1541話・対アドウェナ共同戦線
刹那の章IV・月の姫(26)と(最終話)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
影に潜ませていた銀冠の女王を呼び出したティミド。
出現と同時に、その圧倒的な存在感が居合わせたイェシンを震え上がらせた。
『えぇぇ?! そこまで驚く事なの?!』
逆にティミドが驚かされる羽目に。
驚いて転倒した父を、ヤオシュが起こしながら言った。
「ティミドさん…まさか"それ"を此処に残すつもりですか?」
その語調には恐怖の中に、申し訳なさが含まれていた。
「え? でも…これくらい強力でないと、迷宮の主人に対抗出来ませんよ?」
何を躊躇うのか不思議に思うティミド。
魔神を雑兵の如く扱う…それがアドウェナなのだ。
ならば上回る戦力は絶対に必要になる。
人間を震え上がらせる闇の精霊王だが、そこは我慢して貰うしか無い。
「そ、そうですか…」
諦めた様子で返したヤオシュは、イェシンへ続けた。
「お父様…恐怖と命の危機を天秤にかけるなら、当然に命です。我慢して下さい」
「う、うむ。取り乱して申し訳ない。して、これは一体何なのかね?」
大の大人が形無しだが、それでも気丈に振る舞う所を見るに流石は都督である。
「ディーイー団長が護衛にと付けてくれた"精霊王"です。私も詳しい事は分かりませんが、闇や次元を司るそうですよ」
またもや平然と答えられ、再度唖然とさせられるイェシン。
「精霊王……」
そんな父親と対照的な娘へ、ティミドは不思議そうに尋ねた。
「ふむ…ヤオシュ団長は平気そうですね? 私も最初は縮み上がりましたよ」
「いえいえいえ! こう見えて凄く怖がってますよ。背中なんか汗でビシッショリですし…」
『感情が表情に出にくい質なのかな?』
「そうなんですね。え〜と…この銀冠の女王を、都督閣下の護衛に置いて問題ありませんか?」
頷くヤオシュ。
「はい、お願いします。ところで…都督府を包囲している黄金の二個師団は、どうなるのでしょうか?」
『う…どうしよう』
ティミドの胸中は焦燥で一杯になる。
何故なら妄執の軍団には効果時間が有り、それを知られる事は弱点になるからだ。
ティミドの心中を察したのか、シンが透かさず提案した。
「頃合いを見て送還すれば良いかと。現時点で都督府自体を落とす戦力は、アドウェナが持っているとは思えません。ですが念の為、ある程度は周囲を防衛させるのが良いかと」
『流石はシンさん!』
「そう私も思います。軍団の指揮官には私から指示しておきますね」
内心でドキドキしながらも、ティミドは然も当然のように告げた。
「分かりました。では早々に支度をして迷宮へ向かいましょう」
するとリキが少し面倒そうにボヤいた。
「やっと迷宮から戻ったと思えば、また行かなきゃならんのか…」
「ぐえっ?! ぐはっ!」
その直後にリキの悲鳴が2つ続く。
ガリーとシンから肘鉄を殆ど同時に食らったのだ。
「リキさん…ボヤいても良いけど、時と場所を選んでよ」
「そうですよ。貴方は少し繊細さが足りませんね」
「うぅぅ…ちょっと文句垂れただけなのに、酷い…」
ガリーとシンにダメ出しをされ、しゅん…となるリキ。
200cm近くある巨躯が、縮こまって実に情けない状態だ。
「プッ!」
「フフッ…!」
急に笑い出すイェシンとヤオシュ。
「な、何だ…?」
何故に笑っているのかは分からないが、自分が笑い物にされているのをリキは理解した。
「いや…いつも君達は、そんな感じなのかね? 仲が良いと言うか、飾らないと言うか…フフフッ」
イェシンは大笑いするのを何とか堪えて答える。
先程までの緊張は何処へやら状態だ。
ノクスの圧など吹き飛ばす位に、リキの振る舞いや扱いが面白かったようである。
「そんな事言われてもなぁ。まぁ俺に対する仲間の扱いは、いつもこんな感じに雑ではある」
リキの言い様に、即座に突っ込むガリー。
「それはリキさんの自業自得でしょうが。まるで俺達に配慮が無いみたいな言い方は止めて!」
そしてシンは、リキの事などお構いなしな言い様だ。
「彼の言っている事はお気に為さらずに。差し当たっては如何にして迅速に迷宮へ向かうか、それを皆さんで考えましょう」
「迅速に迷宮へ向かう…か」
執務椅子に腰を下ろしたイェシンは、どうしたものかと考え込む。
ティミドの説明では迷宮の中層が完全に崩壊している…つまり最下層へ降りる事が物理的に無理なのである。
「お父様、封印してある経路を使っては?」
ヤオシュの提案に、イェシンは失念していた事を自覚する。
「その手があったか。しかし…あれが何処に繋がっているか明確では無い」
「それなら心配には及びません。密かに黒金の蝶で調査を進め、最下層への経路を見つけてあります。只…」
そこまで言ったヤオシュは、その先を言い淀んだ。
首を傾げるティミド。
「…? 封印してある経路とは何ですか?」
「都督府で管理している迷宮の入り口です。随分と昔に発見された物ですが、強力な魔獣の出現が相次いで封印する事になりました」
「それが最下層に繋がっていると?」
ヤオシュは頷き、困った表情で告げた。
「はい。只、本当に危険な魔獣が出現します。恐らくですが、迷宮の主人が非常時に使用する経路なのかも知れません」
彼女が言い淀んだ理由に気付くティミド。
「あ…下手をすればアドウェナと鉢合わせすると?」
「飽く迄も可能性ですが…ディーイー様の強さを認識すれば、きっと被害を最小限にして逃げ出す筈なのです。あれは計算高い存在ですから…」
そのヤオシュの語調には、やりきれない情動が含まれていた。
可能であればアドウェナを捕らえたい。
されどアドウェナを傷付けずに捕えるのは、自分達の実力では到底無理だ。
その彼女のジレンマを思うと、ティミドは気の毒に思えた。
『はぁ……協調するとは言ったけど、深入りしすぎるのも良く無いわよね』
だからと言って手を差し伸べないのは、永劫の騎士として如何なものかとも思える。
これは謂わゆる"持つ者"の誇りの問題だ。
故にティミドは"可能な限り"助ける意を決した。
「鉢合わせするなら、それはそれで好機です。黄金騎士を分隊規模で随行させれば問題無いでしょう」
「ティミドさん……有難う御座います」
ヤオシュは深く頭を下げたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




