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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1545話・ティミドと油按摩

「あの…宜しければ油按摩を為さっては如何ですか?」

とヤオシュに囁かれ、ティミドは首を傾げた。

「油按摩…?」



「はい、香油を使って按摩をするのです。ディーイー様の良い気分転換になるかと。勿論、ティミドさんにも効果が有ると思いますよ」

などとソッと補足するヤオシュ。



「香油で按摩ですか…成程」

『確かに体が解れれば、気持ちも和らぐわよね』

ティミドは妙に納得する。

しかし自分にも効果が有るとは如何に?



「では用意致しますね」

ティミドの返事を聞かず、ヤオシュは脱衣場へ向かってしまう。



「え…? あ……」

『まぁ良いか。このまま手をこまねくよりは絶対にマシよね』


後はディーイーの了承である。

「ディーイー様、疲れが溜まっているでしょうし、油按摩をさせて頂けませんか?」



「うん……」

相変わらず気落ちした様子で、且つ上の空な返事のディーイー。



『だ、大丈夫かな…』

何はともあれ了承は了承である。

後はヤオシュの準備待ちだ。


   ※

   ※

   ※


湯船で十分に温まった後、ディーイーとティミドはヤオシュに連れられ、浴場の隣の部屋に来ていた。


そこは浴場と同じ程度で割と広い。

そもそも都督家専用らしく、隣の浴場自体が相当に広いのだ。



「ここは…?」

ちょっと物怖じするティミド。

真っ裸な上、ここまで広いと仕方が無いとも言える。


また部屋の真ん中辺りに、見慣れないベッドが2つ見て取れた。

『んん? 診察台ぽい見た目ね』



「この台は按摩用の施術台です。さぁディーイー様、ここへ横たわって下さい」



「うん…」

ヤオシュに促されるまま、ディーイーは施術台へ俯せで横になった。

勿論、真っ裸である。



そうしてヤオシュは部屋の隅に有った手押し台を、颯爽と押してティミドの傍に来て言った。

「ここに用意した香油をお使い下さい。どれも私が選んだ絶品ですので、きっとお気に召すかと」



『凄い自信ね…』

ある意味でティミドは感心する。

ここまで自信を持てるのは、その道の玄人である証拠だろう。


かく言う自分は然して誇れる物が無く、本音では嫉妬を禁じ得ない。

何でも卒なくこなすが、他の永劫の騎士(アイオーン・エクェス)と比べれば特出した点が無い。

謂わゆる器用貧乏なのだ。


『せめて主君を気持ちよく和ませる事が出来れば…』

傍付きとして面目を保てるかも知れない。


だが油按摩など初めてなので、自信が無いのも確かだ。

『上手く出来るかな…』



それを敏感に察したヤオシュ。

「大丈夫ですよ。私の指示通り行えば問題有りません」

実の所は此処で色々と貢献して、ディーイーや仲間からの評価を得たいのが本音である。



そんな事などティミドは露知らず、完全にヤオシュを信用し頼ってしまう。

「分かりました。ではご教授願います!」



片やディーイーはと言うと、室内の温度も丁度良い所為かウトウトしていた。

『うぅ……眠い……お腹も減ったし……』



手押し台に乗った幾つかの香油瓶から、ヤオシュは1つ選んでティミドに手渡して言った。

「先ずは、この香油にしましょうか」



「は、はい」

ティミドは手にした瓶を見つめ少し不思議に思う。

瓶自体は透明で、中の香油に僅かに色が付いていたのだ。

『淡い桃色か…どんな匂いがするのかな?』


油と言えば食用油だが、それらは大抵が少し琥珀色を含んだ見た目だったりする。

そう考えると香油は、全く別の物として認識すべきなのかも知れない。



「これはですね、私が調合した香油なんですよ。成分の一部に薔薇を使用していまして、それで色が桃色なのです」



「へぇ〜〜薔薇ですか」

『香水なら分かるけど、香油でも使うのか…』

知らない事が多くて興味が湧いてしまうが、慌てて本来の目的に意識を戻すティミド。

『危ない危ない。今はディーイー様が優先!』



そんなティミドなどお構いなしに、ヤオシュは話を進める。

「では実際に掌へ出してみましょうか。それで温めるように両手へ揉み込んで下さい」



「自分の手にですか?」



「瓶から出したばかりでは冷たいので、香油を人肌の温度まで温めます。いきなり肌に香油を垂らしては、ディーイー様がビックリしてしまいますよ」



「あ…! 確かにそうですね。分かりました」

言われた通りに従い、ティミドは香油を掌に垂らして温めるように両手で揉み込んだ。

『おおっ! ふんわりと薔薇の香りがする!』



「次は、"いつもの様に"按摩すれば良いですよ」

などと言ってヤオシュはニッコリと微笑む。



妙な言い回しをされ、怪訝そうに尋ねるティミド。

「……いつもの様に…ですか。どうして分かるのです?」



態とらしくヤオシュは首を傾げる。

「おや? 違いましたか? てっきりティミドさんとディーイー様は、"そう言う仲"かと思ったのですが」



「う……」

『この人…鋭いな』



「どうしました?」



「いえ…何でも無いです」

遊ばれている気がしてならないが、そこは我慢をしてティミドは目の前の使命を完遂する事にした。

『いつもの様に…と、』


テッカテカになった両手で、先ずは脹脛ふくらはぎに触れた。

幾ら華奢なディーイーとは言え、体を支える脚も華奢なのだ。

きっと一番疲れているに違い無い。



こうして左右の脹脛を均等に揉み解すと、寝掛かっていたディーイーから声が漏れた。

「あぁん…」



これに何故か内股になってしまうティミドとヤオシュ。

「うぅ…」

『これは刺激が強すぎる』


「あぅ!」

『こんなの…生殺しだわ…』



「……ヤオシュさん、どうして内股で前屈みなんですか?」

欲情したと看破したティミドは透かさず突っ込む。



対してヤオシュは素知ら顔で言い返す。

「少々立っているのが疲れただけです。そう言うティミドさんは乳首が立ってますよ」



「なっ!? こ、これは少し肌寒いから鳥肌が立っただけです!!」

などと苦し紛れな反論をするティミド。

まるで子供の言い合いである。



「うぅん……うるさいなぁ…」



微睡まどろみながら主君に文句を言われ、ティミドは慌てて居住いを正した。

「も、申し訳ありません…」


それはヤオシュも同じで、

「すみません…何だか売り文句に買い文句になってしまいましたね」

と小声でティミドに謝罪する。



「こちらこそ変な事を言って申し訳無いです。気を悪くしないで下さいね」



「フフッ、私は大丈夫ですよ。兎に角、今はディーイー様の施術が優先ですから続けましょう」



こうしてヤオシュに手取り足取り教授され、ティミドはディーイーを揉み解す事となる。

お陰で全身ヌルヌルのテカテカになり、再び湯浴みする羽目になってしまうのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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