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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1541話・対アドウェナ共同戦線

刹那の章IV・月の姫(26)と(最終話)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

影に潜ませていた銀冠の女王(ノクス)を呼び出したティミド。

出現と同時に、その圧倒的な存在感が居合わせたイェシンを震え上がらせた。



『えぇぇ?! そこまで驚く事なの?!』

逆にティミドが驚かされる羽目に。



驚いて転倒したイェシンを、ヤオシュが起こしながら言った。

「ティミドさん…まさか"それ"を此処に残すつもりですか?」

その語調には恐怖の中に、申し訳なさが含まれていた。



「え? でも…これくらい強力でないと、迷宮の主人(アドウェナ)に対抗出来ませんよ?」

何を躊躇うのか不思議に思うティミド。


魔神を雑兵の如く扱う…それがアドウェナなのだ。

ならば上回る戦力は絶対に必要になる。

人間を震え上がらせる闇の精霊王だが、そこは我慢して貰うしか無い。



「そ、そうですか…」

諦めた様子で返したヤオシュは、イェシンへ続けた。

「お父様…恐怖と命の危機を天秤にかけるなら、当然に命です。我慢して下さい」



「う、うむ。取り乱して申し訳ない。して、これは一体何なのかね?」

大の大人が形無しだが、それでも気丈に振る舞う所を見るに流石は都督である。



「ディーイー団長が護衛にと付けてくれた"精霊王"です。私も詳しい事は分かりませんが、闇や次元を司るそうですよ」



またもや平然と答えられ、再度唖然とさせられるイェシン。

「精霊王……」



そんな父親と対照的な娘へ、ティミドは不思議そうに尋ねた。

「ふむ…ヤオシュ団長は平気そうですね? 私も最初は縮み上がりましたよ」



「いえいえいえ! こう見えて凄く怖がってますよ。背中なんか汗でビシッショリですし…」



『感情が表情に出にくい質なのかな?』

「そうなんですね。え〜と…この銀冠の女王を、都督閣下の護衛に置いて問題ありませんか?」



頷くヤオシュ。

「はい、お願いします。ところで…都督府を包囲している黄金の二個師団は、どうなるのでしょうか?」



『う…どうしよう』

ティミドの胸中は焦燥で一杯になる。

何故なら妄執の軍団(メタニオン)には効果時間が有り、それを知られる事は弱点になるからだ。



ティミドの心中を察したのか、シンが透かさず提案した。

「頃合いを見て送還すれば良いかと。現時点で都督府自体を落とす戦力は、アドウェナが持っているとは思えません。ですが念の為、ある程度は周囲を防衛させるのが良いかと」



『流石はシンさん!』

「そう私も思います。軍団の指揮官には私から指示しておきますね」

内心でドキドキしながらも、ティミドは然も当然のように告げた。



「分かりました。では早々に支度をして迷宮へ向かいましょう」



するとリキが少し面倒そうにボヤいた。

「やっと迷宮から戻ったと思えば、また行かなきゃならんのか…」


「ぐえっ?! ぐはっ!」

その直後にリキの悲鳴が2つ続く。

ガリーとシンから肘鉄を殆ど同時に食らったのだ。



「リキさん…ボヤいても良いけど、時と場所を選んでよ」

「そうですよ。貴方は少し繊細さが足りませんね」



「うぅぅ…ちょっと文句垂れただけなのに、酷い…」

ガリーとシンにダメ出しをされ、しゅん…となるリキ。

200cm近くある巨躯が、縮こまって実に情けない状態だ。



「プッ!」

「フフッ…!」

急に笑い出すイェシンとヤオシュ。



「な、何だ…?」

何故に笑っているのかは分からないが、自分が笑い物にされているのをリキは理解した。



「いや…いつも君達は、そんな感じなのかね? 仲が良いと言うか、飾らないと言うか…フフフッ」

イェシンは大笑いするのを何とか堪えて答える。


先程までの緊張は何処へやら状態だ。

ノクスの圧など吹き飛ばす位に、リキの振る舞いや扱いが面白かったようである。



「そんな事言われてもなぁ。まぁ俺に対する仲間の扱いは、いつもこんな感じに雑ではある」



リキの言い様に、即座に突っ込むガリー。

「それはリキさんの自業自得でしょうが。まるで俺達に配慮が無いみたいな言い方は止めて!」



そしてシンは、リキの事などお構いなしな言い様だ。

「彼の言っている事はお気に為さらずに。差し当たっては如何にして迅速に迷宮へ向かうか、それを皆さんで考えましょう」



「迅速に迷宮へ向かう…か」

執務椅子に腰を下ろしたイェシンは、どうしたものかと考え込む。

ティミドの説明では迷宮の中層が完全に崩壊している…つまり最下層へ降りる事が物理的に無理なのである。



「お父様、封印してある経路を使っては?」



ヤオシュの提案に、イェシンは失念していた事を自覚する。

「その手があったか。しかし…あれが何処に繋がっているか明確では無い」



「それなら心配には及びません。密かに黒金の蝶で調査を進め、最下層への経路を見つけてあります。只…」

そこまで言ったヤオシュは、その先を言い淀んだ。



首を傾げるティミド。

「…? 封印してある経路とは何ですか?」



「都督府で管理している迷宮の入り口です。随分と昔に発見された物ですが、強力な魔獣の出現が相次いで封印する事になりました」



「それが最下層に繋がっていると?」



ヤオシュは頷き、困った表情で告げた。

「はい。只、本当に危険な魔獣が出現します。恐らくですが、迷宮の主人(アドウェナ)が非常時に使用する経路なのかも知れません」



彼女が言い淀んだ理由に気付くティミド。

「あ…下手をすればアドウェナと鉢合わせすると?」



「飽く迄も可能性ですが…ディーイー様の強さを認識すれば、きっと被害を最小限にして逃げ出す筈なのです。あれは計算高い存在ですから…」

そのヤオシュの語調には、やりきれない情動が含まれていた。



可能であればアドウェナを捕らえたい。

されどアドウェナを傷付けずに捕えるのは、自分達の実力では到底無理だ。

その彼女のジレンマを思うと、ティミドは気の毒に思えた。


『はぁ……協調するとは言ったけど、深入りしすぎるのも良く無いわよね』

だからと言って手を差し伸べないのは、永劫の騎士(アイオーン・エクェス)として如何なものかとも思える。

これは謂わゆる"持つ者"の誇りの問題だ。


故にティミドは"可能な限り"助ける意を決した。

「鉢合わせするなら、それはそれで好機です。黄金騎士を分隊規模で随行させれば問題無いでしょう」



「ティミドさん……有難う御座います」

ヤオシュは深く頭を下げたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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