嬉しいが、状況も知らずに”仲間”を威嚇するな!!」
「も、申し訳ありません…」
先程までの威勢は何処へやら、グラキエースはシュン…と縮こまってしまう。
この思いがけない展開で、場の空気が一気に和む?のであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




