1544話・撤収と囚われの副団長
刹那の章IV・月の姫(26)と(最終話)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
皆が揃って来た道を戻ろうとした時、
「その…ディーイーさんを抱えてる人は誰なんだ?」
とリキが不思議そうに尋ねた。
尋ねた相手は、ここに居る全員である。
その理由は突如現れた赤髪の麗人に、皆が全く疑問を持っていなかったからだった。
「確かに…気になりますね。どちら様ですか?」
などとリキに釣られたのか、今更になって言い出すティミド。
そしてガリーはと言うと驚いた様子を見せる。
「えぇぇ?! 然も当然のようにしてたから、お仲間と思っていたのに」
このお仲間とは永劫の騎士の事を暗に言っているのだ。
部外者のヤオシュが居るので、そこは気を利かせたのだった。
ティミドは首を横に振る。
「いえ…全然存じません」
『宰相閣下には似てるけど…まさか姉妹じゃないわよね』
あんなのが二人も居ると思うと、良い意味でも悪い意味でも正直ゾッとしてしまう。
するとディーイーは苦笑しながら答えた。
「フフッ…すまんすまん、紹介がまだだったな。彼女はドロスースと言う。今のところ言葉は話せないが、ちゃんと理解は出来るので宜しく頼む」
「あ…はい。承知しました」
「ドロスースって言うんだ。俺はガリー…取り敢えず宜しく」
「私はシンです」
「宜しく頼む…って、まぁ良いか…」
そんな事を聞きたい訳では無い…と突っ込みたかったがリキは我慢した。
と言うより諦めたが正しいだろう。
また他に色々聞きたい事も有るが、今は戻って次の準備をすべきなのだ。
逃げたアドウェナを追い、ハクメイを奪還しなければ為らないのだから。
こうして雑な紹介の後、皆は地上の都督府舎へ向かうのであった。
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サーディクはベッドに腰掛け途方に暮れていた。
何故なら、今頃は都督府に戻り、主人へ報告を済ませていた筈だからだ。
だが実際は囚われの身となってしまい、この小さな部屋から出る事さえ儘ならない。
『これも全て眠りの森の力を見誤ったから…』
いや…違う。
傭兵団としては最高水準の実力がある…しかし、その程度なのだ。
問題は団長のディーイーである。
見た目とは裏腹に、その武力は一騎当千。
下手をすれば1人で軍勢を相手取れる、俄には信じ難い程の強さを持つ。
加えて禁呪級を遥かに凌ぐ破壊魔法まで使う。
それに因って迷宮の中層が完全に消失するなど、誰が予測出来ただろうか。
『あれは人の域を超えている…』
迷宮の主人であるアドウェナでさえ、ディーイーを前に逃げざるを得なかったのだ。
扉がノックされた。
監禁されている自分に、これを拒否し、また許可する権限は無い。
故にサーディクは座ったまま沈黙を貫いた。
すると扉が開きアドウェナが姿を見せる。
「随分と静かね。騒ぎ立てるかと思ったけど…」
「騒いで解放されるなら幾らでもします」
「そう…。ところで私が見せた記憶は如何かしら? こちらとしては想定外だったし、貴女達が私を倒す為に送り込んだとしか思えないわ」
アドウェナの言い様に、ついサーディクは立ち上がって反論した。
「そんな訳が無いでしょう! 我々が貴女を絶対に害せないと知っている癖に」
「フッ…そうだったわね。なら貴女達にしても想定外だったと?」
「大トカゲの時に気付くべきでした。いや…気付いて居ながらも、どうする事も出来なかった…」
心底後悔するサーディクに、アドウェナは追い討ちのように告げる。
「結果は結果よ、この事態に至った責任は取って貰うわ」
「責任…?」
困惑するサーディク。
今更どうしろと?…囚われの身の自分に、もはや成す術など無いのだから。
「私は大切な拠点を失い、瘴気炉も解体しなければ為らなくなった。何十年もかけて準備して来たと言うのに…。その損失を貴女に埋めて貰うよ」
「私が…損失を埋める?! きゃっ!?」
ベッドにサーディクを突き飛ばし、アドウェナは邪悪な笑みを浮かべた。
「貴女はハクメイ程の適性は無い。だから本来なら魔獣の餌にする所だけど、他に面白い適性を見付けたわ。だから貴女は、その実験台になるの」
「実験台!?」
サーディクは直ぐに察した…もう自分は終わりだと。
そして同時に脳裏へ過ったのは、主人であるヤオシュへの心苦しさだった。
『申し訳有りません…ヤオシュ様……』
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都督府舎に戻ったディーイーは、いの一番でヤオシュに浴場へ案内させた。
迷宮での野営で湯浴みを1度しただけな上、幾度と大立ち回りをしたのだ。
その為、埃と汗まみれで気持ち悪かったのである。
「ふぃ〜〜生き返った」
ティミドに体を洗って貰ったディーイーは、湯船に浸かりながら染み染みと呟く。
「フフフッ…漸くご機嫌が良くなりましたね」
同じく傍で湯に浸かるティミドは、嬉しさ半分、揶揄い半分で言った。
「えっ? 私…そんなに感じが悪かった?!」
「あ…いえ。なんと言うか、元気が全く無かったので心配していたのです。でも杞憂だったようですね」
『元気が無いか…』
ディーイーとしては出来る限り、身内に心配を掛けたく無かった。
なので平気なフリをしていたが、どうやらハクメイが奪われた衝撃を堪え切れなかったようだ。
「まだまだだな、私も…」
再び塞ぎ込み気味になった主君に、ティミドは慌てた。
『あわわわ! 藪蛇だった!』
「どうか元気をお出し下さい! ディーイー様の為に私は何でも致しますから!」
この遣り取りを見ていたヤオシュの胸中は、不可思議さと怪訝さで一杯になる。
『この2人…やはり只の団長と団員の仲では無いわね』
どちらかと言えば主従関係…それもディーイーが相当に地位が高いと思われた。
因みにヤオシュは湯浴みの世話をする役割に在る。
そう言う訳で湯には浸かれず、侍女の立ち回りをしていた。
これは謂わゆる落とし前で、優しすぎるケジメと言ったところだ。
「うん……ありがとう」
すっかり気落ちした様子で返すディーイー。
しかも心ここに在らずな感じである。
『うぅぅ…どうしたら良いの!?』
ティミドは焦りばかりが募る。
しかも仲間のガリーとシンは、気を利かせて別の浴場を使っており、誰も当てには出来ない状況だった。
するとヤオシュは見兼ねたのか、怖々とティミドへ囁いたのであった。
「あの…宜しければ油按摩を為さっては如何ですか? ディーイー様には非常に好評でしたので…」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




