1542話・封印された経路
刹那の章IV・月の姫(26)と(最終話)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
都督府が管理している迷宮の入り口…それは都督府舎の地下深くに在った。
否…"に在った"は正しく無い。
厳密には迷宮の入り口へ、敢えて府舎を建設した…が正しいだろう。
その理由は、迷宮側と都督が裏で繋がっていた事に起因する。
またそれは迷宮の主人の一方的な要請で、仕方なく都督が入口に蓋をしたのだった。
「今思えばアドウェナが利用するための経路だったのでしょう。そして我々にとっては魔獣の所為で、殆ど一方通行な状態なのです」
とヤオシュは説明を補足した。
「成程…都督府が直に管理している入り口が有るとは聞いていたが、そう言う事だったのか…」
などと合点がいった様子で呟くリキ。
この話は公に発表された物では無かった。
どちらかと言えば都市伝説的な噂で、以前は信憑性に欠けた話とされていた。
しかし昨今では、可笑しな事に当然の存在だと認知されている。
「一応の秘匿事項でしたが、人の口には戸を建てられないのでしょうね。恐らく調査で雇った傭兵から漏れたのかと」
とヤオシュは苦笑いを浮かべて言った。
これを不思議に思うティミド。
「それにしても良くバレずに調査出来ましたね」
「それは…多分ですがバレていた可能性が有ります。それでも放置したのは、アドウェナが我々を歯牙にも掛けていない証拠だと思います」
「ふむ…確かに”あの感じ”だと有り得ますね」
何となくティミドは納得がいく。
アドウェナの尊大さは、その強大な力に因る故だろう。
だが上には上が居る。
あらゆる存在を超越する主君との邂逅だ。
『まさか迷宮を半壊させられるとは、アドウェナは思いもしなかっただろうな…フフッ』
しかしながら、やはり違和感も拭い切れない。
一般の入り口からの迷宮攻略は、最下層の嘆きの壁で長年止まっている。
なのに最下層へ繋がる他の経路が有るのは、ハッキリ言って矛盾でしかない。
『都督とヤオシュ団長の話を信用するしか無いわね…』
兎に角は迷宮の最下層に向かわねば為らない。
そして急ぎ主君を見付けて止めないと、アドウェナが瞬殺されかねないのだから。
「迷宮の入口へ案内して下さい」
「え…? 準備は宜しいのですか?」
「問題有りませんよ…ね?」
と返したティミドは、後ろに居る仲間を見やった。
これにシンとガリーは即座に頷き、リキも仕方なさそうに頷く。
「はい」
「うん、俺達には準備なんて殆ど必要無いしね」
「おう……けど次はいつ戻れるやら…」
皆、ディーイーから貰った収納魔道具があるのだ。
一度しっかりと蓄えてしまえば、そう何度も準備をする必要は無いのだった。
勿論、これは”永劫の帝国”の機密なので、他言は出来ない。
不思議そうにするヤオシュだが、直ぐに察した様子で返す。
「成程……あのディーイー様のお仲間ですものね。分かりました、ではご案内します」
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ティミド達が案内されたのは、都督府の地下深くに在る監獄の様な場所だ。
当然に全てが頑丈な石造りの構造なのだが、通路は監獄と言うには少し広い。
また所々に大きな鉄の格子扉があるので、それが一層に監獄さを感じさせるのだろう。
「ここは…防塞って感じでも無いですね?」
先導するヤオシュに、ティミドは怪訝そうに尋ねた。
都督府の地下に監獄が在っても変では無い。
只、環境が余りにも悪過ぎるのだ。
「そう怪しまないで下さい。ここは迷宮で捕獲した魔獣を研究していた施設なのです。今では機能していませんが…」
と苦笑いを浮かべて返すヤオシュ。
「そうでしたか」
ティミドはホッとする。
ここに人が投獄されていたなら、明らかに悲人道的な扱いになる為だ。
仮にそうだったなら、法の守護者…永劫の騎士として見過ごせない所だった。
そんなティミドへ、ヤオシュは足を止めて言った。
「ティミドさんは正義感が強いのですね。とても只の傭兵とは思えません」
ティミドの心臓がドキッと跳ねる。
「え…?! そ、そうですか?」
「普通なら他人の扱いなど誰も気にはしません。それが犯罪者なら尚更です」
傍で聞いていたリキは、内心でヤオシュの言葉に同調してしまう。
『確かに…これだけ強くて倫理観も持ち合わせると、一般人は無理があるよな』
そしてシンは素知らぬ顔で、ガリーは明らかに焦りが顔に出る始末。
「……」
「あわわわ…」
「私の事を詮索してどうするのです? ひょっとして藪蛇と言う言葉を知らないのですか?」
慌てた様子から一転…ティミドの目が鋭くなり、その語調には"警告"の威圧が含まれていた。
『やはり簡単には答えてくれないわね…』
ヤオシュとしては、ディーイーが何者なのか知る必要があった。
何故なら全てを託せる存在だと確信しており、故に互いを知り密な関係を築きたかったからだ。
されど強引に知る事は、"隠しいる相手"に不都合なのは道理。
今は引き下がるしか無い。
「……出過ぎた真似でしたね、申し訳有りません…今のは忘れて下さい」
別段、謝罪をされる程の事では無い。
だが今後を考えたティミドは、警告を込めて謝罪は聞き流す事にした。
「……兎に角、今はディーイー団長と合流するのが最優先です。入り口は何処ですか?」
「入り口は…もう到着していますよ」
そう答えたヤオシュは、爪先でトントンと床を叩いた。
「んん? 何も無いように見えるが?」
と身を乗り出して来るリキ。
そんなリキを押し除けて、今度はシンが割って入る。
「成程、隠し階段か何かですね?」
「ご名答です。この隠し階段は、それなりの魔力が有って、尚且つ解除用の暗証番号を知らなければ開かれません」
そのヤオシュの説明が告げられた刹那、急に床が左右に動き出す。
当然、何もしていないヤオシュは驚愕した。
「え…?! えぇぇ!?」
「それなりの魔力と暗証番号…とか言いませんでしたか?」
少し揶揄気味に突っ込んでしまうティミドであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




