1543話・意表の邂逅と失意
刹那の章IV・月の姫(26)と(最終話)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
魔力と暗証番号が必要な隠し階段が、何故か独りでに開いてしまう。
これへ当然に管理していたヤオシュが驚愕する。
「えぇぇ?!」
そしてティミドはと言うと、黄金騎士達で隠し階段を包囲させる。
迷宮から上がって来たアドウェナと鉢合わせした…そう考えた為だ。
しかし事態は急変?する…否、元々何も起こっていないと言うべきかも知れない。
実際、隠し階段から姿を現したのは、赤髪の麗人に抱えられたディーイーだったのである。
「え…?! ディーイー様?!」
ティミドは呆気に取られる。
それと同時に隠し階段を包囲していた黄金騎士が、一斉に敬うように跪いた。
その対象は無論ディーイーだ。
一方ヤオシュは、余りに驚いたのか腰を抜かしていた。
「……」
シンが素早くディーイーへ駆け寄る。
「ディーイー様…姫様は?」
「……すまない、アドウェナに逃げられた」
それはハクメイ諸共に、この迷宮から消え去った事を暗に告げていた。
端的な返答に、その場へ力なく崩れ落ちるシン。
「そんな…姫様……」
彼女に掛けられる言葉が見当たらず、ガリーとリキは立ち尽くすしか出来ない。
「「……」」
ティミドは主君が無事で、内心では随分と胸を撫で下ろしていた。
比肩の無い武力と魔力を誇る超絶者ではあるが、その肉体は脆弱で実に心許ない。
可能ならば一人にしたくない程だ。
その主君が戻った事で浮かれると同時に、その様子の変化に戸惑いも抱く。
「ディーイー様…テュシアー様は?」
「今は私の中で眠っている」
「左様ですか」
「私が意識を失っている間、色々と皆んなを助けてくれたみたいだな」
「はい…ですが、ハクメイ姫が攫われて相当に怒り心頭のようでした。無茶を為さいませんでしたか?」
ティミドは"今のディーイー"が心配で仕方なかった。
テュシアーの意識が出ている間は平気そうに歩き回っていたが、今は抱きかかえられている。
つまり歩けない程に消耗している証拠なのだから。
また抱えている"宰相似”の女性も気になる。
『まさか…宰相閣下と姉妹とか?!』
などと、ついつい勘繰ってしまう。
「あ〜〜どうだろうな。多分だがテュシアー自身の暗黒魔力だけを行使したっぽい。只なぁ、私自身が元々ボロボロだったから、この有様だよ…フッ」
「……」
自嘲するディーイーに、ティミドは返す言葉が無い。
元はと言えば自分達が不甲斐ない所為で、こうしてディーイーに消耗を強いてしまったのだ。
そんなティミドへ、ディーイーは優しく告げた。
「そんな顔をするな。兎に角、皆は無事だったのだからな」
すると地面にヘタリ込んだシンが、恨めしそうに言う。
「皆…無事では有りません。姫様が攫われたままななのですよ。このまま救出できなければ、きっと…」
『んん? 何か私の知らない事態が進んでいるのか?』
「どう言う事だ?」
ディーイーの見立てでは、アドウェナはハクメイを傷付ける事はしない。
寧ろ大事に確保したい何かに思えた。
ここでヤオシュが透かさず言及する。
「ハクメイ姫を攫った目的は、アドウェナの新たな依代にする為です。直ぐにそうなるとは思えませんが、手を打つのは早い方が良いかと」
「依代…そんな目的で攫うとは……」
そこまで予想していなかっただけに、ディーイーは意表を突かれた気分だ。
『そうなるとアドウェナは、他者の体を乗っ取る能力が有る事になるのか』
実に気味の悪い輩だ。
それでも直ぐに乗っ取っていない様子から、差し迫っていないか、或いは"予備"にするつもりなのだろう。
「慌てる必要は無いが、アドウェナを急いで捕捉しなければならん。皆、一旦拠点に戻って追う準備をするよ」
ディーイーの号令に、再びヤオシュが間髪入れずに言った。
「それでしたら都督府をお使い下さい」
ヤオシュをジッと見つめるディーイー。
「……」
そうして無表情に続けた。
「どうして裏切り者が此処に居るの?」
「うぅ……」
そんな事を言われては、ヤオシュは何も言い返せない。
何故なら全くその通りだからである。
「うはっ!」
「ちょっ!?」
その辛辣なディーイーの言い様に、焦るリキとガリー。
共に居る事から"空気を読めば"察しが付く筈なのだ。
なのに敢えて皮肉るのは、ディーイーが相当に怒っている証拠と言えた。
当然ティミドも慌てる。
「ディーイー様! 違うのです! いえ、違わないか…あ、でも今は…」
「フフッ…ティミド、落ち着きなさい…ちゃんと分かっているから。都督府を制圧して味方につけたのでしょう?」
と苦笑まじりにティミドを宥めるディーイー。
ヤオシュにお灸を据えるつもりが、身内を慌てさせては本末転倒である。
「え…?! あ……左様ですか…」
ホッとしながらティミドは思う…これで何度目だろうか?
驚いたり慌てたり、その都度に結局は安堵する。
正直、心臓に悪い。
そんな二人を前に、その場でヤオシュが土下座をした。
その動きたるや、流水の如く滑らかで全くの滞りが無い。
「ディーイー様! 申し訳有りませんでした!」
これを端で見ていたリキとガリーはドン引きだ。
『うわぁ…また土下座か』
『相当に慣れた身のこなしね。きっと常套手段なんだわ』
されど黒金のヤオシュが、ここまで遜るのを聞いた事が無かった。
と言うか、いつも不敵で鷹揚な彼女が土下座どころか、謝罪に至る事案など聞いた事が無い。
故にガリーは考え直し、少しばかりヤオシュへ味方する。
「ディーイー…ヤオシュ団長と都督閣下にも事情があったんだよ。こうして今は謝罪して協調もしてるし、許してあげなよ」
『やれやれ…ガリーを絆すとは抜け目ない奴だな』
「はぁ……こんな所で土下座は止めてくれ。取り敢えず早く戻って湯浴みをしたいんだ。別に怒ってないから、これ以上は煩わせないでくれ」
「は、はい!」
一番の問題はディーイーの"沙汰"だっただけに、この言葉でヤオシュは肩の荷が下りた気がした。
こうしてティミドが来た道を戻ろうとした時、リキが不思議そうに尋ねる。
「ちょっと待てくれ。その…ディーイーさんを抱えてる人は誰なんだ?」
見たままの様子から味方なのは間違い無いが、何者なのか疑問を持たない皆に、リキは疑問を抱かざるを得ないのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




