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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1540話・都督府制圧(3)

刹那の章IV・月の姫(25)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

「おいおい…あれだけの事が起きたのに、何にも知らねぇって、どう言う事だ?」



リキに呆れた様子で突っ込まれ、キョトン…とするイェシンとヤオシュ。

「…?」

「あれだけの事とは?」



この反応にティミドも怪訝に感じる。

『迷宮の中層が崩壊したのに、地上に何も知らせが行っていない?!』

協力者である都督の元に、迷宮の主人(アドウェナ)から報告があって然るべきなのだ。


『あ…そうか!』

よくよく考えれば自分が不利な事を、協力を強要したであろう相手に教える訳が無い。

「状況を整理します。え〜と…都督閣下とヤオシュ団長は、奥方を"人質"にされているのですよね?」



頷くイェシン。

「いかにも、その通りだ。妻を無事に返して欲しくば、その代わりとなる若くて健全な依代を探せと。それに飽き足らず、今では奴の企みの片棒を担がされる始末だ」



「ふむ……では迷宮の入口にある防塞ですが、衛兵が1人も居ませんでした。都督閣下が根回しした訳では無いのですよね?」



これにはヤオシュが答えた。

「それはサーディクに私が指示しました。迷宮へ他の傭兵が入らないよう一時的に閉鎖したのです。その時に防塞内側の衛兵は撤収したのでしょう」



「あ〜〜成程…」

合点がいったティミド。

要するに自分達を始末する為に、余計な邪魔を入らせないよう段取った訳だ。


そうなると今度はサーディクの行方が気になってくる。

「サーディク副団長は都督府かギルド拠点に戻っているのですか?」



ヤオシュは首を横に振った。

「いえ…地上に戻った形跡が有りません。ひょっとすればアドウェナの元に居るのかも…」

そう答えた表情から、心配する情動が僅かに読み取れる。



『まぁ心配して当然か。大事な腹心だろうし…』

だがティミドとしては、不用意に慰めの言葉は言えない。

"あれだけ"迷宮が破壊されて、サーディクが巻き込まれていないとは断言出来ないからだ。



するとイェシンが困った表情を浮かべる。

「私の質問には答えて貰えないなかね?」



「…? あっ…そうでした。迷宮で何が起きたのか、大まかに説明しましょう」

うっかりしていたとばかりにティミドは説明を始めた。


   ※

   ※

   ※


「そんな事が…人間に可能なのか?!」

ティミドから何があったのか聞かされ、イェシンは半ば唖然としながら呟いた。

恐らく世界でも類を見ない巨大な迷宮を、たった一人の人間が半壊させた…そんな事実を聞かされては当然だろう。



そんなイェシンに、ティミドは追い打ちのように告げた。

「只の人間ならば不可能でしょう。ですがディーイー団長は人知を超えた叡智を持ち、強大な禁呪級以上の魔法を操れます。この都督府を2個師団の黄金騎士が包囲していますよね、それが良い証拠ですよ」



「……」

「………」

完全に唖然としてしまうイェシンとヤオシュ。



ティミドは二人の反応に苦笑いをする。

『まぁ仕方が無いわよね…』

あんなに小柄で可愛らしく、また絶世の美貌を備えた存在なのだから。



我に返ったヤオシュが尋ねた。

「……その、ディーイー様は何処に居られるのですか? まだ迷宮に?」



「団長はハクメイ姫の奪還…またヤオシュへの報復に向かわれました。私達は先を見越して此処に来たまでです」



「報復……」

少し思考した後、ヤオシュは慌てた。

「…! 不味いのでは? ディーイー様が本気を出せばヤオシュは……」

その魂は肉体元共に吹き飛ばされるに違いない。



溜息が出るティミド。

「はぁ……だから言ってるんですよ、迷宮に戻る必要があると。私達の目的は、ハクメイ姫の奪還とアドウェナへの報復です。そこに都督妃の奪還まで加わると、報復は一旦止めねば為りません…つまり団長を止める必要があります」



漸く察した都督イェシンが慌てて立ち上がった。

「…! こんな所で悠長にしては居られない!! 急いで迷宮の最下層へ向かわねば!!」



ここでシンが静かに割って入ってくる。

「宜しいのですか? 今、都督閣下が此処を離れては、それこそ後々で不味くなるかと? それに私達へ同行して迷宮へ向うほどの武力が御有りで?」



「……君達が言い触らせた事か。そうだな……それも収拾せねば為るまい。だが事実でもある。私の名誉や権威が失墜しても仕方が無い……甘んじて受け入れるんべきだろう」

そう観念した様子で答えるイェシン。

その様子から、最も優先されるものが”妻”だと明白に伝わって来た。



イェシンにとって妻を救う唯一の機会となる…それが理解出来るだけに、ティミドとしても同行を許可したい。

しかし”可能性”を鑑みるなら、保険を懸けておくに越した事は無い。

「名誉云々はどうでも良いのですが、アドウェナが此処に逃げて来るかも知れません。ですから都督には残って貰います」



「確かに有り得ない事では無いな。だが私ではアドウェナを相手に成す術が無いのも事実。どうすれば……」



納得するが途方に暮れる都督に、ティミドは少し呆れてしまう。

『おいおい…大事な妻の事になれば、途端に冷静さを失うの?』

都督然と構えて、理知的に言葉で抑え込めば良いのである。

はったりであろうが何だろうが、全てを駆使すれば遣り様は有る物だ。


『まぁ結局は只の人間って事なのか…』

主君プリームスに仕える故に、一般的な感覚から乖離してしまっている自分を理解した。

なら都督には”常識を踏まえて”手助けは必要だろう。


「分かりました。なら強大な護衛を更に付けましょう。既に2個師団の黄金騎士が居ますが、都督府を包囲しているだけですしね」

そう告げたティミドは静かに続けた。

「銀冠の女王ノクス…出てきてくれるかしら?」



そうするとティミドの影から何かがヌ~っと湧き上がった。

されど湧き水のように純粋な物では無く、見るだけで恐怖に苛まれる漆黒の何か。


これを目の当たりにした都督は、余りの恐怖に蹈鞴たたらを踏み、そのまま椅子に膝裏を当てて盛大に転倒した。



『ちょっ!? そこまで驚く事なの?!』

「と、都督閣下! 大丈夫ですか?!」

結果、慌てて駆け寄る羽目になるティミドであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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