1540話・都督府制圧(3)
刹那の章IV・月の姫(25)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「おいおい…あれだけの事が起きたのに、何にも知らねぇって、どう言う事だ?」
リキに呆れた様子で突っ込まれ、キョトン…とするイェシンとヤオシュ。
「…?」
「あれだけの事とは?」
この反応にティミドも怪訝に感じる。
『迷宮の中層が崩壊したのに、地上に何も知らせが行っていない?!』
協力者である都督の元に、迷宮の主人から報告があって然るべきなのだ。
『あ…そうか!』
よくよく考えれば自分が不利な事を、協力を強要したであろう相手に教える訳が無い。
「状況を整理します。え〜と…都督閣下とヤオシュ団長は、奥方を"人質"にされているのですよね?」
頷くイェシン。
「いかにも、その通りだ。妻を無事に返して欲しくば、その代わりとなる若くて健全な依代を探せと。それに飽き足らず、今では奴の企みの片棒を担がされる始末だ」
「ふむ……では迷宮の入口にある防塞ですが、衛兵が1人も居ませんでした。都督閣下が根回しした訳では無いのですよね?」
これにはヤオシュが答えた。
「それはサーディクに私が指示しました。迷宮へ他の傭兵が入らないよう一時的に閉鎖したのです。その時に防塞内側の衛兵は撤収したのでしょう」
「あ〜〜成程…」
合点がいったティミド。
要するに自分達を始末する為に、余計な邪魔を入らせないよう段取った訳だ。
そうなると今度はサーディクの行方が気になってくる。
「サーディク副団長は都督府かギルド拠点に戻っているのですか?」
ヤオシュは首を横に振った。
「いえ…地上に戻った形跡が有りません。ひょっとすればアドウェナの元に居るのかも…」
そう答えた表情から、心配する情動が僅かに読み取れる。
『まぁ心配して当然か。大事な腹心だろうし…』
だがティミドとしては、不用意に慰めの言葉は言えない。
"あれだけ"迷宮が破壊されて、サーディクが巻き込まれていないとは断言出来ないからだ。
するとイェシンが困った表情を浮かべる。
「私の質問には答えて貰えないなかね?」
「…? あっ…そうでした。迷宮で何が起きたのか、大まかに説明しましょう」
うっかりしていたとばかりにティミドは説明を始めた。
※
※
※
「そんな事が…人間に可能なのか?!」
ティミドから何があったのか聞かされ、イェシンは半ば唖然としながら呟いた。
恐らく世界でも類を見ない巨大な迷宮を、たった一人の人間が半壊させた…そんな事実を聞かされては当然だろう。
そんなイェシンに、ティミドは追い打ちのように告げた。
「只の人間ならば不可能でしょう。ですがディーイー団長は人知を超えた叡智を持ち、強大な禁呪級以上の魔法を操れます。この都督府を2個師団の黄金騎士が包囲していますよね、それが良い証拠ですよ」
「……」
「………」
完全に唖然としてしまうイェシンとヤオシュ。
ティミドは二人の反応に苦笑いをする。
『まぁ仕方が無いわよね…』
あんなに小柄で可愛らしく、また絶世の美貌を備えた存在なのだから。
我に返ったヤオシュが尋ねた。
「……その、ディーイー様は何処に居られるのですか? まだ迷宮に?」
「団長はハクメイ姫の奪還…またヤオシュへの報復に向かわれました。私達は先を見越して此処に来たまでです」
「報復……」
少し思考した後、ヤオシュは慌てた。
「…! 不味いのでは? ディーイー様が本気を出せばヤオシュは……」
その魂は肉体元共に吹き飛ばされるに違いない。
溜息が出るティミド。
「はぁ……だから言ってるんですよ、迷宮に戻る必要があると。私達の目的は、ハクメイ姫の奪還とアドウェナへの報復です。そこに都督妃の奪還まで加わると、報復は一旦止めねば為りません…つまり団長を止める必要があります」
漸く察した都督が慌てて立ち上がった。
「…! こんな所で悠長にしては居られない!! 急いで迷宮の最下層へ向かわねば!!」
ここでシンが静かに割って入ってくる。
「宜しいのですか? 今、都督閣下が此処を離れては、それこそ後々で不味くなるかと? それに私達へ同行して迷宮へ向うほどの武力が御有りで?」
「……君達が言い触らせた事か。そうだな……それも収拾せねば為るまい。だが事実でもある。私の名誉や権威が失墜しても仕方が無い……甘んじて受け入れるんべきだろう」
そう観念した様子で答えるイェシン。
その様子から、最も優先されるものが”妻”だと明白に伝わって来た。
イェシンにとって妻を救う唯一の機会となる…それが理解出来るだけに、ティミドとしても同行を許可したい。
しかし”可能性”を鑑みるなら、保険を懸けておくに越した事は無い。
「名誉云々はどうでも良いのですが、アドウェナが此処に逃げて来るかも知れません。ですから都督には残って貰います」
「確かに有り得ない事では無いな。だが私ではアドウェナを相手に成す術が無いのも事実。どうすれば……」
納得するが途方に暮れる都督に、ティミドは少し呆れてしまう。
『おいおい…大事な妻の事になれば、途端に冷静さを失うの?』
都督然と構えて、理知的に言葉で抑え込めば良いのである。
嘘であろうが何だろうが、全てを駆使すれば遣り様は有る物だ。
『まぁ結局は只の人間って事なのか…』
主君に仕える故に、一般的な感覚から乖離してしまっている自分を理解した。
なら都督には”常識を踏まえて”手助けは必要だろう。
「分かりました。なら強大な護衛を更に付けましょう。既に2個師団の黄金騎士が居ますが、都督府を包囲しているだけですしね」
そう告げたティミドは静かに続けた。
「銀冠の女王ノクス…出てきてくれるかしら?」
そうするとティミドの影から何かがヌ~っと湧き上がった。
されど湧き水のように純粋な物では無く、見るだけで恐怖に苛まれる漆黒の何か。
これを目の当たりにした都督は、余りの恐怖に蹈鞴を踏み、そのまま椅子に膝裏を当てて盛大に転倒した。
『ちょっ!? そこまで驚く事なの?!』
「と、都督閣下! 大丈夫ですか?!」
結果、慌てて駆け寄る羽目になるティミドであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




