1545話・ティミドと油按摩
「あの…宜しければ油按摩を為さっては如何ですか?」
とヤオシュに囁かれ、ティミドは首を傾げた。
「油按摩…?」
「はい、香油を使って按摩をするのです。ディーイー様の良い気分転換になるかと。勿論、ティミドさんにも効果が有ると思いますよ」
などとソッと補足するヤオシュ。
「香油で按摩ですか…成程」
『確かに体が解れれば、気持ちも和らぐわよね』
ティミドは妙に納得する。
しかし自分にも効果が有るとは如何に?
「では用意致しますね」
ティミドの返事を聞かず、ヤオシュは脱衣場へ向かってしまう。
「え…? あ……」
『まぁ良いか。このまま手をこまねくよりは絶対にマシよね』
後はディーイーの了承である。
「ディーイー様、疲れが溜まっているでしょうし、油按摩をさせて頂けませんか?」
「うん……」
相変わらず気落ちした様子で、且つ上の空な返事のディーイー。
『だ、大丈夫かな…』
何はともあれ了承は了承である。
後はヤオシュの準備待ちだ。
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湯船で十分に温まった後、ディーイーとティミドはヤオシュに連れられ、浴場の隣の部屋に来ていた。
そこは浴場と同じ程度で割と広い。
そもそも都督家専用らしく、隣の浴場自体が相当に広いのだ。
「ここは…?」
ちょっと物怖じするティミド。
真っ裸な上、ここまで広いと仕方が無いとも言える。
また部屋の真ん中辺りに、見慣れないベッドが2つ見て取れた。
『んん? 診察台ぽい見た目ね』
「この台は按摩用の施術台です。さぁディーイー様、ここへ横たわって下さい」
「うん…」
ヤオシュに促されるまま、ディーイーは施術台へ俯せで横になった。
勿論、真っ裸である。
そうしてヤオシュは部屋の隅に有った手押し台を、颯爽と押してティミドの傍に来て言った。
「ここに用意した香油をお使い下さい。どれも私が選んだ絶品ですので、きっとお気に召すかと」
『凄い自信ね…』
ある意味でティミドは感心する。
ここまで自信を持てるのは、その道の玄人である証拠だろう。
かく言う自分は然して誇れる物が無く、本音では嫉妬を禁じ得ない。
何でも卒なくこなすが、他の永劫の騎士と比べれば特出した点が無い。
謂わゆる器用貧乏なのだ。
『せめて主君を気持ちよく和ませる事が出来れば…』
傍付きとして面目を保てるかも知れない。
だが油按摩など初めてなので、自信が無いのも確かだ。
『上手く出来るかな…』
それを敏感に察したヤオシュ。
「大丈夫ですよ。私の指示通り行えば問題有りません」
実の所は此処で色々と貢献して、ディーイーや仲間からの評価を得たいのが本音である。
そんな事などティミドは露知らず、完全にヤオシュを信用し頼ってしまう。
「分かりました。ではご教授願います!」
片やディーイーはと言うと、室内の温度も丁度良い所為かウトウトしていた。
『うぅ……眠い……お腹も減ったし……』
手押し台に乗った幾つかの香油瓶から、ヤオシュは1つ選んでティミドに手渡して言った。
「先ずは、この香油にしましょうか」
「は、はい」
ティミドは手にした瓶を見つめ少し不思議に思う。
瓶自体は透明で、中の香油に僅かに色が付いていたのだ。
『淡い桃色か…どんな匂いがするのかな?』
油と言えば食用油だが、それらは大抵が少し琥珀色を含んだ見た目だったりする。
そう考えると香油は、全く別の物として認識すべきなのかも知れない。
「これはですね、私が調合した香油なんですよ。成分の一部に薔薇を使用していまして、それで色が桃色なのです」
「へぇ〜〜薔薇ですか」
『香水なら分かるけど、香油でも使うのか…』
知らない事が多くて興味が湧いてしまうが、慌てて本来の目的に意識を戻すティミド。
『危ない危ない。今はディーイー様が優先!』
そんなティミドなどお構いなしに、ヤオシュは話を進める。
「では実際に掌へ出してみましょうか。それで温めるように両手へ揉み込んで下さい」
「自分の手にですか?」
「瓶から出したばかりでは冷たいので、香油を人肌の温度まで温めます。いきなり肌に香油を垂らしては、ディーイー様がビックリしてしまいますよ」
「あ…! 確かにそうですね。分かりました」
言われた通りに従い、ティミドは香油を掌に垂らして温めるように両手で揉み込んだ。
『おおっ! ふんわりと薔薇の香りがする!』
「次は、"いつもの様に"按摩すれば良いですよ」
などと言ってヤオシュはニッコリと微笑む。
妙な言い回しをされ、怪訝そうに尋ねるティミド。
「……いつもの様に…ですか。どうして分かるのです?」
態とらしくヤオシュは首を傾げる。
「おや? 違いましたか? てっきりティミドさんとディーイー様は、"そう言う仲"かと思ったのですが」
「う……」
『この人…鋭いな』
「どうしました?」
「いえ…何でも無いです」
遊ばれている気がしてならないが、そこは我慢をしてティミドは目の前の使命を完遂する事にした。
『いつもの様に…と、』
テッカテカになった両手で、先ずは脹脛に触れた。
幾ら華奢なディーイーとは言え、体を支える脚も華奢なのだ。
きっと一番疲れているに違い無い。
こうして左右の脹脛を均等に揉み解すと、寝掛かっていたディーイーから声が漏れた。
「あぁん…」
これに何故か内股になってしまうティミドとヤオシュ。
「うぅ…」
『これは刺激が強すぎる』
「あぅ!」
『こんなの…生殺しだわ…』
「……ヤオシュさん、どうして内股で前屈みなんですか?」
欲情したと看破したティミドは透かさず突っ込む。
対してヤオシュは素知ら顔で言い返す。
「少々立っているのが疲れただけです。そう言うティミドさんは乳首が立ってますよ」
「なっ!? こ、これは少し肌寒いから鳥肌が立っただけです!!」
などと苦し紛れな反論をするティミド。
まるで子供の言い合いである。
「うぅん……うるさいなぁ…」
微睡みながら主君に文句を言われ、ティミドは慌てて居住いを正した。
「も、申し訳ありません…」
それはヤオシュも同じで、
「すみません…何だか売り文句に買い文句になってしまいましたね」
と小声でティミドに謝罪する。
「こちらこそ変な事を言って申し訳無いです。気を悪くしないで下さいね」
「フフッ、私は大丈夫ですよ。兎に角、今はディーイー様の施術が優先ですから続けましょう」
こうしてヤオシュに手取り足取り教授され、ティミドはディーイーを揉み解す事となる。
お陰で全身ヌルヌルのテカテカになり、再び湯浴みする羽目になってしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




